イタリアのメダイらしい素朴な浮き彫りに、手作りの温かみを感じさせるプラケット(四角いメダイ)。全体のシルエットは、上部にアーチがある窓を模ります。窓の外は初夏の日差しが注ぐウンブリアの森で、小鳥たちがアッシジの聖フランチェスコの説教を聞いています。
心優しい聖フランチェスコは、動物たちの守護聖人として親しまれています。聖人伝「聖フランチェスコの小さき花」第十六章によると、弟子を連れて旅をしていた聖フランチェスコはサヴルニアーノという村で村人を改心させた後、弟子たちとともに道を進み、カンナーヨとべヴァーニョの間に至りました。このとき道の両側の木にたくさんの鳥がいるのを見て、フランチェスコは「私の姉妹である小鳥たちに説教をする間待っていなさい」と弟子たちに言いました。小鳥たちは聖フランチェスコの声の力に引き寄せられて聖人の周りに集い、聖人が説教を終えて行ってもよいと言うまで飛び去りませんでした。
アペニン山中のウンブリアは、イタリアの緑為す心臓(伊 Il cuore verde d'Italia)と呼ばれつつも多雨地帯ではありませんが、四月から六月は他の月よりも雨が多く、気温も温かです。フランチェスコは小鳥たちに説教したのと同じ日にサヴルニアーノ村でツバメに語りかけていますから、小鳥たちへの説教はウンブリアの森が最もみずみずしい季節の出来事であったことが分かります。
中世のヨーロッパは森に覆われ、森の中に点在する町や村を道が繋いでいました。メダイの浮き彫りを見ると、あたかも開けた場所に一本の木が生えているように見えますが、実際のところこれは木々が生い茂る森での出来事です。
(上) Giotto, St. Francis Preaching to the Birds, 1295 - 1300, fresco, San
Francesco, Upper Church, Assisi
上の写真はジョットが描いたフレスコ画で、アッシジにある聖フランチェスコ聖堂の壁面を飾っています。本品プラケット(メダイ)の図柄はこの壁画に基づきます。本品に浮き彫りにされた修道服姿の聖フランチェスコは、壁画に描かれた姿と同じく、小鳥たちを胸のうちに迎え入れるかのように両腕を広げています。その愛に応えて、小鳥たちも熱心に耳を傾けています。木の上から降りてくる鳥もいます。
ジョットの原画とプラケットの浮き彫りを比べると、浮き彫りのフランチェスコは腰に荒縄を巻いている点が異なります。これはフランチェスコが荒縄をベルト代わりにしていた史実に基づき、フランシスコ会士が身に着ける縄です。フランシスコ会士の縄には三つの結び目があって、清貧、貞潔、服従を表します。小鳥に説教するフランチェスコ本人がこれと同じ縄を身に着けていたはずはなく、ジョットの壁画にもこのような縄は描かれていませんが、フランチェスコの生涯を連作で示せる壁画とは違って、メダイでは聖人フランチェスコの精神をこの図柄だけで伝える必要があるゆえに、よく知られた修道の三原則を縄の結び目により可視的に表現したのでしょう。
聖フランチェスコが小鳥たちに説教した逸話は、「イ・フィオレッティ・ディ・サン・フランチェスコ」(伊 "I fioretti di san Francesco" 「聖フランチェスコの小さき花」)第十六章の後半に書かれています。アントニオ・チェザーリによる1868年の校訂版("I Fioretti di San Francesco", testo di lingua secondo la lezione adottata dal p. Antonio Cesari, casa editrice italiana di M. Guigoni, Milano 1868)に従い、該当箇所の原テキストを示します。原テキストは十四世紀のトスカナ方言で、和訳は筆者(広川)によります。文意を通じやすくするために補った訳語は、ブラケット [ ] で括って示しました。
E passando oltre con quello fervore, levò gli occhi, e vide alquanti
arbori allato alla via in su’ quali era quasi infinita moltitudine d’uccelli;
di che san Francesco si maravigliò e disse a’ compagni: Voi m’aspettarete
qui nella via, e io andrò a predicare alle mie sirocchie uccelli. E entrò
nel campo, e cominciò a predicare agli uccelli, ch’erano in terra; e subitamente
quelli ch’erano in su gli arbori, se ne vennero a lui, e insieme tutti
quanti istettono fermi, |
聖人が熱烈な心を抱いて歩きつつ、目を挙げると、道の脇に数本の樹木が見えた。その木々には数えきれないほど多くの小鳥たちが止まっていた。聖フランチェスコは小鳥たちに心を動かされ、連れの者たちに言った。「あなたたちは道で私を待っていなさい。私は行って、わが姉妹である小鳥たちに説教をするから。」そして聖人は野原に入って行き、地上にいる小鳥たちに説教を始めた。すると小鳥たちのうち木に止まっていた者たちも、聖人のところにすぐにやって来、そしてみなが一緒になり、動かずに並んだ。 | |||
mentre che san Francesco compiè di predicare; e poi anche non si partivano, insino a tanto ch’ egli diè loro la benedizione sua. E secondo che recitò poi frate Masseo e frate Iacopo da Massa, andando san Francesco fra loro toccandoli colla cappa, nessuno perciò si movea. | 聖フランチェスコが説教を終わった後ですら、聖人から祝福の言葉をもらうまで、小鳥たちは去ろうとしなかった。マッセオ修道士とマッサのヤコポ修道士が後に語ったところでは、聖フランチェスコが小鳥たちの間を歩いているとき、マントが[小鳥たちに]触れたが、だからといって[小鳥たちは]誰も動かなかった。 | |||
