ベルギー、ワロン地域のリエージュ州にあるコミューン、スプリモン (Sprimont) の小村バヌー (Banneux) に現れた聖母、「貧しき者のおとめ」(Vierge des Pauvres) のメダイ。バヌーの聖母は 1933年1月15日から3月2日まで、当時11歳の少女マリエット・ベコ (Mariette Beco) に対し、8回に亙って出現し、聖母が示した泉から湧き出た水は数々の奇跡を起こして巡礼者を集めています。
メダイは珍しいハート形で、バヌーの聖母を手描きのエナメル画で描いています。ヴェールを被って右手首にロザリオを掛けた聖母は、優しい眼差しを下に向けて、跪(ひざまず)く少女マリエットを見守っています。
バヌーの聖母が出現した年である 1933年は第二次世界大戦の前夜です。1月30日にはアドルフ・ヒトラーがドイツの首相に就任しました。2月27日夜にはドイツ国会議事堂が放火によって焼失し、ヒトラーはこの事件を共産党員のしわざであるとして3月23日に全権委任法
(Ermaechtigungsgesetz) を成立させます。バヌーの聖母の出現は、これらの出来事と時期的にちょうど重なります。
聖母がマリエットに伝えたメッセージは、「よく祈りなさい」というものでした。同じく子供に対して出現したラ・サレットの聖母やファティマの聖母と同様に、バヌーの聖母も諸国民に対して警告するために出現したのかもしれませんが、少女マリエットに対する聖母の眼差しはあくまでも優しく、前屈みの姿勢には少女を温かく包み込む慈愛を感じます。
このメダイのサイズはごく小さく、エナメル画に描かれた聖母のサイズは高さ 9ミリメートル、顔は縦横各 2ミリメートルしかありません。それにもかかわらず聖母はたいへん端正な顔立ちに描かれ、絵付をした画家の優れた技量を証明しています。
メダイの裏面にはバヌーの礼拝堂が浮き彫りにされています。礼拝堂の隣にある泉からは日量約 800リットルの水が湧き出ており、病気治癒を願って巡礼に訪れる人々を祝福するミサが毎日行われています。
メダイは鋳型に流し込んで作りますから通常は「一点物」といえませんが、このメダイは優れた出来栄えの聖画を手描きしてあり、まったく同じものはふたつとありません。保存状態もきわめて良好です。銀の硫化が気になる場合は、ブラシに少量の練り歯磨きを付けて軽くこすれば新品同様になります。