レースのような透かし細工の中央に、打ち出し細工による聖母子のメダイを嵌め込んだゆりかご用メダイ。全体が金属製で、レース部分にも厚みがあり、およそ22グラムの重量があるために、手に取ると心地よい重みを感じます。中央部分の裏側のみ、メダイを保護するためにルーサイトを当てています。
表(おもて)面中央のメダイには、幼子イエズスをあやす聖母マリアが、打ち出し細工で表されています。愛しいわが子を両腕で包み込んだ聖母は、幼子の頭の後ろに手を添えて顔を揚げさせ、愛にあふれる眼差しをわが子に注いでいます。幼子イエズスは母に向けて両腕を精いっぱいに伸ばし、小さな両手を開いて母を求めています。ふたりに後光が無ければ、普通の母子が睦み合う姿そのものです。
ふたりの背景には石造りの壁があり、花瓶に活けられた薔薇の花が見えます。キリストの受難を表す薔薇は、究極の愛の象徴です。
レース細工の部分には、アンティーク・ジュエリーのミル打ちを模した細工が全面に施されているのみならず、表(おもて)面の彫金に対応するように、裏面までがインタリオで装飾されています。打ち出し細工であれば、表(おもて)面に対応するパターンが裏面に見られるのは当たり前ですが、このメダイの場合、レース部分には
1ミリメートル程度の厚みがあり、いずれの面の凹凸も打ち出し細工によるものではありません。地金はコスチューム・ジュエリーによく使用される亜鉛の合金であろうと思われますが、この種の合金を使ったジュエリーで、ここまで丁寧な仕上げをしている物を、私は見たことがありません。
このメダイは20世紀前半にフランスで製作されたもので、ゆりかご用メダイのなかでも特に繊細で美しい品です。全体のコンディションはたいへん良好です。古く繊細なものであるにもかかわらず、摩耗も破損も見られません。