初夏のイギリスの田園風景。雨上がりの朝、爽やかな日差しの中を3人の少女が仲良く楽しそうに歩いています。前にいる小さな女の子は一年生でしょうか。本を見ながら何かを話しているお姉さんたちの声に、分からないながらも耳を傾けているようです。
原画の作者であるエドワード・デイヴィス(Edward Davis, 1833 - 1867)は十九世紀半ばのイギリスの画家で、若くしてローマで没しました。彼の絵は非常に細心で丁寧な仕上げが特徴で、この絵においても子供の表情や姿勢はもちろん、身につけている服や靴の細部にまで及ぶこの上なく自然で写実的な描写に、研究熱心な作風がよく表れています。
版の作者であるウィリアム・リッジウェイ(William Ridgway, fl. 1840 - 1885)は人物画、歴史画、宗教画を得意とするエングレーヴァーで、1863年から 1885年まで、王立アカデミーで作品の展示を行っています。本品「学校への道で」("On the way to school")はロンドンの版元ヴァーチュー・アンド・カンパニー(Virtue & Co, London)が刷った作品で、原画の作者エドワード・デイヴィスの死後、1870年の「アート・ジャーナル」に掲載されました。
上の写真は本品の拡大で、定規のひと目盛りは一ミリメートルです。向かって左側の少女が首に巻いている布と、向かって右側の少女が被る頭巾上部の左半分(明部)にエッチングが用いられていますが、その他はエングレーヴィングです。
先頭を歩く幼い女の子も、全面的にエングレーヴィングで描かれています。本品の人物像においてエッチングが使われているのは、上で指摘した部分と、三人の少女が履いている靴の一部、及び幼い子がワンピースの下に穿いているスカートの裾だけです。背景は土と植物がエッチング、空がエングレーヴィングで描かれています。
夏の嵐が去った直後の空は、少し遠方に厚い雲を残しています。虹の向こう側はまだ暗く、激しい雨が降っていることがわかります。
少女たちの頭上の空を上のように区切り、《B-2》、《C-2》、《C-3》の拡大写真を示します。
上の写真は《B-2》の拡大で、遠ざかってゆく厚い雲に太陽の光が当たっている部分です。《B-2》はすべてエッチングです。エッチングの線の途切れた部分が不規則な線を描いて、大雲を構成するガスの集団が巧みに表現されています。
上の写真は《B-2》のすぐ下、《C-2》の拡大です。右上がりの対角線から左側はエッチング、右側はエングレーヴィングで制作されています。左の雲が切れたあたりから、右下に向けて虹が伸びています。
上の写真は《C-2》の右隣り、《C-3》の拡大です。《C-3》は全面的にエングレーヴィングを使って制作されています。
エングレーヴィングは版に刻む溝の深さと幅を変えることで、溝に入るインクの量を調節し、明暗を表現します。溝の拡大写真を見ると、途中で途切れずにまっすぐに続いていることがわかります。エングレーヴァーは彫刻刀に加える力を加減することで、版画画面の明暗を思いのままに制御しています。多年に亙る修業によってのみ為し得る名人芸です。
この版画は、本品と同じものが大英博物館に収蔵されています。大英博物館における収蔵品番号は、1872,1012.2486 です。
版画は未額装のシートとしてお買い上げいただくことも可能ですが、当店では無酸のマットと無酸の挿間紙を使用し、美術館水準の保存額装を提供しています。上の写真は額装例で、外寸
40 x 31センチメートルの木製額に、緑色ヴェルヴェットを張った無酸マットを使用しています。この額装の価格は 24,800円です。
額の色やデザインを変更したり、マットを替えたりすることも可能です。無酸マットに張るヴェルヴェットは赤や青、ベージュ等に変更できますし、ヴェルヴェットを張らずに白や各色の無酸カラー・マットを使うこともできます。
版画を初めて購入される方のために、版画が有する価値を解説いたしました。このリンクをクリックしてお読みください。