教皇の祝福を受けた蝋(ろう)の小円盤を、ジャカード生地の長方形ポシェットに封入した古い信心具「アグヌス・デイ」。「アグヌス・デイ」(AGNUS
DEI) はラテン語で「神の子羊」という意味です。信心具「アグヌス・デイ」の本体は、ローマ、サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院で製作された蝋製の円盤で、一方の面に神の子羊が造形されています。本品はこの蝋製小円盤を布製ポシェットに封入し、持ち運びできるようにしたものです。
ポシェットはフランス語で「ヴェール・ドー」(vert d'eau) と呼ばれる薄緑(アクア・グリーン)のジャカード生地を用いて、修道女が丁寧に手作りしています。周囲にはガラス・ビーズをひとつひとつ縫い付け、縁飾りとしています。ポシェットの一方の面には、ヴェール・ドーの糸でソヴガルドを縫い付けています。ソヴガルドは血を流しながら愛に燃え、光り輝くイエズス・キリストの聖心を描きます。図像の周囲には、次の言葉がフランス語で記されています。
Arrête! Le Coeur de Jésus est là. Que Votre règne arrive! 止まれ!此処にイエズスの聖心あり。御国(みくに)の来たらんことを!
100 jours d'indulgences chaque fois, Pie IX - 14 Juin 1877 祈るごとに100日の贖宥 ピウス9世 1877年6月14日
もう一方の面にはオリフラム(軍旗)形の紙に黒のインクで「アグヌス・デイ」(Agnus Dei) と手書きされています。この文字の書体には非常に長いセリフ(serif 文字末端から延びる飾り)があって、中世イギリスの写本の書体に似ています。
本品は数十年以上前に製作された古い品物ですが、非常に良好な保存状態です。破損やひどい汚れなど、特筆すべき問題はいっさいありません。
「アグヌス・デイ」は、ローマ教皇の祝福を受けた蝋製円盤を封入した特別な信心具です。アグヌス・デイを常に身に着けることによって、罪の赦しが得られ、厳しい気候や洪水、火事、疫病、悪魔、突然の死から守られるといわれています。「アグヌス・デイ」が製作された年代は、20世紀前半頃までです。サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院は2011年に閉鎖されましたので、将来再び作られることはおそらく無く、たいへん貴重な品物となっています。