黒い布を使ったフランスの古いスカプラリオ。修道女、あるいは第三会会員により、ひとつひとつ丁寧な手作業で制作されたものです。
スカプラリオの中央には、紡錘形のポシェット(小袋)がひとつずつ縫い付けられています。ふたつのポシェットは絹で出来ており、それぞれ異なるモノグラム(組み合わせ文字)がオレンジ色の糸で刺繍されています。
一方のポシェットに刺繍されている文字は、クリストグラム、すなわちイエズス(ギリシア語でイエースース IHΣOYΣ)を表すイオタ、エータ、シグマです。もう一方のポシェットに刺繍されている文字は、マリアの頭文字
"M" を十字架と組み合わせた聖母のモノグラムです。
ポシェットは厚みがあり、何かを封入していると思われます。スカプラリオは肌身離さず持ち歩くものですから、封入されているのはアグヌス・デイではないでしょうか。アグヌス・デイとは教皇の祝福を受けた蝋の小円盤で、これを常に身に着ければ罪の赦しが得られ、厳しい気候や洪水、火事、疫病、悪魔、突然の死から守られるといわれています。
黒い布の四隅には、ポシェットを取り囲むように野の花が刺繍されています。刺繍は丁寧な手作業によるもので、19世紀後半から20世紀初頭にかけて多く制作された聖地の花のカードを連想させます。
本品は数十年以上前に製作された古い物ですが、未使用品と思われ、製作当時のままの良好な保存状態です。このように美しいスカプラリオは私自身初めて目にしました。たいへん稀少な作例です。