二十世紀中頃の円形メダイ。突出部分を除く直径が 16.6ミリメートルとやや小ぶりのサイズゆえに却って厚みが感じられ、つややかな部分と暗色部分の差が重厚な趣(おもむき)を感じさせます。制作地の刻印はありませんがフランスにあった作品で、フランスで作られた作品と考えられます。
メダイの一方の面には聖家族が浮き彫りにされています。幼子イエスは聖母マリアと聖ヨセフの間に立っています。イエスが眩い後光を戴きつつ右手を挙げて人差し指と中指を伸ばす様子は、全人類への祝福を表すとともに、イエスが天上なる神のひとり子、子なる神であることをも表しています。
イエスの左手は聖母と繋がれています。イエスは右手を挙げているゆえに聖ヨセフと手を繋げないのは当然でもありますが、イエスと聖母の手が繋がれている様は、聖母が天地を繋ぐ恩寵の器であることの可視的表現です。
もう一方の面には鳩が浮き彫りにされています。「創世記」八章八節から十二節には次のように書かれています。新共同訳により引用します。
ノアは鳩を彼のもとから放して、地の面から水がひいたかどうかを確かめようとした。しかし、鳩は止まる所が見つからなかったので、箱舟のノアのもとに帰って来た。水がまだ全地の面を覆っていたからである。ノアは手を差し伸べて鳩を捕らえ、箱舟の自分のもとに戻した。 更に七日待って、彼は再び鳩を箱舟から放した。鳩は夕方になってノアのもとに帰って来た。見よ、鳩はくちばしにオリーヴの葉をくわえていた。ノアは水が地上からひいたことを知った。彼は更に七日待って、鳩を放した。鳩はもはやノアのもとに帰って来なかった。 |
ノアの洪水は神の怒りが惹き起こした災いでしたが、鳩は洪水の終息を知らせた鳥であることから「神との平和」を象徴します。一方十字架はイエスの受難を象徴します。それゆえ鳩と十字架を組み合わせた本品の浮き彫りは、救い主イエスの受難によって人の罪が購われたことを目に見える形で表現しています。
上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも一まわり大きなサイズに感じられます。
本品は数十年前のフランスで制作された古い品物ですが、未販売のまま残っていたものと思われ、極めて良好な保存状態です。突出部分にも磨滅は見られず、細部に至るまで制作当時のままの状態で残っています。特筆すべき瑕疵(かし 欠点)は何ひとつありません。