古い特徴を残すラテン語のメダイ。修道服に身を包んだふたりの聖人、アッシジの聖フランチェスコとアッシジの聖キアラを浮き彫りにしています。メダイにおいて、アッシジの聖フランチェスコとパドヴァの聖アントニウスの組み合わせは多く見られますが、聖キアラ(聖クララ)と組み合わせた例は珍しく、あまり目にすることがありません。
一方の面にはクルシフィクスを胸に抱き、フランシスコ会の修道会則を右手に持つアッシジの聖フランチェスコが浮き彫りで表されています。聖人はいとおしむような視線をクルシフィクスに向けて、物思いに耽っています。聖フランチェスコの周囲にはラテン語で「アッシジの聖フランチェスコ」(SANCTVS
FRANCISCVS ASSISIENSIS) と書かれています。
もう片方の面には聖体容器(キボリウム)を手にした聖キアラが浮き彫りで表されています。聖女は粗い修道衣とは別に薄いヴェールを被っており、ヴェールの柔らかな質感は、修道衣にはない細かな襞(ひだ)によって巧みに表されています。キアラは幾輪もの薔薇で埋め尽くされた美しい後光を戴いています。薔薇は聖母マリアの象徴であり、また5枚の花弁が受難の傷を象徴するゆえに、イエズス・キリストの愛を表す花でもあります。
聖女が手にしているのはキボリウム(聖体容器)です。1234年、キアラが院長を務めるアッシジの女子修道院に、神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世軍の兵士たちが侵入しようとした際、病床にあったキアラがキボリウムを手に窓辺に立つと、兵士たちは梯子から落ち、逃げ出しました。キボリウムを持つ聖女の姿は、このときの奇蹟を象徴しています。
聖キアラの周囲には、ラテン語で「アッシジの聖クララ」(SANCTA CLARA ASSISIENSIS) と刻まれています。クララはキアラのラテン語形です。
このメダイはフランスにあったもので、製造国を示す刻印はありませんが、いかにもフランスのメダイらしく丁寧に制作されています。両面に刻まれた聖人の表情は、単に整っているだけではなく深い精神性を感じさせますし、直径1ミリメートルにも満たない薔薇の花々は美しく咲き誇り、聖フランチェスコの修道衣のごわごわした感触や、聖キアラのヴェールの軽く柔らかな手触りまでも、まるで自分の肌で触れているかのようにリアルに感じることができます。
本品の出来栄えは、メダイ彫刻家がミニアチュール彫刻の優れた技量だけではなく、並はずれた表現力を有する芸術家であったことを証明しています。浮き彫り彫刻が発達したフランスのメダイのなかでも、特に優れた作品のひとつといえます。保存状態も極めて良好で、細部までよく残っています。百年近く前に製作された真正のアンティーク品であるにもかかわらず、摩耗はほとんど見られません。