グリュエン クアドロン 17 jewels, adjusted to temperature
ムーヴメント: Gruen cal. 117
ケースのサイズ 縦 41.1 x 横 37.1 mm (竜頭を除く)
厚さ 14.3 mm (クリスタルと裏蓋を含む)
14Kホワイト・ゴールド・フィルド・ケース
金色のアラビア数字立体インデックス
1925 - 30年頃
19世紀から20世紀前半にかけて、普段の技術革新により、優れたムーヴメントを次々と開発したグリュエン社の腕時計「クアドロン」(Quadron)。このムーヴメントは1925年に製品化されて1930年まで作られました。
ウォッチ(携帯用時計)という言葉はもともと懐中時計を指していましたが、20世紀に入るとムーヴメントが小型化され、小型の時計を手首に着けるのが女性の間で流行し始めます。これが腕時計の誕生で、初期の腕時計は懐中時計と同じ形をしています。
【参考画像】 女性用懐中時計にバンドを付けた「コンヴァーティブル・ウォッチ」。当店の商品です。
1920年頃になると、女性の間で腕時計の人気が高まり、現在と同様に3時の位置に竜頭(りゅうず)を付けた腕時計が製作されるようになります。
【参考画像】 1920年代の女性用腕時計。当店の商品です。
この時代の男性は懐中時計を使っていました。女性のものである腕時計を男性が身に着けるには大きな心理的抵抗がありました。20世紀初頭の社会通念では、男性が腕時計を着けるのは一種の女装のようなものであったのです。第一次世界大戦の際、軍が腕時計の機能性に注目して将校用に採用したことをきっかけに、男性用腕時計も少しずつ作られるようになりましたが、保守的な社会通念はなかなか変わりませんでした。
男性の間で腕時計が嫌われたのには、技術上の理由もありました。ウォッチはもともと懐中時計ですから、ムーヴメント(機械)はすべて円形でした。ところが腕時計を使ってみようという男性の間では、懐中時計とは違ったデザインを求める気持ちが強く、レクタンギュラー(長方形)やトノー(樽型)の需要が大きかったのです。
そこで円形ムーヴメントを四角いケースに入れた時計が作られるようになりますが、円形ムーヴメントの直径を、細長いレクタンギュラーまたはトノー型ケースの幅に合わせなければならないために、小さな女性用ムーヴメントを男性用時計に転用せざるを得ませんでした。
大まかに言って、ムーヴメントが大きいほど丈夫さ、正確さも向上します。社会に出て働く男性にとって、正確な時計は必需品でしたから、男性用腕時計に小さな円形ムーヴメントを使う方法には、この点で無理がありました。
【参考画像】 円形ムーヴメントを使った男性用レクタンギュラー腕時計。
1925年、グリュエン社は「懐中時計の正確さに限りなく近づいた」("the nearest approach to pocket
watch accuracy for the wrist") トノー型(樽型)ムーヴメント、クアドロン (QUADRON) を発表します。クアドロンは男性用時計のケース内のスペースをフルに使えるため、耐久性においても計時の正確性においても従来の円形ムーヴメントに比べて格段に改善されていました。クアドロンには15石のものと17石のものがありますが、いぞれも同サイズのトノー形です。当時の広告によると、クアドロン200個がスイスの天文台でテストされ、懐中時計のクロノメーターと同等の正確さが実証されたということです。
【下】 グリュエン・クアドロン 17石 この商品のムーヴメント。
この時計は17石の「クアドロン」を搭載した男性時計で、明るい艶消しシルバーの文字盤に、金色のアラビア数字インデックスを楕円を描いて植字し、四隅にアール・デコ様式のカルトゥーシュ(渦巻き文)をあしらいます。文字盤は時計が製作された当時のままで、途中で書き換えていないオリジナルですが、非常に良いコンディションです。アール・デコのカルトゥーシュ、ケース側面の彫金模様とも、1920年代の時計にしか見られない特徴です。
クラシカルな針は、短針がスペード形、長針がバトン形です。短針と長針の形が違いますが、これもオリジナルです。スペード形の針は短針にしか使いません。6時の位置に中央を彫りくぼめた小文字盤があり、秒針(スモール・セカンド)が付いています。
時計ケースはケース専業メーカーのワズワース社 (Wadsworth) が製作したゴールド・フィルド(金張り)で、手首の丸みに沿うように緩やかな曲線を描いています。このケース形状はグリュエンの時計が持つ優美な特徴で、後にグリュエン・カーヴェクス
(Gruen Curvex) の名で知られることになります。
