二人の聖人の深い信仰心と優しい人柄を、その表情のうちに見事に写し取った名作メダイ。執り成しを求める聖人への祈りにラテン語を用い、古い特徴を残しています。
一方の面には、交差した腕を胸に当てて祈るアッシジの聖フランチェスコを浮き彫りにしています。剃髪し、フランシスコ会の粗衣をまとった修道士姿の聖人は、地上にありながらも魂においてひたすら神に憧れ、全霊を神の愛のうちに沈潜させています。
浮き彫りは色彩を伴わず、また本品は直径 16.5ミリメートルと小さなサイズですが、壮年の男性らしい顔の骨格と表情筋、厳しい節制にこけた頬、肌とは明らかに区別されるひげ、優しく包み込むように大きな手、修道衣の襞等のあらゆる点において、本品はあたかも生身の聖人を眼前にするかのような迫真性を有します。サイズの小ささ、信心具としての位置付けにもかかわらず、本品のミニアチュール彫刻は、美術品として十分に通用する水準に達しています。聖フランチェスコの周囲には、聖人に執り成しを求めるラテン語の祈りが記されています。
SANCTE FRANCISCE DE ASSISIO, ORA PRO NOBIS. アッシジの聖フランチェスコよ、我らのために祈りたまえ。
メダイの下部に「フランス」(FRANCE) の文字、及びメダイユ工房の刻印 (OBC) があります。
もう片方の面には、祈祷の際に幼子イエズスを幻視するパドヴァの聖アントニウスを浮き彫りで表します。幼子イエズスは微笑んで聖人に手を伸ばし、聖人は幼子を愛しげに抱き寄せています。
聖アントニウスの浮き彫りも聖フランチェスコに勝るとも劣らない出来栄えで、イエズスの幼子らしい体つきや、アントニウスの優しく端正な横顔のみならず、幼子をしっかりと抱擁する聖人の大きな手と、聖人の顔に触れる幼子の小さな手、二人が交わし合うまっすぐな視線に可視化された愛の通い合いを、浮き彫りによって見事に表現しています。聖アントニウスの周囲には、聖人に執り成しを求めるラテン語の祈りが記されています。
SANCTE ANTONI DE PADUA, ORA PRO NOBIS. パドヴァの聖アントニウスよ、我らのために祈りたまえ。
メダイの下部にメダイユ工房の刻印 (OBC) があります。
このメダイは1920年代から 30年代の戦間期にフランスで制作されたものです。第一次世界大戦の未曾有の惨禍に傷ついたフランスの人々が、平和を愛するふたりの聖人に託した祈りが、メダイユ彫刻家の優れた芸術的才能により、九十年の時を経て活き活きと伝わってきます。