La sustanza della predica di san Francesco fu questa: Sirocchie mie uccelli, voi siete molto tenute a Dio vostro Creatore, e sempre ed in ogni luogo il dovete laudare, imperocchè v’ha dato libertà di volare in ogni luogo, anche v’ha dato il vestimento duplicato e triplicato, | 聖フランチェスコの説教の内容は、次の通りであった。「我が姉妹なる小鳥たちよ。あなたがたは創造主なる神に心から感謝して、いつ、どこでも、神を讃美しなければいけません。それというのも、あらゆるところに飛んで行く自由を、神はあなたがたに与え給うたからです。また二枚、三枚の着物を、神はあなたがたに下さったからです。 | |||
appresso perchè riserbò il seme di voi in nell’arca di Noè, acciocchè la spezie vostra non venisse meno; ancora gli siete tenuti per lo elemento dell’aria che egli ha diputato a voi; | さらに神はノアの箱舟にあなたがたの祖先を乗せ、あなたがたの種類が減らないようにしてくださったのです。またあなたがたは空気という元素にも感謝しなさい。この元素は神があなたがたのために考え出し給うたのです。 | |||
oltre a questo, voi non seminate e non mietete; e Iddio vi pasce, e davvi li fiumi e le fonti per vostro bere; davvi gli monti e le valli per vostro rifugio e gli albori alti per fare li vostri nidi; e conciossiacosachè voi non sappiate filare, nè cucire, Iddio vi veste, voi e’ vostri figliuoli; | これに加えて、あなたがたは種蒔きもせず刈り入れもしない。それでも神はあなたがたに食べさせ、あなたがたが飲むために川や泉を与えて下さいます。あなたがたが隠れる山や谷を下さり、あなたがたが巣を作れるように背の高い木を下さいます。またあなたがたは紡ぐことも縫うこともできないから、神はあなたがたとあなたがたの子供たちに着物を着せてくださいます。 | |||
onde molto vi ama il vostro Creatore, poich’egli vi dà tanti beneficii; e però guardatevi, sirocchie mie, del peccato della ingratitudine, e sempre vi studiate di lodare Iddio. | だから創り主はあなたがたをたくさん愛してくださっているのだ。それゆえ我が姉妹たちよ、注意して、感謝を忘れる罪に陥らないようにしなさい。そして神をいつも讃美するように心がけなさい。」 |
Dicendo loro san Francesco queste parole, tutti quanti quelli uccelli cominciarono ad aprire i becchi, e distendere i colli, e aprire l’ali, e reverentemente inchinare i capi infino a terra, e con atti e con canti dimostrare che ’l Padre santo dava loro grandissimo diletto: e san Francesco con loro insieme si rallegrava e dilettava, e maravigliavasi molto di tanta moltitudine d’uccelli e della loro bellissima varietà e della loro attenzione e famigliarità per la qual cosa egli in loro divotamente lodava il Creatore. | 聖フランチェスコが小鳥たちにこれらの言葉を語るあいだ、この小鳥たちはみな嘴を開[いて啼]き、頸を伸ばし、翼を開き、頭を地面に着くまで恭しく下げはじめた。聖なる師父が彼らに対して非常に大きな喜びを与えたことを、小鳥たちはこうした仕草と囀りによって、示し始めたのである。聖フランチェスコは小鳥たちとともに愉しみ喜んだ。聖人は小鳥たちの数がこれほどまでに多いこと、小鳥たちが持っている多様な[色の]きわめて美しい羽毛、[小鳥たちが説教を聴く]熱心さと親しげな様子に驚いた。そしてこのことゆえに、小鳥たちについて、創造主を心から讃美した。 | |||
