「マリアの子ら信心会」(Congrégation des Enfants de Marie) のブロンズ製メダイ。19世紀に制作された古いタイプのメダイです。
一方の面には天上から人々を祝福する聖母子が浮き彫りにされています。聖母は体の前に幼子を抱いて、イエズスこそが救いに至る道であることを示しつつ、右手に掲げたロザリオを地上の人々に分け与えています。幼子イエズスが両手で持っているのは薔薇の花輪ですが、これはロザリオの本来の形ですから、聖母子ともに、人々にロザリオの祈りを勧め、必要な信心具を与えている光景と考えることができます。
【下・参考画像】 薔薇の花輪すなわちロザリオを人々に分け与える聖母子。ヴェネツィアのドイツ人コミュニティのために、アルブレヒト・デューラーが製作した作品。
Albrecht Dürer, Feast of the Rose Garlands, 1506, oil on popular panel, 194 x 162
cm, National Gallery, Prague
聖母子がロザリオを分かち与えている天上から目を移すと、地上では19世紀の服装をした人々が聖母子を仰いで跪き、胸の前に手を組み合わせて祈っています。以上の図像を取り巻くように、「マリアの子ら信心会」(Congrégation
des Enfans de Marie) と古い綴りのフランス語(註)で書かれています。
メダイのもう一つの面を見ると、やはり同じ4人が祈りをささげていますが、仰ぎ見る視線の先にあるのはキリストの十字架です。
神は全能ですから、人間の罪を赦すには、ひと言「赦す」といえば足りたはずです。それにもかかわらず、三位一体の第二位のペルソナ、子なる神が人間の女性マリアによって受肉し、磔刑に処せられるという最も考え難い方法で、救世が成し遂げられました。それゆえロザリオを唱えてマリアに倣い、マリアのように神とキリストを愛することが、神とキリストの愛に応える救いへの道であると考えられます。
この面の図像を取り囲むように、次のフランス語が記されています。
à Jesus par Marie マリアを通してイエズスへ
このメダイはブロンズでできており、「アンファン」の綴りをはじめ、数々の古い特徴を残した19世紀の稀少なメダイです。摩耗の程度もごく軽く、100年以上前の品物としては十分に良好なコンディションです。
註 フランス語の「子供」(enfant) は、「(まともに)話せない」「片言を話す」という意味のラテン語の動詞 "INFOR"
(現在不定形 INFARI)の現在分詞 "INFANTEM"(単数対格)に由来します。
ラテン語の現在分詞は "T" で終わる黙音幹の語ですから、これに由来するフランス語「アンファン」は、語源的正書法の見地からいえば、発音しない
"t" を省略せずに "enfant" と表記すべきです。
以上の理由で、現代フランス語の正書法では、「子供たち」は "enfants" と綴られます。しかし正書法が確立する以前の古い時代には、"enfans"
という綴りも実際には行われていました。