最高度に上品な金無垢ドレス・ウォッチ 《ゼニス》 特殊輪列の薄型ムーヴメント スクウェア型ケースの珍しい作例 1950年代末から 1962年


 スイスの老舗時計メーカー、ゼニス(Zenith)による薄型の金無垢時計。角型ケースを採用した珍しい作例で、針とインデックスが美しく調和した上品な文字盤を有します。バンド幅は十八ミリメートルです。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)と呼びます。ムーヴメントを保護する容器、すなわち時計本体の外側に見えている金属製の部分をケース(英 case)といいます。ケースはベゼルと裏蓋に分かれます。ベゼル(英 bezel)とは、ケースの前面で文字盤と風防を取り囲む部分のことです。

 本品と同時代のゼニス社製腕時計は、ほぼ例外なく円型ケースを有します。特に本品は同社製ムーヴメント、キャリバー 120を搭載しますが、この機械を使った時計は全て円型ケースと言って過言ではありません。しかしながら本品のケースは角を丸く取ったスクウェア型(正方形)にデザインされています。私は長年に亙ってヴィンテージ腕時計を扱っていますが、キャリバー 120を積んだ角型ケースのゼニスは、本品以外に見たことがありません。





 時計において、時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。本品の文字盤はライト・シルバー(明るい銀色)で、半艶消し処理が為されており、柔らかな光を反射します。

 文字盤の上部には金色に輝く星が取り付けられ、その下にゼニス(ZENITH)のロゴが書かれています。ゼニスとは英語で天頂、すなわち地上から見上げた空の最も高いところを指す語です。文字盤の最下部にはスイス製(SWISS MADE)と書かれています。

 ゼニス社はいまから百五十年あまり前、わが国では幕末に当たる1865年に、スイス、ル・ロックルで創業した時計メーカーです。同社は現在も存続し、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)の傘下にあります。





 本品の文字盤は時計が製作された当時のオリジナルで、再生処理(リファービッシュ、リダン)は施されていませんが、新品同様の状態です。周縁部に表層の剥がれが見えますが、これはベゼル内側の縁が文字盤に接触する部分に必ず生じる傷みで、デッド・ストック品(未販売の新品)にもしばしば見られます。この傷みはベゼルで完全に隠れますので、気になりません。





 文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの数字を、インデックス(英 index)といいます。インデックスの様式には年代ごとの流行があります。大体の傾向として、1940年代以前の時計では、インデックスはすべてアラビア数字ですが、1950年代の時計では、アラビア数字とバー・インデックス(線状のインデックス)が混用されます。1960年代半ば以降と 1970年代の時計はすべてバー・インデックスです。

 本品には棒状の部品を植字した立体的なバー・インデックスが採用されています。バーの材質はおそらくケースと同様に十八カラット・ゴールド(十八金)であろうと思います。各インデックスの外端、文字盤の縁に近いところには、長針一分毎、短針十二分毎の刻み目が、金の点で表示されています。





 スイス製腕時計の文字盤が有する様式的特徴は、年代ごとに驚くほど共通しており、例外はほとんどありません。本品が作られた 1950年代末から 1960年代初頭は文字盤デザインの移行期で、アラビア数字とバー・インデックスを混用した 1950年代式文字盤の時計と、すべてをバー・インデックスとした 1960年代式文字盤の時計が併存していました。すべてのインデックスをバー型とした本品は、いち早く 1960年代の様式に移行しており、先進的なデザインの品物といえます。

 本品の時針と分針はバトン型で、全長に亙って一定の幅にデザインされています。1960年頃はセンター・セカンド針(文字盤中央に取り付けた長い秒針)が使われ始めた時代ですが、この時代に作られた腕時計の秒針は赤く塗られる場合が多くありました。しかるに本品の秒針は金色で、幅も全長に亙って一定であり、時針及び分針と同様の形状です。これら三本の針は上品なライト・シルバーの半艶消し文字盤を背景に、簡素なバー・インデックスとよく調和して目を楽しませてくれます。





 上の写真はケースの裏蓋で、シリアル番号(7222851)が刻印されています。ちなみに懐中時計ケースのシリアル番号はムーヴメントと同一の場合がありますが、腕時計ケースのシリアル番号はケース製造会社独自のものです。本品の場合も、ケースに刻印されたポンティ・ジャンナーリ社のシリアル番号と、ムーヴメントに刻印されたゼニス社のシリアル番号とは無関係です。





 上の写真はケース裏蓋の内側で、ゼニス、スイス製(ZENITH SWISS MADE)の文字が中央に刻印されています。

 手前に見える刻印のうち、左端はポワンソン・ド・メートル(仏 poinçon de maître 名匠の刻印)と呼ばれる金またはプラチナ製時計ケースの保証印で、ジュネーヴ市章の一部を為す鍵のマークに、ケース製造会社を示す数字を重ねています。"26" はジュネーヴの貴金属品メーカー、ポンティ・ジャンナーリ社(Ponti, Gennari & Cie)の番号です。

