黒い布を使ったフランスの古いスカプラリオ。修道女、あるいは第三会会員により、ひとつひとつ丁寧な手作業で製作されたものです。
スカプラリオの中央には、紡錘形のポシェット(小袋)がひとつずつ縫い付けられています。ふたつのポシェットは絹で出来ており、それぞれ異なるモノグラム(組み合わせ文字)がオレンジ色の糸で刺繍されています。一方のポシェットには、ギリシア文字エータ
(H) を十字架と組み合わせたモノグラムが刺繍されています。このエータは、通常イオタ、エータ、シグマの三文字で表されるクリストグラム(イエズスの象徴)が、スペースの都合で略記されたものでしょう。もう一方のポシェットには、マリアの頭文字
"M" を十字架と組み合わせた聖母のモノグラムが刺繍されています。
ポシェットは厚みがあり、何かを封入していると思われます。スカプラリオは肌身離さず持ち歩くものですから、封入されているのはアグヌス・デイではないでしょうか。アグヌス・デイとは教皇の祝福を受けた蝋の小円盤で、これを常に身に着ければ罪の赦しが得られ、厳しい気候や洪水、火事、疫病、悪魔、突然の死から守られるといわれています。
絹のポシェットを取り囲む黒い布地部分には、マリゴールドの花のようなパターンがオレンジの糸で刺繍されています。また黒い布地は花弁形になっていて、手作業の刺繍によりたいへん丁寧に縁取られています。
本品は数十年前に製作された古い物ですが、未使用品と思われ、製作当時のままの良好な保存状態です。このように美しいスカプラリオは私自身初めて目にしました。たいへん稀少な作例です。