極稀少品 《イリノイ モデル 164 ピカデリー PICCADILLY》 6グレード 905 九時に小文字盤 1928 - 1930年

Illinois PICADILLY, 6/0 size, grade 905



 イリノイ州スプリングフィールドに本社があったイリノイ・ウォッチ・カンパニーが 1928年ないし 1930年頃に制作したモデル 164、愛称ピカデリー(Piccadilly)。九時に小秒針があるユニークな腕時計です。ケースの材質は十四カラット・ゴールド・フィルド(十四金張り)です。突出部分(ラグと竜頭)を除くケースのサイズは縦 28ミリメートル、横 35ミリメートルで、五百円硬貨(直径 27ミリメートル)と同じぐらいの大きさです。風防を含む厚みは 9.5ミリメートルです。バンド幅は 16ミリメートルで、男性用アンティーク時計に標準的なサイズです。

 ピカデリーはもともと男性用として作られた時計ですが、1920年代の時計は現代のものよりも小さめで上品ですので、女性にもお召しいただけます。バンドは茶や赤などお好きな色に交換可能です。百年近く前の品物にもかかわらず、本品の保存状態はきわめて良好で、きちんと動作します。





 われわれ現代人はウォッチという言葉で腕時計を思い浮かべます。しかしながら十九世紀の人々にとって、ウォッチ(携帯用時計)とは懐中時計のことでした。二十世紀初頭になるとおしゃれな女性たちが小さな懐中時計を手首に固定して使うようになり、1910年代半ばに女性用腕時計が作られるようになりました。その後もしばらくのあいだ腕時計は女性用で、男性はみな懐中時計を使っていました。男性用腕時計が初めて市販されたのは、いまからおよそ百年前、1920年半ばのことです。1920年代末に製作された本品は、最初期の男性用腕時計のひとつです。





 上の写真で風防(ガラス)越しに見えている部分を文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)、時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)をケース(英 case)といいます。本品が搭載する手巻きムーヴメント、イリノイ・グレード 905は円形ですが、文字盤は横長の楕円形、ケースは楕円とクッションを折衷した美麗な形です。

 本品の制作当時は「男は外、女は内」の時代でしたから、社会で働く男性の時計には女性用よりも高い精度が求められました。それゆえ男性用腕時計には懐中時計の時代から制作技術が確立され、高精度で制作しやすいサイズの円形ムーヴメントが採用されました。しかしながらおしゃれな男性たちが欲しがったのは、懐中時計との違いが際立つ腕時計でした。ほとんどの場合、この要求は時計が四角く見えるデザインによって叶えられましたが、本品は横長の楕円に近いクッション形ケースを採用しました。筆者(広川)が知る限り、本品ピカデリーはこのようなケースを有する唯一の例です。





 ヴィンテージ・ウォッチ(アンティーク・ウォッチ)の文字盤にはさまざまな程度の変色が見られます。本品も九時と十時のあいだに軽度の変色がありますが、文字盤全体として見ると、新品時と変わらない最高の保存状態です。この文字盤は再生文字盤(リファービッシュ、リダン)ではなく、時計製作当時のままのオリジナルです。

 文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの数字を、インデックス(英 index)といいます。インデックスには年代ごとに流行があり、1940年代までの腕時計にはアラビア数字が使われます。本品のインデックスもアール・デコ様式による幅広のアラビア数字です。インデックスの数字と外周の刻み目、及び小文字盤のインデックスには、金の薄板が貼り付けられています。

 時針と分針は、アンティーク時計に相応しい金色のアルファ型です。青焼きの小秒針はドレッシーなリーフ型で、僅かに伸びた後部にはブレゲ針状の環が付いています。





 懐中時計のケースは、たいていの場合、ムーヴメントを保持するリング状の本体と、文字盤側で本体に被さるベゼル(英 bezel)、ベゼルと反対側の裏蓋に分かれます。本品は懐中時計の名残を留めていて、懐中時計と同様に、ケースが三部分(ベゼル、本体、裏蓋)に分かれています。

 1930年代以降の腕時計ケースはベゼルと本体が一体化し、裏蓋を外すだけでムーヴメントを取り出せる簡略な構造になります。いっぽう本品のケースは懐中時計と同じ構造で、裏蓋を外しただけではムーヴメントを取り出せません。ムーヴメントを取り出すには竜真を抜き、機留めネジも外し、ベゼルも外し、ムーヴメントをベゼル側から取り出す必要があります。これは懐中時計と同じ方式です。





 時計ケースの上部にあって風防の枠となる部分を、ベゼルといいます。本品のベゼルは楕円の四か所が突出し、クッション型と折衷されたたいへん優雅な形状です。ベゼルに嵌っている透明のガラスを、風防といいます。本品の風防は文字盤と同じく、横長の楕円です。この風防を十二時側あるいは六時側から見ると、緩やかな弧(アーチ)を描きます。





