十字架上のキリストと三人のマリアを描いた綴れ織り。おそらく20世紀初頭のリヨンあるいはオービュソン(Aubusson リムーザン地域圏クルーズ県)で制作されたものと思われます。刺繍ではなく、織りによって図柄を描出したタピスリ(タペストリー)で、横糸の太さを単位とする微小なドットにより、繊細な陰影を巧みに表現しています。
ヨハネによる福音書19章によると、イエズス・キリストは十字架上で酸い葡萄酒を受けた後、「成り終れり(成し遂げられた)」と言って頭(こうべ)を垂れ、息を引き取られました。既に死んでおられたイエズスの脇腹を、ローマ兵が槍で突き刺しました。イエズスの受難には、聖母マリアとクロパの妻マリア(マリア・サロメ)、及びマグダラのマリアが立ち会っていました。
タピスリに表された三人の女性のうち、頭に布を被っているのが聖母マリア、その向こうで両手を振り絞って悲嘆にくれるのがマリア・サロメ、十字架の下に頽(くずお)れて、あたかもイエズスを抱くかのように十字架に縋(すが)るのがマグダラのマリアです。マグダラのマリアは豊かに波打つ金髪と肉感的な肢体、美しく整った横顔を見せています。女性としての魅力に溢れる姿でマグダラのマリアを表し、また十字架の根元、イエズスに最も近いところで悲しみに耽らせるのは、伝統的な図像表現です。
(下) 参考図像 Pieter Paul Rubens, The Deposition, 1602, oil on canvas, 180 x 137 cm, Galleria Borghese, Rome
(下) 参考図像 Matthias Gruenewald, Isenheim Alterpiece, 1512 - 16, the Unterlinden
Museum, Colmar
タピスリはフランス製です。詳しい年代は不明ながら古いものですが、保存状態はきわめて良好です。銀色に塗装した木製フレームで額装いたしました。マットは良質の中性紙マットで、切り口が黒い特殊なものを用い、ダークグリーンのベルベット張りといたしました。この額装は専門の職人の仕事で、たいへん美しく仕上がっておりますが、ベルベットの色等をお好みにより変更することも可能です。