教皇の祝福を受けた蝋(ろう)の小円盤をポシェットに封入した古い信心具「アグヌス・デイ」。「アグヌス・デイ」(AGNUS DEI) はラテン語で「神の子羊」という意味です。信心具「アグヌス・デイ」の本体は、ローマ、サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院で製作された蝋製の円盤で、一方の面に神の子羊が造形されています。本品はこの蝋製小円盤をフランスで絹布製ポシェットに封入し、持ち運びできるようにしたものです。
本品は良好な保存状態で、破損やひどい汚れ等の問題はいっさいありません。ポシェットを縁取るガラス・ビーズは古い時代の手作り品であるゆえに、形と大きさが不揃いです。ビーズに欠落、破損等の問題はいっさい無く、いずれも高い透明度で綺麗に輝いています。これらのビーズは丁寧な手作業によりひとつひとつ縫い付けられています。
ポシェットの表(おもて)面には聖心を示すイエズス・キリストの絵、裏面には「アグヌス・デイ」と書いた紙片が貼り付けられています。キリスト像は絵を写真に撮ったものです。写真の種類はアルブミン・プリントで、烏賊墨(セピア)色に変色していますが、表面のクラックは進行せず、たいへん良好な保存状態です。アルブミン・プリントは1830年代末に発明され、1895年頃までは最も優勢なプリント技術でしたが、その後はゼラチン・シルバー・プリントに押され、1920年代には完全に消滅します。したがって本品の製作年代は19世紀後半から20世紀初頭頃までであることがわかります。
「アグヌス・デイ」は、ローマ教皇の祝福を受けた蝋製円盤を封入した特別な信心具です。製作年代から判断すると、本品はピウス9世(在位 1846
- 1878年)、レオ13世(在位 1878 - 1903年)、ピウス10世(在位 1903 - 1914年)のいずれかから祝福を受けているはずです。アグヌス・デイを常に身に着けることによって、罪の赦しが得られ、厳しい気候や洪水、火事、疫病、悪魔、突然の死から守られるといわれています。「アグヌス・デイ」が製作された年代は、20世紀前半頃までです。サンタ・クローチェ聖堂のシトー会修道院は2011年に閉鎖されましたので、将来再び作られることはおそらく無く、たいへん貴重な品物となっています。