一方の面にクレルモンのノートル=ダム・デュ・ポール、もう一方の面に聖心を示すキリストを浮き彫りにした円形メダイ。
メダイの片面にはオーヴェルニュで最も有名な聖母子像のひとつであるノートル=ダム・デュ・ポールが浮き彫りにされています。聖母はゆったりとした衣を身にまとって幼子イエズスを両手で愛しそうに抱き、幼子イエズスは頭から足先までの全身で母に寄り添っています。幼子を慈しむ聖母が上体を傾(かし)げ、母子が頬を寄せ合う微笑ましい姿はたいへん特徴的です。聖母子の周囲には、フランス語で次の言葉が書かれています。
Notre-Dame du Port, priez pour nous. ノートル=ダム・デュ・ポールよ、我らのために祈りたまえ。
上の写真は実物の面積を50倍に拡大しています。定規のひと目盛は 1ミリメートルです。聖母子の顔、プッティ(子供の天使たち)の顔とも直径 1ミリメートルほどの小ささですが、目鼻立ちの均整がとれているのみならず、母子に通い合う不可視の愛もマリアと幼子の表情を通してよく表されています。本品の浮き彫り彫刻は非常に優れたできばえで、メダイユの国フランスならではの本格的な芸術水準に達しています。
もう片面には右手を挙げて罪びとたちを祝福しつつ、胸を開いて左手で聖心を示すキリストを浮き彫りにしています。上部に十字架を突き立てた聖心は、人知を絶する強さの神の愛ゆえに炎を噴き上げて燃えつつ、強烈な光輝を放っています。
1870年に成立したフランス第三共和政政府はカトリック教会との対決姿勢を強め、1903年からはノートル=ダム・デュ・ポールの行列も挙行を禁じられていましたが、1930年頃から政府と教会の関係が徐々に改善し、1933年からは再び行列が行われるようになりました。また「マリア年」の前年である
1949年には、クレルモン司教区の聖母子像 44体、すなわちノートル=ダム・デュ・ポール以外のすべての聖母子像がクレルモンのバシリカの前庭に集められ、ノートル=ダム・デュ・ポールとともに大々的な行列を行いました。
本品はこのいずれかの機会に制作された作品と思われます。いずれにしても数十年前のメダイですが、保存状態はきわめて良好で、鋳造当時のままのコンディションです。