黄金時代のアメリカン・デザイン 《グリュエン 415 十七石手巻き》 華やかなドレスウォッチ 男女兼用 スイス 1950年
オハイオ州シンシナチの時計会社グリュエンが、1950年代に製作したドレス・ウォッチ。この年代の時計は男性用、女性用とも現代に比べて小さなサイズです。本品は元々男性用ですが、ケースの直径は
29.5 mmと小さめで、女性にもお使いいただけます。
時計内部の機械を、ムーヴメントと呼びます。ムーヴメントを収納する金属製の筐体を、ケースと呼びます。ケースはベゼルと裏蓋に分かれます。ベゼルとは風防(ガラス)の枠となる部分、裏蓋は肌と接する時計の裏側です。
本品のケースは、ベゼルが十カラットの金張り(ロールド・ゴールド・プレート)、裏蓋がステンレス・スティールでできています。十カラット(十金)とは、金合金に含まれる金の純度が
10/24であるという意味です。十金は十八金に比べて強度が格段に大きく、日々使用する時計ケースに好適です。金張りとは金合金の薄板をベース・メタルに貼り付ける手法で、現代の金めっき(エレクトロプレート)に比べると金合金の層が格段に分厚いのが特長です。
本品はおよそ七十年前の時計であるに関わらず、金の剥がれは見当たりません。これは十カラットの金がそもそも丈夫であることと、金張りにおける金の層が厚いことによります。
第二次世界大戦時のアメリカは、ヨーロッパのように国土が戦場になることが無く、ヨーロッパの戦後復興に関わることで、却って大きな利益と発言権を手にしました。十九世紀以来世界最強であった大英帝国をはじめとするヨーロッパ各国は、民族自立の機運が高まった
1950年代以降に相次いで植民地を失いましたが、元々植民地を持たないアメリカは、植民地を失って国力を殺がれることもありませんでした。このような歴史的事情を背景に
1950年代のアメリカは世界最強の国となり、黄金時代の繁栄を謳歌しました。
この時代のアメリカで製作された時計ケースは、大胆で華美な意匠が特徴です。バンドを取り付ける突起を、ラグといいます。本品は各ラグの基部に二枚重ねの厚い円盤状装飾を配し、個性的な意匠となっています。ベゼルの幅は極小で、文字盤の視認性を最大限に高めるとともに、背景の立体的な細工を際立たせています。
時刻を表す刻み目や数字が配置された板状の部品を文字盤(もじばん)または文地板(もじいた)と呼びます。本品の文字盤は美しい白色で、クロスハッチと放射線を組み合わせた立体的な装飾が打ち出されています。この文字盤は七十年以上前のオリジナルで、再生したものではありませんが、たいへんきれいな状態です。
文字盤の中心よりも上にグリュエンのロゴ(GRUEN)があります。六時の位置にある小文字盤の上部には、十七石(17 JEWELS)の表示があります。
文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの目印をインデックス(英 index)といいます。腕時計のインデックスには、年代毎に明確な流行があります。1940年代以前のインデックスは、すべてアラビア数字でした。しかるに
1950年代のインデックスは、アラビア数字と幾何学図形が交互に配置されます。本品はその一例で、金色に輝くアラビア数字と幾何学図形が、文字盤に植字された立体インデックスとなっています。文字盤を取り巻く六十個の小点も、立体インデックスの一部を為しています。
ちなみに 1960年代に入るとインデックスはすべてバー状になり、アラビア数字は姿を消します。アラビア数字と幾何学図形が交替する本品の文字盤は、1950年代に特有のデザインです。
本品は六時の位置に小文字盤があって、長さ四ミリメートルほどの小秒針(スモール・セカンド・ハンド)が回っています。
現代の時計は中三針(なかさんしん)式、あるいはセンター・セカンド式と言って、文字盤の中央に秒針が付いています。中三針式(センター・セカンド式)のムーヴメントは作るのが難しく、1960年代になってようやく普及しました。それ以前の時計は小秒針式(スモール・セカンド式)で、六時の位置に小さな秒針が付きます。本品もそのような時計の一つです。
長針と短針は金色で、暗所における視認性を高めるために、時針と分針にはラジウム(88Ra)による夜光塗料が塗られています。ラジウム塗料は文字盤を取り巻く小点のうち、毎正時あるいは五分毎の点にも塗られています。ただし本品のラジウム塗料は、経年により、夜光性を失っています。
