ブロンズで制作されたメダイ。ベルギーで最も有名な聖母マリアの巡礼地、スヘルペンフーフェルの愛すべき聖母(モンテギュの聖母)の稀少な戴冠記念メダイで、1872年8月25日の日付が入っています。
一方の面には、シェーヌ(ブナ)の樹上にあるモンテギュの聖母を浮き彫りにしています。聖母子は戴冠し、聖母は右手に笏(しゃく)を持ち、左腕に幼子イエズスを抱いています。シェーヌの枝からぶら下がっている幾本もの杖は、聖母の恵みによって障害を癒された人たちが奉納した感謝の捧げもの(エクス・ヴォートー)です。聖母子の左右にはふたりの人物が跪いています。向かって左の人物は帽子を脱いで地面に置き、顔の前に両手を合わせて、戴冠した聖母子を仰ぎ見ています。右の人物はやはり聖母子を見上げながら、ロザリオの祈りを捧げています。
右後方、スヘルペンフーフェルの丘の頂上に見えるのは、ネーデルラントの共同元首、アルベール(アルブレヒト)とイザベル(イサベル)の大公夫妻によって17世紀に建設された聖母のバシリカです。大勢の人々が丘の急坂を上って巡礼に訪れるのが見えます。これらの図柄を囲むように、次の言葉がオランダ語で記されています。
ONZE LIEVE VROUW VAN SCHER PENHEUVEL スヘルペンフーフェルの愛すべき聖母
もう一方の面には聖母の冠を中心に置き、次の言葉を周囲にフランス語で刻んでいます。
SOUVENIR DE COURONNEMENT, 25 AOUT 1872 戴冠記念 1872年8月25日
冠の上部は、いずれも聖母の象徴である薔薇と百合によって交互に飾られています。5世紀のラテン詩人セドゥーリウス (Coelius/Caelius
Sedulius, 5th century) は、「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" 「復活祭の歌」)第2巻で人祖の妻エヴァと聖母マリアを対比し、聖母を薔薇に喩えています。薔薇の花芽は棘のある繁みから生まれますが、棘に傷つくことなく美しい花を咲かせます。ちょうどそれと同じように、薔薇の花たる聖母マリアは、薔薇の棘たるエヴァが犯した罪に傷つくことなく、かえってエヴァの罪を清めます。また百合が聖母の象徴とされるのは、旧約聖書の恋の歌、「雅歌」2章2節にある次の聖句によります。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。
(新共同訳)
商品写真は実物を30倍以上の面積に拡大していますので、突出部分の磨耗が判別できますが、実物を肉眼で見ると、十分に美しいコンディションです。およそ
140年も前に制作されたもので、しかも浅浮き彫りであるにもかかわらず、細部までよく残っています。