高級品 竪琴を奏でる処女殉教者聖セシリア 東洋趣味の大型銀無垢メダイ 直径 28.6 mm


突出部分を除く直径 28.6 mm  最大の厚さ 2.8 mm  重量 10.0 g

フランス  19世紀末から20世紀初頭



 百年以上前のフランスで制作された大きなサイズの銀無垢メダイ。処女殉教者にして音楽の守護聖人とされる聖カエキリア(聖セシリア)が、竪琴を奏でる姿を浮き彫りにしています。

 高級素材を使っているにもかかわらず、最大3ミリメートル近い厚み、10グラムの重量があり、手に取ると心地よい重みを感じます。現行の百円硬貨の重量は 4.8グラムですから、10グラムは百円硬貨二枚ぶん強にあたります。





 メダイ表(おもて)面において、聖セシリアは東洋風の寛衣を着、ハープを奏でています。ハープは近代楽器の形に描かれていますが、聖女の髪型や髪飾りにクラシカルな雅趣が漂います。聖女を囲むのはイスラム建築風の馬蹄形アーチで、アラベスクのような装飾が施され、細い柱に支えられています。

 図像の左右に、ラテン語で「聖セシリア」(SANCTA COECILIA) と書かれています。"COECILIA" はギリシア語の影響を受けた綴りで、"CAECILIA" と同じ意味です。


【音楽の守護聖人としての聖セシリア】

 聖セシリアの図像は、最も古い時代の作品においては他の殉教者と同様のポーズ、すなわち殉教者の冠を手にしているか、あるいは祈っている姿勢で描かれています。下に示したのはイタリア北東部ラヴェンナ(Ravenna エミリア=ロマーニャ州ラヴェンナ県)のサンタポリナーレ・ヌオヴォ聖堂にある6世紀のモザイク画ですが、左端の聖セシリアは姿勢も持ち物も他の殉教者と同じで、頭上に名前が書かれていなければそれと判別することはできません。





 しかしながら14世紀になると、聖セシリアはオルガンと共に描かれるようになります。これは聖セシリアの祝日である11月22日の聖務日課(修道院で行われる定時の祈り)のうち、朝課(午前3時の祈り)の際に唱えられる次の一節に由来します。

 CANTANTIBUS ORGANIS CAECILIA VIRGO IN CORDE SUO SOLI DOMINO DECANTABAT DICENS, FIAT, DOMINE, COR MEUM ET CORPUS MEUM IMMACULATUM, UT NON CONFUNDAR. ..  オルガンが鳴り響く中、おとめカエキリアは心の中で主にのみ向かって祈り、次のように言った。主よ。私の魂と体を汚れ無きものとしてください。私が恥を見ることが無いように。(広川訳)



 この言葉はもともと詩篇119篇80節を敷衍(ふえん)したものです。

 FIAT COR MEUM IMMACULATUM IN JUSTIFICATIONIBUS TUIS, UT NON CONFUNDAR. ..  わたしの心があなたの掟に照らして無垢でありますように。そうすればわたしは恥じることがないでしょう。(新共同訳)


 ところで上に引用した聖務日課の冒頭にある "CANTANTIBUS ORGANIS" は、ラテン語文法で「絶対的奪格」(ablativus absolutus) と呼ばれるもので、近代語の分詞構文にあたり、たとえば英訳すると "organs singing" あるいは "with the organs singing" の意味です。したがってオルガンを演奏しているのが聖セシリアとは限らないのですが、視覚に訴える美術が文字よりも格段に有力であった中世において、誤解に基づく作品がいったん制作されると、聖セシリアが音楽の守護聖人になるのは半ば必然の成り行きでした。

 下に示したのは中世のものではありませんが、バロックの画家カルロ・ドルチ (Carlo Dolci, 1616 - 1686) による有名な作品で、セシリア自身がオルガンを弾いています。この作品はドレスデンのアルテ・マイスター絵画館 (Gemäldegalerie Alte Meister) に収蔵されています。