古い時計の夜光塗料に含まれるラジウムは放射性物質であり、発癌性を有します。ラジウムを扱う文字盤工場では多数の作業員が癌になって死亡したために、現在では時計の夜光塗料にラジウムを使うことが禁じられています。ラジウムには四つの同位体がありますが、大部分はラジウム226です。ラジウム226の半減期は
1601年ですから、本品のラジウム塗料は夜光塗料としての機能を失っている一方で、放射能のみを当時のままに保持していることになります。しかしながらこの程度の放射性物質は気にしなくても大丈夫です。文字盤工場で多数の死者が出たのは、毎日筆先を舐めて作業し、ラジウムの経口摂取を続けたからです。時計の使用者がラジウム塗料のせいで癌になることは、決してありません。
時計からムーヴメントを取り出して分かる文字盤のサイズを、ケースに収まった状態と比べると、風防越しに文字盤のほぼ全体が見えていることが分かります。
本品の風防はドーム状で、プレクシグラスと呼ばれるアクリル樹脂でできています。アクリル樹脂は第二次世界大戦中にデュポンが開発し、戦後になって民生分野でも使用されるようになりました。プレクシグラスはミネラルガラスよりも丈夫で、ミネラルガラスよりも透明度が高く、小キズを磨き落とせます。戦前から有るプラスチック素材のように、劣化黄変することもありません。
本品ケースの裏蓋は、ステンレス・スティールでできています。腕時計のケースが最も摩耗しやすいのは、肌と擦れ合う裏蓋部分です。ステンレス・スティールは摩滅せず、アレルギーも惹き起こさないので、腕時計ケースの素材として優れています。
(上) グリュエンの店舗用ディスプレイ 当店の商品です。
本品の裏蓋にはグリュエン・ギルダイトの文字と、ケースのシリアル番号が刻印されています。
グリュエン社は中世ドイツの手工業組合であるギルドに時計作りの理想を見て、自社の理念に取り入れました。ギルダイト(GUILDITE)はグリュエンの造語による商標で、ギルドの高い技術で丁寧に作られた優品を意味します。
上の写真は本品のケースを開けてムーヴメントを外し、裏蓋の内側とともに撮影しています。裏蓋の内側にはベゼルの材質(10K ROLLED GOLD
PLATE BEZEL)、ケースの型式とともに、グリュエン時計会社がアメリカ合衆国内でケースに入れて時間調整をした(CASED AND TIMED
IN U.S.A. BY THE GRUEN WATCH CO.)との表示が刻印されています。
現在のアメリカ合衆国には時計産業が存在しませんが、第二次世界大戦前のアメリカは時計大国で、1950年代のアメリカでも時計は作られていました。アメリカ国内の時計産業を保護するために、合衆国政府は外国製時計に高率の関税を掛けていました。そのためアメリカ国内に自社工場を持たない時計会社は、ムーヴメントの半完成品をスイスから輸入し、アメリカ国内でケースに入れて時計を完成していました。この半完成品をエボーシュ(仏 une ébauche)と呼びます。
エボーシュはフランス語で下作り、下書き、スケッチ等の意味ですが、時計業界ではぜんまいや調速脱進機、針をまだ取り付けていない半完成のムーヴメントを指してこう呼んでいます。エボーシュは時計ではなく時計部品と見做され、関税が掛かりませんでした。
スイスの時計会社はアメリカに支社を作り、上記の方法で自社製品を輸入していました。アメリカに本社がある大手時計会社では、グリュエンとブローバがこの方法を取っていました。
グリュエンはスイスの自社工場で作ったエボーシュを輸入し、文字盤や針、調速脱進機をシンシナチの本社で取り付けて、時計を完成していました。それゆえグリュエンの時計は外見的なデザインがアメリカの流行に合わせて作られている一方で、ムーヴメントにはスイス製(SWISS)及び未調整(英
unadjusted)の刻印があります。
未調整の文字は、エボーシュの段階で刻印されたものです。エボーシュはアメリカ国内で調速脱進機を取り付けられ、時計として完成した段階で、調整済みとなっていますので、ご安心ください。
時計のムーヴメント(内部の機械)には、電池で動くクォーツ式と、ぜんまいで動く機械式があります。現代の時計はほぼすべてクォーツ式ですが、これは
1970年代から使われ始め、1980年代に本格的な普及を見たものです。本品が製作された 1950年代にクォーツ式ムーヴメントはまだ存在しておらず、時計はすべてぜんまいで動いていました。本品もぜんまいで動く機械式時計です。
