プティット・スリ(歯のはつかねずみ)、トゥース・フェアリー
la petite souris, the tooth fairy
子供の歯(乳歯)の数は通常20本で、5、6歳頃から10、11歳頃にかけて永久歯に生え換わります。フランスでは、抜けた乳歯を枕の下に置いて寝ると、「ラ・プティット・スリ」(la
petite souris) と呼ばれるはつかねずみが夜のうちに歯をどこかに持ち去って、かわりにコインやお菓子を置いてくれるとされています。これと同様の俗信は各地にあり、スペインでは「エル・ラトンシト・ペレス」(el
ratoncito Perez) というはつかねずみが、英米では「トゥース・フェアリー」(the tooth fairy) と呼ばれる妖精が、乳歯をコインに替えてくれるとされています。
フランスにおいて乳歯をコインに替えてくれる妖精は、はつかねずみの姿をしています。通説によると、はつかねずみの姿を取った妖精のモティーフは、オーノワ伯夫人マリ=カトリーヌ
(Marie-Catherine, comtesse d’Aulnoy, 1651 - 1705) が1698年頃に創作した童話「はつかねずみの妖精」(*註)に由来します。ただしこの童話の内容は現在行われている乳歯の習俗とは無関係で、「はつかねずみが乳歯をコインに替えてくれる」という俗信は、20世紀に入ってから英米で広まった「歯の妖精」の習俗がフランスに移入されたものであると考えられています。
スペインのはつかねずみ「ペレス」(エル・ラトンシト・ペレス)は、イエズス会士であった作家ルイス・コロマ・ロルダン (Luis Coloma
Roldan, 1851 - 1915) が、歯の生え換わり時期であった幼い国王アルフォンソ13世 (Alfonso XIII, 1886 -
1931 - 1941) のために、1894年頃に創作した童話の主人公です。この童話はアルフォンソ13世の母后マリア・クリスティナ・デ・アブスブルゴ=ロレナ
(Maria Cristina de Habsburgo-Lorena, Maria Christina Desiree Henriette
Felicitas Rainiera von Habsburg-Lothringen, 1858 - 1929) の依頼を受けて書かれたもので、主人公である少年は、アルフォンソ13世の愛称と同じブビ
(Bubi) という名前でした。
親が幼い子どもに信じさせる架空の存在という意味では、ハツカネズミも歯の妖精もサンタクロースに似ています。しかしハツカネズミや歯の妖精は歴史が浅く、サンタクロースのようにはっきりと決まった属性を有しません。たとえば、集めた歯をどこに運んでゆくのか、何に使うのかといった説明は為されていません。またサンタクロースはキリスト教の祝日であるクリスマスと不可分の関係にありますが、ハツカネズミや歯の妖精には宗教色が無く、思想信条に関わらず誰にも親しみやすい習俗となっています。
*註 この童話では、隣の国に住む悪い国王が、善良な国王夫妻の国に攻め込みます。善き王は戦死し、王妃は囚われの身となります。幽閉された王妃は食料として一日にわずか3個の豆を与えられますが、それをはつかねずみに食べさせます。このはつかねずみは妖精が姿を変えたものでした。妖精は王妃の無私の善行に報いるため、再びはつかねずみに変身して悪い王の寝室に隠れ、王が眠ると両耳と鼻を食いちぎり、さらに舌と唇と頬もかじったために、王はしゃべることができなくなります。さらにはつかねずみは悪い王の息子の目も食べてしまいます。盲目になって怒り狂った王子は父王の部屋に飛び込みますが、しゃべれずにうめき声を発する人物が父であるとわからずに剣で打ちかかり、怒った父王も息子に反撃して、ふたりはともに斃れます。
オーノワ伯夫人マリ=カトリーヌ作「はつかねずみの妖精」の原文は、
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