粗い修道服に身を包み、神に祈るアッシジの聖フランチェスコを肉厚の浮き彫りで表現したメダイ。
聖人の両手には聖痕の生々しい傷が見えます。聖フランチェスコの周囲には、中世風のアンシャル書体によるフランス語で、聖人に執り成しを求める祈りの言葉が書かれています。
Saint François d'Assise. priez pour nous. アッシジの聖フランチェスコよ、我らのために祈りたまえ。
聖人の腰のあたり、メダイの縁に、高さ 0.5ミリメートルほどの小さな文字で、次の刻印があります。
PENIN PONCET
リュドヴィク・ペナン (Ludovic Penin, 1830 - 1868) とジャン・バティスト・ポンセ (Jean-Baptiste
Poncet, 1827 - 1901) はいずれもリヨンのメダイユ彫刻家で、いくつもの共作を発表しています。聖フランチェスコを浮き彫りにしたこの作品は、ペナンとポンセの共作によるメダイユの中でも特に評価が高く、20世紀に入っても鋳造されました。
聖人の手には1224年9月に受けたスティグマタ(聖痕)が見えます。これはキリストと同じ磔刑の釘の傷で、十字架から懸垂する体の重みで引き裂かれ、大きく広がっています。フランチェスコは聖痕の傷が元で亡くなるのですが、メダイの聖人は未だ現世にありながら、その視線は地上の事物のうちに神の業を見い出し、魂はひたすら天に焦がれています。彫刻家は傷にやつれた聖人の眼を天に向けさせ、聖痕を神に感謝して祈る姿を彫ることにより、神と万人に愛されるこの聖人の、限りなく純粋でありながらも限りなく深遠な精神性を、優れた芸術的才能によって見事に捉え、余すところなく表現しきっています。
聖人の手の指、掌と手の甲の起伏、生々しい聖痕、写実的な聖人の表情、髪の毛とひげ、さらに修道衣の粗さをうかがわせる襞の付き方、荒縄とその結び目など、まるで聖フランチェスコ自身が眼前に立っているかのような錯覚さえ覚えさせる正確で細かい浮き彫りが、優れた職人的技量を証明しています。
裏面には一輪の白百合が浮き彫りにされています。白百合は純潔を表し、聖母マリアの象徴でもあります。
このメダイはふたりの彫刻家の没後、20世紀前半にフランスで制作されたものです。20世紀前半にフランスはふたつの世界大戦の戦場となって、戦死者、戦災死者、戦争孤児、戦争寡婦が国中に溢れました。諸聖人の中でもとりわけ情愛深いアッシジの聖フランチェスコに執り成しを願うこのメダイには、憎しみではなく愛を求めるフランスの人々の願いが籠められています。
本品は数十年前に制作されたメダイですが、突出部分もまったく磨滅しておらず、細部まで完全な保存状態です。真正のヴィンテージ品ならではのパティナ(古色)が全体を均一に被っており、類品中、群を抜いて美しい一品となっています。