 ポワンソン・ド・メートルの右に見える "18K 0.750" の刻印は、十八カラット・ゴールド、すなわち純度 750パーミル(七十五パーセント)の金を表します。金の純度は千分率、百分率で表すほか、純金を二十四カラットとして、九カラット、十カラット、十四カラット…のように表す方法もあります。750パーミル(0.750)は二十四分の十八と同じ値ですから、十八カラット・ゴールド(十八金)とも呼びます。

 右端に見えるのはヘルヴェティアの頭部です。ヘルヴェティア(HELVETIA)はスイスのラテン語名で、スイスを擬人化した女神の名でもあります。ヘルヴェティアの頭部は、十八カラット・ゴールドを示すスイスのホールマーク(貴金属の検質印)です。上の写真に写っていませんが、ヘルヴェティアの頭部はケースのベゼル側面にも刻印されています。

 スイスの金無垢時計に使われる標準の純度は、十八カラットです。十八カラット・ゴールドは軟らかくて、ケースが薄いと変形しやすい欠点があります。しかしながら本品のケースには十分な厚みがあるので、心配は要りません。上で説明したポワンソン・ド・メートルは、十分な厚みがあるケースだけに刻印される印です。





 本品はゼニス社による十二リーニュの手巻きムーヴメント、キャリバー 120を搭載しています。キャリバー 120は信頼性の高い名機で、本品と同時代のゼニスにはこの機械を搭載した作例が多く見られます。

 手巻きムーヴメントは、電池ではなくぜんまいで動く機械式ムーヴメントです。電池で動くクォーツ式腕時計が普及したのは、1970年代以降のことです。本品が製作された 1960年頃にはクォーツ式腕時計はまだ存在せず、腕時計はすべてぜんまいで動いていました。

 クォーツ式腕時計の秒針は、一秒ごとに動くステップ・モーターにより、チッ、チッ … と間欠的に動作します。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く手巻き時計や自動巻時計の秒針はスウィープ運針といって、連続して滑らかに動きます。

 現代の時計は中三針(なかさんしん)式またはセンター・セカンド式といって、短針、長針と同様に、秒針が時計の中央に取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計は小秒針式またはスモール・セカンド式といって、秒針が六時の位置に取り付けられています。腕時計の小秒針はわずか三ミリメートルほどの長さしかなく、視認性に劣ります。しかしながら秒針を時計の中央に取り付けるのは技術的に困難で、コストがかかります。それゆえ中三針式は、1960年代になってようやく普及します。それ以前の時計はほとんどすべて小秒針式です。

 本品のムーヴメント、ゼニス キャリバー 120は 1953年に一号機が作られたにもかかわらず、中三針式を採用しています。医療用など特殊な用途の時計では、1950年代以前にも中三針式ムーヴメントを採用する例はありました。しかしながら金無垢ケースの本品はドレス・ウォッチで、医療用に作られたわけではありません。1953年の時点において中三針式を採用したゼニス、キャリバー 120は時代を大きく先取りしたムーヴメントであることがわかります。





 上の写真は本品のムーヴメントです.。写真の手前右寄りの受けに、ゼニス、スイス製(ZENITH SWISS MADE)、十八石(18 JEWELS)の文字が刻印されています。その右側、地板の天符付近には、キャリバー名(120)が刻印されています。写真の左手前、機械の外縁に近いところに刻まれている七桁の数字(4842631)は、本機のシリアル番号です。

 赤く見えるのはルビーです。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されます。必要な部分すべてにルビーを入れると、十七石(じゅうななせき)のムーヴメントになります。十七石以上のムーヴメントはハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 a high jewel movement)と呼ばれる高級品です。本品はこれにさらに一個のルビーを加えた十八石のハイ・ジュエル・ムーヴメントです。上の写真では一見したところルビーが六個しか入っていないように見えますが、この写真に写っていない文字盤下の地板やムーヴメントの内部に入っていたり、箇所によって二重に入っていたりして、全部で十八個のルビ-が使われています。

 上の写真でムーヴメントの右側に大きな環が見えています。これは天符(てんぷ)という部品で、機械式時計の心臓に相当する調速脱進機の一部です。ゼニス、キャリバー 120は振動数一万八千(f = 18000 A/h)で、一秒間に二・五回、振り子のように往復する回転運動を繰り返します。ハイ・ジュエル・ムーヴメントのパワー・リザーヴは三十七時間から三十八時間ぐらいが普通ですが、ゼニス、キャリバー 120は四十七時間のパワー・リザーヴを誇ります。





 機械式時計はクロックとウォッチに分かれ、クロックの一部は振り子式です。振り子は機械式時計の本体であり、機械式時計は振り子の規則的な振動(往復運動)によって時を計っています。しかるにウォッチすなわち携帯用時計(懐中時計と腕時計)には、振り子を取り付けることができません。時計が傾くと、振り子の動きが止まるからです。そこで考案されたのが、ひげぜんまいを有する天符(てんぷ)です。ひげぜんまいを有する天符は、振り子と同様の等時性を以て振動し、傾けても止まりません。

