金無垢ケースの高級ドレス・ウォッチ 《ロンジン 9L ダイヤモンド・ダイヤル》 儚い夢、慈しみの時計 1951年


ムーヴメントの種類: Longines cal. 9L  ムーヴメントのシリアル番号: 8028597

ケースのシリアル番号: 931960




 ロンジン社は二百年近く前の 1832年、スイス北西部ベルン県フランス語地域の町サン=チミエ(Saint-Imier)に創業した時計会社です。十九世紀半ばの携帯用時計は懐中時計で、すべて鍵巻きでしたが、ロンジン社は竜頭でぜんまいを巻く仕組みを発明し、後にはこれが携帯用時計(ウォッチ)の標準的仕様となりました。チャールズ・リンドバーグやアメリア・イアハーツによる命懸けの偉業を支えたのも、ロンジンの時計でした。





 ロンジン社の品質基準を満たさない模倣品を排除するため、同社はスイス時計会社のなかで最も早く商標登録を行ないました。また同じ目的のために、ロンジン社は一つ一つの時計にシリアル番号を刻印しています。そのためロンジンのアンティーク時計は製造年代をほぼ正確に特定することができます。ムーヴメントに刻まれたシリアル番号(8028597)から、本品はいまからおよそ七十年前、1951年頃の時計であることがわかります。本品の保存状態はきわめて良好で、正確に動作しています。バンドは茶や赤などお好きな色に交換可能です。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)と呼びます。ムーヴメントを保護する容器、すなわち時計本体の外側に見えている金属製の部分をケース(英 case)と呼びます。バンドを取り付けるためにケースから突き出た突起のことをラグ(英 lugs)と呼びます。

 本品のケースはレクタンギュラー(英 rectangular)と呼ばれる長方形で、竜頭を除く幅 21ミリメートルに対して、十二時側のラグの先端から六時側のラグの先端までの直線距離は 40ミリメートルに達します。





  腕時計のケースはベゼルと裏蓋に分かれます。ベゼルは風防を嵌め込む枠で、本品ではケース本体と一体になっています。懐中時計ではケース本体がムーヴメントの枠となりますが、本品をはじめ多くの腕時計では、ムーヴメントは裏蓋に嵌め込まれています。それゆえ裏蓋を外すと、ムーヴメントも一緒に外れます。





 本品のケース裏蓋は優しいカーヴを描いて湾曲し、手首の丸みに沿って吸い付くように心地よい装着感を与えます。裏蓋の外面、すなわち手首に触れる面には、ケース製造会社のマークと十四カラット(14K)の文字が刻印されています。十四カラット(14K)の刻印は、本品のケースが金張りやめっきではない金無垢製品であることを示します。

 本品のケースは金無垢ですが、金無垢は純金という意味ではありません。純金(二十四金)は軟らかすぎて容易に変形するゆえに、身に着ける実用品を純金で作ることはできません。このため金で実用品を作る場合、他の金属を混ぜて意図的に純度を落とし、強度を確保します。

 純金の色は金色ですが、これにニッケルを混ぜると銀色に近い色になります。この金をホワイト・ゴールドと呼びます。本品は金を 14/24、ニッケルを 10/24の比で混ぜたホワイト・ゴールドです。





 十四金(14/24、すなわち純度 58.5パーセントの金)は金無垢時計のケースをはじめ、アメリカ合衆国の金製品に最も多く使われます。時計ケースにはムーヴメントを守るという大切な役割がありますが、スイスや日本で使われる十八金はとてもやわらかいので、特にケースの面積が大きい男性用時計において、歪みを生じる場合が多くあります。十四金は十八金に比べて硬く、摩耗や変形を起こしにくいゆえに、時計ケースに適しています。





 ベゼルの十二時側と六時側は、両横のラグと共に、バンドに向かって下方に傾斜しています。そのため本品のケースを真横から見ると、緩やかな M字型を描きます。一方、本品の風防は三時ー九時のラインを頂点とするアーチ状で、ベネル及びラグの傾斜と美しい一体を為しています。





 数字を取り付けた板状部品を文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)と呼びます。文字盤に取り付けられた長針五分毎、短針一時間毎の印を、インデックスといいます。本品のインデックスは合計十七個のダイヤモンドをホワイトゴールドの枠で囲み、文字盤に取り付けた立体インデックスです。