(下 参考画像) Carlo Dolci, Cäcilia an der Orgel, 1671, Öl auf Leinwand, 96,5 x 81 cm, Gemaldegalerie, Dresden




 下に示したラファエロ (Raffaello Sanzio, 1483 – 1520) の作品では、聖セシリアは携帯用オルガンを手にしており、聖女の足下にも多数の楽器が置かれています。ただし描かれている楽器をよく見ると、どれも完全な状態ではありません。楽器はメメントー・モリーのひとつであり、「音楽のように束の間しか持続しない生」、ならびに「死とともに消失する感覚的喜び」を象徴します。ここに描かれている聖人たち、すなわち向かって左から右に、使徒パウロ、使徒ヨハネ、セシリア、アウグスティヌス、マグダラのマリアが楽器を打ち棄てて天上の旋律に耳を傾ける様子は、聖人たちの魂が地上を脱して「エクスタシス」(ἔκστασις 脱魂)の状態にあることを示しています。


(下 参考画像) Raffaello, "L'Estasi di santa Cecilia", c. 1514, olio su tavola trasportata su tela, 236 x 149 cm, Pinacoteca Nazionale, Bologna








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 倍音の共鳴によって楽音の深みが得られるのは、楽器の音の場合も人声の場合も同様ですが、とりわけ本品のセシリアはハープを弾いており、紀元前6世紀頃のギリシア人ピュタゴラス (Πυθαγόρας) が行ったモノコード(一弦琴)の実験を想起させます。

 アリストテレスの「メタフィシカ」("METAPHYSICA" 「形而上学」)によると (Aristot. Metaph. A 5. 985 b 23)、ピュタゴラスはレウキッポスやデモクリトスと並んで数学の研究に取り組んだ最初の人物のひとりであり、「数」こそが事物を生成させ存在させる原理、ストイケイア(στοιχεῖον / στοιχεῖα 元素)であると考えました。またモノコードの実験によって、音階(ἁρμονία ハルモニア)も数で記述しうることを見出し、天界はその調和ゆえに、数そのものであると考えました。(Diels-Kranz, Die Fragmente der Vorsokratiker, 58 B4)

 またアリストテレスの「デー・カエロー」("DE CAELO" 「天について」)によると (Aristot. De caelo, B9. 290 b 12)、ピュタゴラスは重層的なスパイライ(σφαῖραι 天圏)を運行する諸天体が、その大きさと夥(おびただ)しい数ゆえに大きな音響を発していると考え、また天体が円運動をするゆえに、天体が発する音響は互いに調和的であると考えました。(Diels-Kranz, Die Fragmente der Vorsokratiker, 58 B35)


 ピュタゴラスが考えた天界の音楽を、ギリシア語で「ハルモニア・エン・コスモー」(ἁρμονία ἐν κόσμῳ) あるいは「ヘー・トゥー・パントス・ハルモニア」(ἡ τοῦ παντὸς ἁρμονία)、ラテン語で「ハルモニア・ムンディ」(HARMONIA MUNDI) と呼びます。いずれも「宇宙の調和」の意味です。モノコードはもちろん、ハープやピアノ、ハープシコード、ヴィオール属楽器などを目にすると、ピュタゴラスと「ハルモニア・ムンディ」の思想がおのずから想い起こされます。

 このメダイでハープを爪(つま)弾くセシリアは、首をわずかに下向きに傾(かし)げて耳を澄ましています。その様子は、地上の音楽を超えた天界の響き、神の声なるハルモニア・ムンディを、弦の共鳴のうちに聴きとろうとしているように思えます。






 メダイの裏面には、高い香気によって徳と純潔を表す百合が浮き彫りにされています。この百合はセシリアが処女殉教者であることを表すとともに、このメダイを手にする人が神の御前に正しい人となるようにとの願いを表しています。

 上部の環にある菱形の刻印は、フランスの銀製品工房のマークです。





 このメダイは百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にかかわらず非常に良好な保存状態です。磨耗はほとんど無く、細部も潰れていません。





本体価格 22,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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