小さな高級品 パリの守護を神に祈るジュヌヴィエーヴ 銀無垢の美麗メダイ 直径 13.3 mm


突出部分を除く直径 13.3 mm

フランス  1900 - 10年頃



 指先に載る小さなサイズながら、800シルバーで制作された高級メダイ。

 本品には、野に跪き、天を仰いで神に祈る聖女の姿が刻まれています。聖女の後ろには数頭の羊たちが草を食んでいます。聖女は上半身に近世風のコルスレ(corselet ボディス、短い胴衣)を着けており、ピブラックの聖ジェルメーヌ・クザンのようにも見えますが、スカートは古代の寛衣の下半身部分に似ています。聖女の名前は書かれていません。この聖女は誰でしょうか。





 メダイ右側の遠景には、塔のある大きな町が見えています。塔のあるこの町はルテティア(Lutetia 現在のパリ)を象徴しています。したがってこの聖女は、出身地ナンテール(Nanterre パリの北西郊外)で羊を飼う聖ジュヌヴィエーヴ (St. Geneviève, c. 419/422 - 512) の、若き日の姿です。聖ジュヌヴィエーヴは、パリの守護聖人として親しまれています。

 遠景に見える町の姿は、考古学的考証に基づいて再現したルテティアを北西方向から見た様子を彫ったわけではなく、聖女が羊を飼うナンテールの村が、大きな町ルテティアの近郊であることを示すための意匠です。それと同様に、聖ジュヌヴィーエーヴが身に着けている近世風のコルスレについても、いわば女性の古典的衣装として、浮き彫りの意匠に採用されたものと考えられます。




(上・参考画像) Puvis de Chavannes, "Ste. Geneviève ravitaillant Paris", "Ste. Geneviève veillant sur Paris endormi", 1893 - 98, huile sur toile, Panthéon, Paris


 クローヴィスの父であるサリ族の王シルデリク1世が464年にルテティア(パリ)を攻囲し、市中に食糧が無くなったとき、ジュヌヴィエーヴは決死の覚悟で船を仕立てて、トロワから食糧を運び込びました。

 上の画像はピュヴィス・ド・シャヴァンヌがパンテオンに納めた油彩の大作「パリに食糧をもたらす聖ジュヌヴィエーヴ」("Ste. Geneviève ravitaillant Paris") 及び「眠るパリを見守る聖ジュヌヴィエーヴ」("Ste. Geneviève veillant sur Paris endormi") です。これら二点は、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌが死の直前に完成させた最後の作品です。

 「眠るパリを見守る聖ジュヌヴィエーヴ」について、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌは「ジュヌヴィエーヴは、子を想う信仰深き母の愛情を以って、眠れるパリを見守っている」("Geneviève, soutenue par sa pieuse sollicitude, veille sur Paris endormi.") と書き遺しています(下線は広川)。"soutenue par sa pieuse sollicitude" を直訳すると「敬虔な配慮に支えられて」となりますが、"sollicitude"(配慮、世話)というフランス語は、母が幼い子供を心配してあれこれと世話を焼くような場合に使われる言葉であり、守護されるべきパリを常に気に懸ける守護聖女ジュヌヴィエーヴの、母のように強い愛情と優しさを感じさせます。





 上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。聖女の顔や手、羊の頭部等は 1、2ミリメートルの大きさしかありません。極小サイズのミニアチュール彫刻であるにもかかわらず、衣の流れや風になびくヴェールの表現はごく自然であり、衣の下には若い女性らしい体つきが見て取れます。19世紀から20世紀初頭頃のフランスにおいて、有能なメダイユ彫刻家が見せる芸術家としての才能、職人としての腕前は、真に驚嘆に値します。跪くジュヌヴィエーヴの足下に、イニシアルによる控えめなサイン (A. S.) が読み取れます。

 聖ジュヌヴィエーヴの後光の上部には、800シルバー製を示す「イノシシの頭」のポワンソン(ホールマーク)が刻印されています。800シルバーはフランスの信心具に使われる最も高級な素材であり、小さいながらも銀無垢製の本品には、パリの守護を聖女に願う当時の人々の祈りが籠められています。





 もう一方の面には、三輪の花を咲かせる百合が浮き彫りにされています。百合の花はいずれも大きく、強く香(かぐわ)しい薫りを放っています。

 百合は純潔、徳の高さを表すとともに、神による「選び」を象徴しています。本品に彫られた三輪の百合は、三位一体の神が聖ジュヌヴィエーヴを婢(はしため)として選び、御業のために力を与えて働かせ給うたことを表しています。




(上・参考画像) 第一次世界大戦の戦争孤児・戦災孤児のためのブロンズ製プラケット ゴドフロワ・デフリーゼ作 「孤児の花」 62.2 x 46.7 mm 69.3 g 当店の商品です。


 本品が制作された20世紀初頭は、第一次世界大戦を直後に控えた時代です。当時の人々はバルカン半島で起こった小さな戦火が未曽有の世界大戦に発展し、パリをはじめとするフランスの全土が荒廃するとは予想だにしていませんでした。この美しい小品を手に取るとき、後の歴史を知る我々は、心の痛みを抑えることができません。





 本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は良好で、特筆すべき問題は何もありません。商品写真は実物を数十倍から百倍以上の面積に拡大していますので、突出部分の磨滅が容易に判別できますが、肉眼で実物を見ると、時が与えた優しい丸みが銀の輝きに温かみを添えており、たいへん美しい作品です。直径 13ミリメートルという愛らしいサイズはどんな服装にもよく合い、上品なペンダントとしてご愛用いただけます。





本体価格 9,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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