ブロンズを打ち抜いたマルタ十字風クロスの全面に、ガラス・エマイユを施した美しいクロワ・ド・クゥ(十字架形ペンダント)。
エマイユ工芸ではフリットと呼ぶガラスの粉末を炉で融解させます。本品はほぼ不透明のスマルト(コバルトガラス)と乳白色ガラスを用い、フリットが完全に融解して高い流動性を獲得するまで加熱し続け、ガラス分子のブラウン運動によって大理石状の美しい文様を描かせています。高温の炉内で液体になったガラスが、表面張力のみでブロンズ上に留まることができる最大量のフリットが使用されているために、本品の表面は優しい曲線を描いて盛り上がっています。
末端に向かって広がる本品の意匠は、マルタ島を本拠地にした「聖ヨハネ騎士団」の十字架、「マルタ十字」に似ています。マルタ島はシチリアの南、ヨーロッパとアフリカの間に浮かぶ地中海の島です。十字架に沿って盛り上がったガラスの深い青色は、凪いだ海面が描き出す穏やかな起伏のようであり、末端において乳白色のガラスと混じり合う様は、マルタ島の岸辺に打ち寄せる地中海の波を思わせます。
本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、長い間に事故も無く、まったく良好な状態で保存されています。エマイユを施した十字架は、曲がると下地のブロンズからガラスが剥離し、エマイユが破損するので注意が必要ですが、本品のブロンズはある程度の厚みがありますし、ペンダントとして使うのであれば無理な力は加わりませんから、あまり神経質にならなくても大丈夫です。日常的に愛用していただくことは十分に可能です。