三時の位置に付いているツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。機械式時計のぜんまいは、竜頭を時計回りに回転させることで巻き上げます。竜頭を引き出して回転させると針が早送りされ、時刻を合わせることができます。竜頭の操作は簡単で、誰でも扱うことが出来ます。初めての方でも心配要りません。
秒針があるクォーツ式時計を耳に当てると、秒針を動かすステップ・モーターの音が一秒ごとにチッ、チッ、チッ… と聞こえます。デジタル式など秒針が無いクォーツ式時計を耳に当てると、何の音も聞こえません。本品のような機械式時計を耳に当てると、小人が鈴を振っているような小さく可愛らしい音が、チクタクチクタクチクタク…と連続して聞こえてきます。
機械式ムーヴメントには手巻きと自動巻きがあります。自動巻きとは、簡単に言えば、回転錘(かいてんすい、ローター)による自動巻き機構を手巻きムーヴメントに付加したものに他なりません。したがって手巻きムーヴメントこそが、機械式ムーヴメントの基本です。自動巻き機構は便利ですが、時計を身に着けている間じゅうずっと動いているために、摩滅による破損が多く発生します。手巻きムーヴメントは自動巻き機構が無いので、当然のことながらこの部分の故障は起こりえません。また手巻きと自動巻きの精度は全く同等です。ちなみに宇宙飛行士が使う腕時計は、全て手巻き式です。
本品が搭載するのはグリュエン社の手巻きムーヴメント、グリュエン キャリバー 415 です。
良質の機械式腕時計ムーヴメントには、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、良質の時計の部品として使用されるのです。本機グリュエン キャリバー 415は十七個のルビーを使用しています。上の写真ではルビーが五個しか見えませんが、あとの十二個は機械の裏側(文字盤側)など、上の写真に写っていない部分に使われています。十七個のルビーを使用した十七石(じゅうななせき)のムーヴメントは、摩耗してはならない個所すべてにルビーを使用した高級機です。十七石以上のムーヴメントをハイ・ジュエル機(英
a high jewel movement)と呼びます。
現代人は安価なクォーツ時計に慣れていますが、クォーツ時計は 1980年代以降本格的に普及したものです。1950年代の時計は全て機械式であり、ハイ・ジュエル・ウォッチの価格は初任給二~三か月分ぐらいに相当しました。当時の時計はたいへん高価だったわけですが、時計の品質は購入者の期待を裏切らず、一生のあいだ愛用できる耐久性を有していました。
本品は我が国でも数少ないサーティファイド・マスター・ウォッチメイカー(C.M.W. 公認高級時計師)に整備していただきました。およそ七十年前の時計であるにかかわらず、本品は実用的な精度を保ってたいへん調子よく動作しています。
本品は男性用として作られた時計ですが、1950年代の時計は現在に比べて小さめのサイズであり、たいへん上品であるゆえに、女性にもお使いいただけます。上の写真は女性モデルが本品を着用しています。
本品に適合するバンド幅は、男性用ヴィンテージ・ウォッチの標準サイズである十六ミリメートルです。この幅さえ合えば、お好きな色、質感、長さのバンドに換えることができます。商品写真は革バンドを取り付けて撮影しましたが、金属バンドを取り付けても構いません。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。
当店はアンティーク時計の修理に対応しております。アンティーク時計の修理等、当店が取り扱う時計につきましては、こちらをご覧ください。
上の写真は男性モデルが本品を着用しています。
本品は現代の時計に無いデザイン性、優秀なムーヴメント、優れた保存状態のアンティーク時計です。当店は修理にも対応しますので、お買い上げいただいた方には長くご満足いただけます。
当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。
本体価格 148,000円
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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