  本品のケースは十四金張り(14カラット・ゴールド・フィルド)です。金張り(ゴールド・フィルド)とは薄板状の金をベース・メタルに張り付けたもので、現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると、金の厚みは十数倍ないし数十倍に達します。金の層が厚いため摩耗に強く、見た目にも高級感があります。本品のケースに張られている金は十四金(純度 14/24の金)です。

 なお純金(二十四金)ではなく十四金を使用するのは、材料費を節約するためではありません。純金は軟らかすぎて容易に摩耗・変形するので、これを金合金とすることによって実用に必要な強度を得ています。金は本来金色ですが、これにニッケルを加えるとホワイト・ゴールドになります。本品のケースには、純度 14/24の金合金(金をニッケルで割ったホワイト・ゴールド)が張られています。





 上の写真は本品ケースから取り外した裏蓋の内側で、ピカデリーの正式なモデル名(MODEL #164.)を刻み、ケースの材質とシリアル番号を打刻しています。

 時計はムーヴメントを時計会社が作り、ケースはケース製造会社が作ります。本品の場合、キーストーン・ウォッチケース(KEYSTONE WATCHCASE)の刻印から、ウォッチケース専業メーカーのキーストーン社が製作し、イリノイ社に納入したケースであることが分かります。

 油性ペンで手書きされた文字と数字は、直近のオーバーホール記録です。本品は我が国でも数少ない公認上級時計師(Certified Master Watchmaker, CMW)にオーバーホールしていただきました。





 本品は 6/0サイズの手巻きムーヴメント、イリノイ・グレード 905を搭載しています。

 良質の機械式腕時計ムーヴメントには、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。本機イリノイ グレード 905は十七個のルビーを使用した十七石(じゅうななせき)のムーヴメントで、これは摩耗してはならない個所すべてにルビーを使用した高級機であることを示します。





 十七石以上のムーヴメントをハイ・ジュエル機(英 a high jewel movement)と呼びます。1920年代末当時の腕時計用ムーヴメントに使われるルビーの数は七石か、多くても十五石がほとんどですが、本機は十七石のハイ・ジュエル機となっています。受けと地板に嵌め込んだルビーは、金張りのシャトン(枠)がアンカーとなり、しっかりと固定されています。

 受けにはイリノイの社名(ILLINOIS WATCH SPRINGFIELD)、十七石(17JEWELS)、ムーヴメントのシリアル番号(5274661)が刻まれています。







 上の写真はスウィガートのカタログ("American Watch Movements", The E. & J. Swigart Co., 1952)で、アメリカ製ウォッチ(懐中時計及び腕時計)のムーヴメントと部品を網羅しています。本品の受けにムーヴメントのグレード名(905)は打刻されていませんが、スウィガートのカタログを参照すると、本機はイリノイ・グレード 905であることが分かります。ひげぜんまいは高級なブレゲひげ(巻き上げひげ)です。







 本品はもともと男性用ですが、1920年代の時計は現在に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にもお使いいただけます。上の写真の一枚目は男性が、二枚目は女性が本品を着用しています。

 本品に適合するバンド幅は十六ミリメートルで、この幅さえ合えばお好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。





 イリノイ時計会社は 1930年代に時計の生産を終了しました。それゆえもっとも最近に作られた時計でも九十年前のものになり、そもそも製作数が少ないうえに、現在まで残っている数は決して多くありません。なかでもピカデリーは稀少なモデルで、筆者(広川)はこの一点しか実物を見たことがありません。

 ロサンゼルス南郊アーヴァイン(Irvine)のフレドリック・J・フリードバーグさん(Mr. Fredric J Friedberg)はイリノイ社製時計の最大のコレクターで、イリノイに関する専門書の著者でもあり、ご自身のウェブサイトでも多数のイリノイを販売しておられます。同氏のウェブサイトには数百点のイリノイが掲載されていますが、ピカデリーは四点しかありません。

 Illinois PICCADILLY WGF Watch - The Illinois Watch USD 1895 (USD 1 = JPN 150 として、284,250円)

 Illinois PICCADILLY Green GF Watch - The Illinois Watch USD 1795 (269,250円)

 Illinois PICCADILLY TWO-TONE (Mishandled or Intentional ?) Watch - The Illinois Watch USD 2495 (374,250円)

 Illinois PICCADILLY Green GF vintage Watch - The Illinois Watch USD 1995 (299,250円)

 上のオンライン・カタログと比べても、当店のピカデリーは最高度に優れた保存状態であることがお分かりいただけます。


 当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。





本体価格 320,000円  USD 2,150.00

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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