 文字盤の一部には淡い変色があり、アンティーク時計ならではの魅力となっています。実物をご覧いただければ、この程度の変色は全く気になりません。





長針と短針もホワイトゴールドでできています。針はシンプルなバトン型で、装飾性が高いダイヤモンド文字盤との調和が図られています。





 文字盤の六時には小文字盤が描かれ、クラシカルな小秒針(スモール・セカンド・ハンド)が取り付けられています。

 現代の時計はセンター・セカンド式といって、短針、長針と同様に、時計の中央に秒針が取り付けられています。これに対して 1950年代までの時計では、ごく少数の例外を除き、スモール・セカンド式といって、六時の位置に小秒針が取り付けられていました。時計の中央に秒針を取り付ける方式のムーヴメントを制作するのは技術的に困難で、センター・セカンドが普及するのは1960年代です。1950年代までの時計はほとんどすべてスモール・セカンド式で、本品も例外ではありません。

 小秒針用文字盤の下部に、スイス製(英 SWISS)の表示があります。本品は七十年以上前の時計ですが、ロンジンの時計は現在に至るまで、創業時と変わらずサン=チミエで制作されています。





 上の写真はムーヴメントを取り出し、ケース裏蓋を撮影しています。時計会社名がロンジン=ウィトナー社となっているのは、ロンジン社がウィトナー社を合併したからです。ニューヨーク、ジュネーヴ、モントリオールの支店名とアメリカの時計ケース製造会社のマーク、十四カラット(十四金)の刻印があります。十四カラットはアメリカ合衆国における金製品の標準的な純度です。

 本品はロンジンのニューヨーク支社がムーヴメントをスイスから輸入し、アメリカ合衆国のケース製造会社が制作した金無垢ケースにいれて時計の完成品としたものです。六桁の数字はケース製造会社が独自に付けたケースのシリアル番号で、ムーヴメントのシリアル番号とは無関係です。

 黒い油性ペンで書かれているのは、オーバーホールの記録です。本品は公認上級時計師(C.M.W.)の方に依頼し、オーバーホールしていただきました。





 上の写真は本品のムーヴメントを取り出して撮影しています。手前に写っているツマミは竜頭(りゅうず)で、腕時計の三時の位置に突出しています。本品は機械式時計ですので、竜頭を回してぜんまいを巻く必要があります。それゆえ本品には現代のクォーツ式時計(電池で動く時計)寄りも大きな竜頭が付いています。

 秒針があるクォーツ式腕時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとにチッ、チッ、チッ… と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式腕時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。これに対して機械式時計、すなわち本品のようにぜんまいで動く腕時計や懐中時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、チクタクチクタクチクタク…と連続して聞こえてきます。





 ムーヴメントの表面には、ムーヴメントの機種名(キャリバー名)である "9L" が刻まれています。ロンジン・キャリバー 9Lは振動数一万八千(18,000 vph 一秒あたり二往復半の割合で天符が振動)の手巻きムーヴメントで、ロンジン・キャリバー 25.17と同じ機械です。パワーリザーヴは四十三時間を誇り、ひげぜんまいは高級なブレゲひげです。地板のサイズは 8 x 11.5リーニュ(17.8 x 26.0 mm)です。

 上の写真は時計を動作させて撮影しています。キャリバー 9Lは耐震装置を持ちませんが、天符の動作中に天輪の軌跡がぶれていないことからお分かりいただけるように、天真の曲がりは一切ありません。ひげぜんまいにも乱れはなく、巻き上げひげ(ブレゲひげ)ならではの美しい同心円を描いています。





 ムーヴメントの表面には、ロンジン時計会社(LONGINES WATCH Co.)、スイス製( Swiss)、十七石(SEVENTEEN JEWELS)、8028597、LXW の文字も刻まれています。七桁の数字(8028597)はムーヴメントのシリアル番号で、ロンジン社が創業当初から途切れず刻んでいるものです。LXWはアメリカ合衆国時計輸入コードという記号で、ロンジン社に割り当てられた記号が LXWです。





 良質の機械式腕時計、懐中時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。本品のムーヴメント、ロンジン・キャリバー 9Lは十七個のルビーを使用しています。上の写真ではルビーが六個しか見えませんが、あとの十一個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。