ケースの裏蓋内側にはグリュエン (GRUEN) の社名と、その下に次の刻印があります。
14K GOLD REINFORCED WITH METAL (14金をベース・メタルで補強)
金張りとはケース重量の二十分の一以上の金を使用しているという意味です。この時計に使われている金はアメリカ合衆国のスタンダードである14カラット・ゴールド(14金、純度
14/24、すなわち58.5%の金)で、アジア諸国で使用される18カラット・ゴールドに比べて耐摩耗性に優れています。
14カラット・ゴールドは18カラット・ゴールドに比べて純度の点で劣ると言う人がいますが、だからどうなんだと思います。そもそも時計のケースに金を張るのは、地金に対する金属アレルギーを防止するためですから、ケースに張る金は摩耗しにくいほうが良いに決まっています。インゴットのように融かして売るわけではないので、純度が高いほうが良いと考えるのは間違いです。
また、金張りと金めっきは違います。金めっき、特に現代の金めっきは電解液中で行われるエレクトロプレートで、厚さは3ミクロン程度のものがほとんどです。これに対して古い時代のロールド・ゴールド・プレート及びゴールド・フィルドは金の薄板を熱と圧力で真鍮等に貼り付ける方法であり、エレクトロプレートよりもはるかに肉厚です。特にグリュエン社の金張りケースは高品質で有名で、金の厚みは80ミクロンに達することもありました。単に「14金張り」(14K
GOLD FILLED) と書かずに「14金をベース・メタルで補強」(14K GOLD REINFORCED WITH METAL) と書いているところに、グリュエン社の自負が表れています。実際この時計のケースも、突出部分を含め、地金の露出はどこにも見当たりません。
材質表示の下に刻まれた数字 5172012 はケースのシリアル番号、その下の 117 はムーヴメントの型式です。70はケース・デザインのコードでしょう。
ムーヴメントは錆もなく、たいへん良いコンディションです。二番受けにはグリュエンの社名と「プレシジョン」のブランド(商標)名が刻印されています。「プレシジョン」(PRECISION)
とは英語で「正確」という意味です。グリュエンの社名の上あたり、受けと受けの間の地板に、キャリバー名117の刻印があります。
角穴車の横には「17石」(SEVENTEEN JEWELS) 及び「温度に対して調速済」(ADJUSTED TO TEMPERATURE)
と刻印されています。
「17石」とは17個のルビーが部品として使われているという意味です。17個という数には必然性があり、「17石」は高い耐久性が必要な箇所のすべてにルビーを使用したハイ・ジュエル・ムーヴメント
(high-jewel movement)、すなわち高品質のムーヴメントであることを示しています。
「温度に対して調速済」とは、温度変化が天符の等時性(すなわち時計の歩度、進み具合)に及ぼす影響を最小限に抑えるように設計してあるという意味です。ふつうのムーヴメントには「調速無し」(UNADJUSTED)
と書かれていますから、このクアドロンがハイ・ジュエル(17石)のなかでもとりわけ高級品であることがよくわかります。
角穴車の反対側には、「スイス」(SWITZERLAND) の文字と、ムーヴメントのシリアル番号が刻まれています。グリュエンの本社はシンシナチ(アメリカ)にありましたが、ムーヴメントはスイスの工場で製作していました。
当時、時計の価格は給与数か月分にも相当しました。時計会社が打刻した一つ一つの時計に固有のシリアル番号は、当時の時計がいかに高価な品物であったかを証ししています。1925年において、この品質の時計の価格は、おそらく初任給の4カ月から6カ月分に相当したはずです。
ひげぜんまいは巻き上げひげ(ブレゲひげ)です。当店ではご注文後(お買上げ後)にオーバーホールをいたしますので、現状では未整備ですが、それにもかかわらず天符の振り角は大きく、ぜんまいを巻き上げるだけでたいへん元気に動き始めます。振ってスタートを掛ける必要もありません。
裏押さえ、鼓車、キチ車、竜真とオシドリの噛み合わせの溝、オシドリネジを留める地板の孔等、破損・損耗しやすい箇所に関しても、まったく問題はありません。
バンドの種類により、本体価格 189,000円 から 210,000円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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