イエズス・キリストの受難をテーマにしたメダイ。おそらく第一次大戦期の前後にフランスで製作されたものです。
一方の面には、十字架上のキリストが中央に浮き彫りで表され、上部に四輪の薔薇があしらわれています。このメダイの花は八重咲きですが、薔薇はその野生種において5枚の花弁を有します。その5枚の赤い花弁がイエズス・キリストの両手両足と脇腹の傷を表すと考えられて、薔薇はキリスト受難の象徴とされています。キリストの背後には、ゴルゴタの丘から望むエルサレムの城壁と市街が表現されています。
クーポラのある建物はルネサンス様式の建築物のようにも見え、私は「カラマーゾフの兄弟」第五篇に出てくる大審問官の話を思い浮かべました。大審問官の話は冷笑家の兄イヴァンが劇詩の構想として純真な弟アリョーシャに語ったもので、百人近い異端者のアウト・ダ・フェ(火刑)が行われた翌日のセビリアに、キリストが現れたことになっています。自由を放棄するのと引き換えに安逸な日々を送る従順な市民たちが、自由意思に基づく信仰に目覚めてキリストに従おうとするのを見て、大審問官はキリストを捕縛し、火刑を宣告するのです。いまから2000年前にイエズス・キリストが磔刑に処せられた際も、群衆はイエズスの教えに感動し、さまざまな奇蹟を目にしていたにもかかわらず、パリサイ人や大祭司たちのほうに従ったのですから、ドストエフスキーがイヴァンに語らせているこの逸話は、小説の進行上の小道具と片付けてしまうのはあまりにも大きな問いを投げかけていると感じます。
話が逸れました。商品説明に戻ります。メダイのもう一方の面には、荊冠を被って苦しみ給うキリストの顔が、立体的な浮き彫りで表されています。これはしばしば「エッケ・ホモー」(エッケ・ホモ ECCE HOMO)の名前で呼ばれる図像で、グイド・レーニの有名な作品に似通った構図となっています。こちら側の面にも、メダイ上部には四輪の薔薇が刻まれています。
このメダイは百年近く前のものであるにもかかわらず、摩耗の程度もごく軽く、それほどまでに古いとは思えないほどの良好な保存状態です。盾形メダイの稀少性に加えて、真正のアンティーク品ならではの古色が深い趣を醸しています。