 十七個のルビーを使用したムーヴメントは、摩耗してはならない個所すべてにルビーを使用した高級機です。上の写真の手前には、セヴンティーン・ジュエルズ(英 SEVENTEEN JEWELS 十七石)の表示が写っています。十七石のクラブトゥース式ムーヴメントはハイ・ジュエル・ムーヴメント(英 a high jewel movement)と呼ばれます。本機ロンジン・キャリバー 9Lは、ハイ・ジュエル・ムーヴメントです。

 制作が難しいブレゲひげが採用されていること、緩急針の両側にガードが付けられていること、受けの表面が丁寧に研磨されていること、それぞれの受けが丁寧に面取りされていることなどからも、本機が高級機であることがわかります。





 1980年1月、ソ連がアフガニスタンに侵攻したときに、金の価格が一トロイオンスあたり 850ドルの史上最高値を付けました。当時の850ドルを現在の貨幣価値に換算すると、1,800ドル以上に相当します。金価格はその後いったん落ち着き、1999年8月には 250ドルまで下がりましたが、その後上昇に転じ、2011年から 2012年にかけて一トロイオンスあたり 1,800ドル以上と、1980年に並ぶ高値を付けました。商品説明の執筆時点(2024年12月2日)で、金相場は一トロイオンスあたり 2,639ドルに達しています。





 金価格がこのように高騰するたびに、アンティーク時計の金無垢ケースは時計に関心が無い人たちによって貴金属買取店に持ち込まれ、スクラップ・ゴールドにされてしまいます。ホワイトゴールド無垢ケースにダイヤモンド文字盤を組み合わせた本品は、第二次世界大戦後に独り勝ちの黄金時代を築いたアメリカ合衆国ならではのモデルですが、アメリカ繫栄の時代にあっても高価な贅沢品であったゆえに、制作数はそもそも少なかったはずです。金価格が高騰を繰り返すなかで、果たして現在何個が残っているでしょうか。







 上に示した着用写真は、一枚目が男性、二枚目が女性によります。 本品は男性用として作られた時計ですが、二十世紀半ばの時計は現代の時計に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にもお使いいただけます。















 バンドはお好きな色、質感、長さのバンドに替えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り替えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。

 標準的な男性用時計のバンド幅は、現代の時計で 18ミリメートルないし 21ミリメートルですが、男性用アンティーク時計の標準的なバンド幅は 16ミリメートルです。本品のバンド幅も 16ミリメートルです。


 なおレクタンギュラー型のアンティーク時計は、バンド幅が 14ミリメートルの場合があります。14ミリメートルのバンドは現代ではどうしても女性用になりますので、末端に向けてバンドの幅が細くなります。女性が時計を使われる場合は問題ありませんが、男性が使う時計に幅 14ミリメートルのバンドを取り付けると女性用にしか見えませんので、バンドを特注で造る必要があります。

 しかしながら本品に適合するバンド幅は 16ミリメートルですので、市販品のバンドも手に入りやすく、また男女ともに違和感なくお使いいただけます。








 当店には1950年代当時のロンジンの箱が在庫しています。上の写真に写っている箱の税込み価格は 24,200円ですが、本品腕時計をお買い上げいただいた方には税込み 8,800円でお譲りいたします。













 当店はアンティーク時計の修理に対応しております。下の写真は本品腕時計に搭載されているのと同じロンジン・キャリバー 9Lで、当店にはこれと同じ部品用ムーヴメントが二個、在庫しています。部品用ムーヴメントはいずれも良好な状態で、天真やひげぜんまいにも問題はありません。







 アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。





 本品が制作された二十世紀半ばは、時計制作の技術が最高水準に到達した時代です。このときから現代まで、機械式時計制作の技術水準に根本的な違いはありません。本品は我が国でも数少ない CMV(Certified Master Watchmaker 公認上級時計師)によってオーバーホールを施され、順調に時を刻んでいます。

 ダイヤモンドを嵌め込んだ本品の文字盤は、1950年代に特有です。第二次世界大戦が終わって明るい前途しか見えていなかった当時、ダイヤモンドのように輝く希望を文字盤に投影した本品のデザインは儚い夢のように美しく、その後の歴史を知る我々が慈しむべき時計となっています。





本体価格 780,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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