修道服に身を包み、神に祈るアッシジの聖フランチェスコを肉厚の浮き彫りで表現したメダイ。
聖人の両手には聖痕の生々しい傷が見えます。聖フランチェスコの周囲にはフランス語で次の言葉が書かれています。
Saint François d'Assise. priez pour nous. アッシジの聖フランチェスコよ、我らのために祈りたまえ。
聖人の腰のあたり、メダイの縁に、リヨンの高名なメダイ彫刻家リュドヴィク・ペナン (Ludovic Penin, 1830 - 1868) の署名が刻まれています。リュドヴィク・ペナンは夭折の天才ともいうべき優れたメダイユ彫刻家で、聖フランチェスコを浮き彫りにしたこの作品は特に評価が高く、没後にも鋳造されました。
裏面には雲の上すなわち天上に燦然と輝く十字架が浮き彫りにされています。キリストの十字架は神の愛の象徴であり、天上に輝く十字架の図像は、神は愛であること、神すなわち愛こそが世界を支配することを表します。このメダイが制作されたのが、第一次世界大戦の頃であることを思うと、諸聖人の中でもとりわけ情愛深いアッシジの聖フランチェスコに執り成しを願うこのメダイには、憎しみではなく愛を求めるフランスの人々の願いが籠められていることが分かります。
メダイは真正のアンティーク品ならではのパティナ(古色)に被われています。表面の銀に硫化が見られる程度で、全体の細部は良く保存され、およそ百年も前に制作されたものとしては十分に良好な保存状態です。