数十年前のフランスで制作された金色の小メダイ。
本品は小さな円形メダイを八角形の枠で囲んだ珍しいデザインです。円形メダイには、直径七ミリメートルの小さな画面に、十字架に取りすがって涙を流すマグダラのマリアを浮き彫りにしています。
伝統的キリスト教美術において、聖母をはじめとする聖女たちは髪をヴェールで覆った姿で描かれますが、マグダラのマリアは例外です。マグダラのマリアはもともと娼婦であったとも伝えられ、長い髪をヴェールで隠さず、若い女性の魅力を強調した姿で表されます。
マグダラのマリアはイエスの足にナルドの香油を注ぎ、自らの髪で拭ったともされるゆえに、長く美しい髪は「ナルドの香油」のエピソードにも関連しています。それゆえマグダラのマリアの長い髪は、本品にも浮き彫りにされている香油の壺とともに、この聖女のアトリビュート(聖人を同定する手がかりとして図像に描かれる特徴や物品)となっています。
商品写真は実物の面積を数十倍から百倍以上に拡大しています。大きく拡大したこれらの写真を見ると、聖女の整った顔立ち、目から零れ落ちる涙、波打つ豊かな髪、衣のデザインと襞、くぎを打ち込まれたイエスの傷口、下肢の筋肉、苦痛にひきつり反り返る足指、それを優しく抱きしめる聖女の手、ほっそりとした聖女の指など、肉眼では十分に識別できない細部が、恐るべき精緻さで表現されていることがわかります。上の写真に写っている定規のひと目盛は、一ミリメートルです。本品のようなサイズのミニアチュール彫刻において、細部を写実的に表現するには、十分の一ミリメートル以下の精度で浮き彫りを制作する必要があります。フランスはメダイユ彫刻が最も発達した国であり、グラヴール(メダイユ彫刻家)の高度な技術は、人間業とは思えないほどの域に到達しています。
本品は二十世紀中頃のフランスで制作された真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。浮き彫りは突出部分も磨滅しておらず、制作された時のままの細密さを保っています。特筆すべき問題は何もありません。