 上の写真で手前に写っている金色の大きな輪が天符で、ここが機械式時計の心臓部分です。天符は高速で振動しているため、写真では天輪の腕とチラネジがぶれて写っています。しかしながら天輪はあたかも動いていないかのようにくっきりとした軌跡を描いており、天真(てんしん 天符の中心軸)に曲がりが無いことがお分かりいただけます。

 天符の中心に見えるルビーは、天符の受け石です。受け石の下には穴石があり、穴石の中心の孔に天真のほぞ(細くなった先端)が嵌っています。天符の石は輪列の石のように固定されず、地板側、受け側ともバネで押さえられています。受け石を押さえるバネは耐衝撃装置(衝撃吸収装置、耐震装置)として働き、受けた衝撃をうまく逃がすことによって、天真のほぞが折れるのを防ぎます。耐衝撃装置にはいくつかの種類がありますが、ゼニス、キャリバー 120はリュラ(希 λύρα)のような形状のインカブロック(Incabloc)を採用しています。





 ゼニス、キャリバー 120のサイズは十二リーニュ(地板の直径 約 27ミリメートル)で、この時代の男性用腕時計用ムーヴメントとしては最も大きな部類に属しますが、高さは 4.6ミリメートルしかなく、ドレッシーな薄型に仕上がっています。ゼニス、キャリバー 120が薄いのは、輪列が独特の配置になっているからです。

 通常のムーヴメントでは中央に二番車があります。二番車は直径が大きいので、平面上の位置が天符と重なります。それゆえに、二番車と天符の衝突を避けるには、この両者を上下にずらして配置する必要があります。手巻きムーヴメントは自動巻ムーヴメントよりも薄いですが、二番車と天符の位置が上下にずれているせいで生じる厚みは、どうしても避けることができません。

 しかるにゼニス、キャリバー 120の二番車は、上の写真でも分かるように、ムーヴメントの中央部分からずれた位置にあります。それゆえゼニス、キャリバー 120では二番車と天符が衝突せず、ムーヴメントはそのぶん薄型になります。また天符を大きなサイズに作ることができます。大きな天符は振動の安定性に優れるゆえに、時間をいっそう正確に測ることができます。





 ゼニス、キャリバー 120が有するもう一つの特徴は、秒針規制機能(ハック機能)を有することです。秒針規制機能とは、竜頭を引き出したときに、秒針の動きを一時的に止める機能です。一日に一秒も狂わないクォーツ式ムーヴメントは秒針規制機能を有しますが、機械式時計にはこの機能がありません。機械式時計は一日に数秒から数十秒も狂うので、秒単位の時刻合わせが意味を為さないからです。しかしながらゼニス、キャリバー 120には秒針規制機能があり、ゼニス社の自信のほどをうかがうことができます。





 男性用ヴィンテージ・ウォッチのバンド幅は大抵の場合十六ミリメートルですが、本品のバンド幅は十八ミリメートルで、ヴィンテージ・ウォッチとしては大きめのサイズです。このページに掲載した商品写真はグリーンの革バンドを付けて撮影しましたが、バンドの色や材質を変更することも可能です。

 本品に限らずアンティーク時計全般に共通していえることですが、時計のメーカーとバンドのメーカーは別です。アンティーク時計に付いているバンドは、たまたまその時計に取り付けられているだけのことで、時計とバンドの組み合わせに必然性はありません。本品の場合も事情は同じで、バンドの種類や色はお好みに合うものをお使いいただけます。たとえばバンドの色を赤や青、茶色等に変更すると、ずいぶん雰囲気が変わります。

 1950年代までに流行した男性用時計は現代の時計に比べてかなり小さなサイズです。時計のサイズが大きくなり始めるのは、1960年代の半ば以降です。本品のムーヴメント、キャリバー 120が製作されたのは 1953年から 1962年ですが、本品をはじめ、この機械を搭載した時計は 1960年代後半以降と同じ位のサイズで、同年代の男性用時計に比べてかなり大きめです。

 ただし、同時代の時計と比べて大きいとは言っても、昨今流行のものほど巨大ではありません。最近の時計は大きすぎて、スーツを着たときに、シャツの袖が時計に引っかかるので、ビジネス向きではありません。この点、本品は男性用腕時計として適正なサイズですので、スーツをスマートに着こなすことができます。たいへん上品なデザインの本品は、女性にもお使いいただけます。







 上の写真の一枚目は男性が、二枚目は女性が、本品を装用しています。


 アンティーク時計はどこの店でも修理に対応しない現状売りが普通ですが、当店ではアンティーク時計の修理が可能です。本品に関しても、当店では修理が必要となった場合に備え、部品取り用ムーヴメントをはじめとする貴重な部品を保管し、きちんと管理しています。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。

 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 580,000円 販売終了 SOLD

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