マルセイユの象徴、バジリク・ノートル=ダム=ド=ラ=ガルドの鐘楼頂上にそびえ、「ラ・ボンヌ・メール」(優しい聖母さま)として市民に親しまれる聖母子の巨像、「ノートル=ダム・ド・ラ・ガルド」(守護の聖母)のメダイ。
【下】 参考写真 船乗りが聖母に捧げた船の模型が多数吊り下げられたバジリク・ノートル=ダム=ド=ラ=ガルドの身廊
南フランス最大の港町マルセイユを守護する聖母にふさわしく、ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドは海難事故から守ってくれる聖母として、漁師や船乗りの崇敬を集めています。数あるノートル=ダム・ド・ラ・ガルドのメダイのなかでも、これは極めて稀少なもので、錨(いかり)の形をしています。
錨に取り付けられた直径 9.3ミリメートルのメダイには、ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドの聖母子が浮き彫りにされ、周囲にフランス語で次の言葉が書かれています。
Notre-Dame de la Garde, priez pour nous. ノートル=ダム・ド・ラ・ガルド(守護の聖母)よ、我らのために祈りたまえ。
錨は海の守護聖女ノートル=ダム・ド・ラ・ガルドに深い関係を有するとともに、信仰の拠り所であるイエズス・キリストの象徴でもあります。
このメダイは1910年代から30年代頃、すなわち第一次世界大戦から第二次世界大戦にかけての時期に制作されたものです。第一次世界大戦中、フランスの船舶は荒天等の自然災害のみならず、ドイツの潜水艦の脅威にも曝されていました。戦間期においても、ドイツがヒトラーのもとで再軍備を進めるなか、フランスの船乗りたちは強い不安を感じていたことでしょう。
【下】 参考写真 UボートUC5
【下】 1915年5月7日、Uボートによって沈められたキュナード・ラインのルシタニア号。乗客・乗員 1959人のうち助かったのはわずか 761人で、1198人が亡くなりました。
錨を象(かたど)ったメダイの形からは、航海の安全をノートル=ダム・ド・ラ・ガルドに願うフランスの船乗りの切実な祈りが伝わってきます。