小さく愛らしいフランス製アンティーク・クロス。フランス南東部サヴォワ地方で愛用されるクロワ・サヴォワヤルド(仏 croix savoyarde)のひとつで、「クロワ・プラット」(仏
croix plate)と呼ばれる種類です。本品は特に小さな作例で、上部の突出部分を含めても、高さ二センチメートルに足りません。
本品に表裏は無く、いずれの面も同じデザイン、同じ丁寧さで作られています。下の写真は本品の二面を撮影しています。商品は一点です。
十九世紀までのフランスでは、十字架や鳩の形の聖霊など、キリスト教信仰を色濃く反映したジュエリーが多く制作されていました。「ビジュ・ド・デヴォシオン」(bijoux
de dévotion 信心の装身具)とも呼ぶべきそれらのジュエリーは、地方ごとの特徴的な意匠に基づいて制作される場合が多く、宗教社会学、民俗学、服飾史など、さまざまな観点から研究する価値のある魅力的な品々が、多彩な美を誇っていました。
十九世紀半ば以降にフランス社会の世俗化が進み、また鉄道網や電信、マスメディアが発達するにつれて、地方文化は弱体化し、消滅してゆきました。それに伴い「ビジュ・ド・デヴォシオン」も姿を消してゆき、現在では専門書や博物館の収蔵品カタログでしか目にすることができません。本品「クロワ・プラット」も、そのようなもののひとつです。
本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品です。日々実際に愛用されていた品物であるゆえに、表面の金めっきが磨滅して、ブロンズが露出しています。商品写真は実物を数十倍の面積に拡大しているので、表面が斑(まだら)に見えますが、実物を肉眼で見ると斑には見えず、美しい銅色をしています。実用上、美観上とも、特筆すべき瑕疵(かし 欠点)は何もありません。
本品は十八、九世紀の特徴を色濃く残す「クロワ・レジオナル」であり、現在では博物館や美術館でしか見られなくなった伝統的キリスト教ジュエリーの作例です。アンティークのクロワ・プラットは入手が難しい稀少品ですが、本品は十分に使い込まれた品物ですので、将来的な磨滅等を気にせずご愛用いただけます。