20世紀中葉のフランスで制作されたソヴガルド。聖心の絵を刷るのではなく、刺繍で表現した味わい深い作例です。ソヴガルド全体は八枚の花弁を有する花の形をしています。
キリスト教において、「八」は山上の垂訓(マタイによる福音書 5~7章)に述べられた八つの幸福を表します。さらに「八」という数字は、天地創造に要した日数すなわち「七」の次の数であるゆえに、物事の新たな始まり、新生、生まれ変わり、新しい命の象徴でもあります。全身を水中に浸す洗礼が行われていた時代に、洗礼堂が八角形のプランで建てられていたのも、「八」が有するこの象徴性ゆえです。
八弁の花びらは、袋状に折ったサテン地によって立体的に表現されています。縁に鋸歯状の切れ込みを入れた布を、優しく膨らんだ花びらの下に当てることにより、立体性あるいは奥行き感が、さらに強調されています。
花弁の内側には青い糸を巻き付けた環があり、花の中心に聖心が表現されています。キリストの聖心は十字架を突き立てられ、茨の冠に囲まれて血を流しつつ、愛の炎を噴き上げ、光り輝いています。ソヴガルドの聖心は、図像が刷られている場合が多いですが、本品では修道女による細密刺繍で巧みに表現されています。
上の写真は実物を約 60倍の面積に拡大しています。実物は、青色の環の内径が 23ミリメートル、聖心の心臓形の部分が縦横5ミリメートル、十字架の高さも5ミリメートルという小さなサイズです。この刺繍部分は、透明プラスティックにより保護されています。
ソヴガルドの裏面には、次の言葉がフランス語で記されています。
Arrête! Le Coeur de Jésus est là. Que Votre règne arrive. 止まれ!此処にイエズスの聖心あり。御国(みくに)の来たらんことを。
裏面には環状の紐がついていますので、ソヴガルドをピンで留める際などに便利です。
本品は数十年前に作られた真正のヴィンテージ品ですが、特筆すべき問題の無い良好な保存状態です。花弁の膨らみが押しつぶされないように、空間的な奥行きを持たせた額装を施して、埃(ほこり)などから保護しつつ部屋に飾ることも可能です。