Finalmente compiuta la predicazione, san Francesco fece loro il segno della croce; e diè loro licenza di partirsi, e allora tutti quelli uccelli si levarono in aria con maravigliosi canti; e poi, secondo la croce ch’avea fatto loro san Francesco, si divisono ’n quattro parti; e l’una parte volò inverso l’Oriente, e l’altra inverso l’Occidente, e l’altra inverso lo Meriggio, la quarta inverso l’Aquilone, e ciascuna schiera n’andava cantando maravigliosi canti; | 遂に説教が終ると、聖フランチェスコは小鳥たちに向かって十字を切り、去ってもよいと言った。するとこの小鳥たち全員が驚くべき囀りとともに空中に飛び立った。次いで、聖フランチェスコが切った十字に従い、[小鳥たちは]四つの群に分かれた。すなわちひとつの群れは東に、別の群れは西に、また別の群れは南に、さらに別の群れは北に向かって飛んだ。そして小鳥たちの集団は皆、この上なく美しい歌を囀りながら飛んで行ったのである。 | |||
in questo significando che come da san Francesco gonfaloniere della Croce di Cristo era stato a loro predicato, e sopra loro fatto il segno della croce, secondo il quale egli si divisono in quattro parti del mondo: così la predicazione della croce di Cristo rinnovata per san Francesco si dovea per lui e per i frati portare per tutto il mondo; li quali frati, a modo che gli uccelli, non possedendo nessuna cosa propria in questo mondo, alla sola provvidenza di Dio commettono la lor vita. | 十字を描いて四方向に飛び去ったことにより、小鳥たちが示したのは次のことである。すなわちキリストの十字架の御旗を掲げる聖フランチェスコが彼らに説教をしたように、また聖人が彼らに向かって十字を切ったその仕草が、キリストの十字架が世界の四方に分かれて[宣教されて]いる有り様を映しているように、聖フランチェスコが新たに始めたキリストの十字架についての説教は、聖人あるいは聖人の兄弟(修道士)たちによって、世界中に伝えられなければならないのである。この兄弟(修道士)たちは、小鳥たちと同様に、この世で必要な物を私有せず、自分たちの生を神の摂理にのみ委ねているのだ。 |
「あなたがたは種蒔きもせず刈り入れもしない。それでも神はあなたがたに食べさせ、あなたがたが飲むために川や泉を与えて下さいます。あなたがたが隠れる山や谷を下さり、あなたがたが巣を作れるように背の高い木を下さいます。またあなたがたは紡ぐことも縫うこともできないから、神はあなたがたとあなたがたの子供たちに着物を着せてくださいます。」とフランチェスコが言っているのは、「マタイによる福音書」六章二十六節から二十八節、及び「ルカによる福音書」十二章二十四節から二十七節の引用です。この説教においてフランチェスコは難しい心得などを説かず、ただ神に愛されていることを感謝しなさい、と小鳥たちに語り掛けています。
上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖人の顔は直径一ミリメートルほどですが、小鳥たちを慈しむ笑みを浮かべた表情に、心優しいフランチェスコの人柄がよく表現されています。小鳥たちの大きさは一ミリメートルないしニミリメートルですが、顔を上げて話に聞き入る様子に幸せな表情さえ読み取れる気がいたします。
メダイの裏面にはアッシジの文字が刻まれています。アッシジ(ASSISI ウンブリア州ペルージャ県)はイタリア半島を縦に貫くアペニン山脈の中ほど、なだらかなスバシオ山の西麓にあるたいへん古い町で、ローマ帝国時代はアシーシウム(ASISIUM)と呼ばれていました。アッシジのフランチェスコは
1181年頃にアッシジで生まれ、1226年にアッシジ近郊のポルチウンクラで亡くなりました。
イ・フィオレッティ・ディ・サン・フランチェスコ(I Fioretti di San Francesco 聖フランチェスコの小さき花)は小さき兄弟団(羅 FRATRES MINORES フランシスコ会)の修道士ウゴリーノ・ブルンフォルテ(Ugolino
Brunforte, 1255/1260 circa - 1344/1345 circa)の手になる聖人伝で、兄弟団の草創期の史実をよく反映していると考えられています。
イタリア語イ・フィオレッティは、小さき花々という意味です。本品プラケットの裏面にも、二輪の小さな百合が浮き彫りにされています。貞潔、神による選び、神の摂理への信頼を象(かたど)る百合は、フランチェスコの生涯そのものです。ソロモンに勝る衣を神に与えられた百合の姿は、神に養われる小鳥たちの姿とともに、フランチェスコが引用するイエスご自身の説教(「マタイによる福音書」六章二十六節から二十八節、及び「ルカによる福音書」十二章二十四節から二十七節)にも登場します。
上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。
本品は二十世紀中頃にイタリアで制作されたプラケット(メダイ)です。イタリアのメダイはフランスの物に比べて粗削りな場合が多いですが、本品プラケット(メダイ)では粗削りな表情が却ってメダイユ彫刻家の温かな手仕事を映しています。本品はおそらく未販売の新品と思われ、数十年前の品物にかかわらず保存状態は極めて良好です。浮き彫りは細部までよく保存され、突出部分にも磨滅は認められません。特筆すべき問題は何もなく、お買い上げいただいた方には末永くご愛用いいただけます。
本体価格 11,800円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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