1972年製の「ブローバ オーシャノグラファー」。17石手巻きムーヴメント、「ブローバ キャリバー 11AOCD」を搭載しています。「キャリバー
11AOCD」を含む「キャリバー 11AO」系ムーヴメントは、ブローバが製作した最後の機械式ムーヴメントです。
本品は 1972年製ですが、1970年代特有の奇抜さは無く、1960年代のドレッシーなデザインを継承しており、機械式時計であるという点を除けば、外見上は現代の時計との共通点が多くなっています。すなわちセンター・セカンド式あるいは「中三針(なかさんしん)式」であり、秒針は赤色ではなく、ケースの材質はステンレス・スティールです。時針と分針の形も現代風の太いバトン型です。
文字盤はわずかにブラウンがかったダーク・グレーで、ヘアライン加工により上品な半艶消し仕上げとなっています。ヘアライン加工は文字盤の中心部から放射状に為されており、時計を傾けると扇状の光が文字盤上を動きます。上下の写真に写っているように、文字盤の中心近く、九時を少し過ぎたあたりに、長さ
1ミリメートルほどのキズがありますが、ヴィンテージ・ウォッチの文字盤としてはたいへん綺麗な状態です。本品の文字盤は再生(リファービッシュ、リダン)したものではなく、時計が製作された当時のオリジナルです。「ブローバ オーシャノグラファー」(BULOVA
OCEANOGRAPHER)、「333フィート」(333 FEET) の表示があります。
「オーシャノグラファー」(OCEANOGRAPHER) とは英語で「海洋学者」「海洋調査者」のことで、防水性を強調したモデル名と思われますが、アンティーク時計(ヴィンテージ時計)の防水性は本品に限らず失われています。「ブローバ オーシャノグラファー」はダイバーズ・ウォッチのデザインのものがほとんどですが、本品はスーツ着用時にも使えます。このようにドレッシーな「オーシャノグラファー」は、私自身初めて手に入れた稀少品です。
文字盤の周囲十二か所にある「長針五分ごと、短針一時間ごと」の印を「インデックス」(英 index)といいます。本品のインデックスは短い棒状の部品を植字したバー・インデックスです。3時の位置にはインデックスが無く、「デイト(日付)表示」の窓が開いています。
長針と短針、及びインデックスの外側(文字盤の縁に近い側)には、放射性物質トリチウムを含む夜光塗料が塗られています。トリチウムの半減期は 12.32年と短く、この時計の夜光塗料は現在では光りません。文字盤の最下部に「T
スイス製 T」(T SWISS MADE T) と表記されています。前後の "T" はトリチウムが使用されていることを表します。
電池で動く時計を「クォーツ式」、ぜんまいで動く時計を「機械式」といいます。また時計内部の機械を「ムーヴメント」(英 movement)といいます。機械式ムーヴメントには「手巻ムーヴメント」と「自動巻ムーヴメント」があります。本品が搭載するのは、機械式ムーヴメントのなかでも、「手巻ムーヴメント」と呼ばれる種類です。機械式ムーヴメントの二種類、「手巻ムーヴメント」と「自動巻ムーヴメント」にはそれぞれに長所があります。「手巻ムーヴメント」の最大の長所は、「自動巻ムーヴメント」よりも構造が簡単で部品点数も少ないゆえに、故障が少なく、メンテナンス性に優れることです。
一日一回、竜頭(りゅうず ツマミ)を回してぜんまいを巻き上げるのに少しの手間がかかるのも、時計への愛着を増してくれます。上の写真では、いちばん手前に銀色の大きな歯車(角穴車)があり、その下にさらに大きな金色の歯車の一部が写っています。大きな金色の歯車は「香箱」(こうばこ)の蓋です。写真では分かりづらいですが、「香箱」は扁平な円柱状容器で、この中にぜんまいが入っています。竜頭を回す力は「丸穴車」(角穴車の隣にある銀色の歯車)を経由して角穴車に伝わり、香箱を回転させてぜんまいを巻き上げます。
本品のムーヴメントには「ブローバ時計会社」(BULOVA WATCH Co)、11AOCD、「十七石」(SEVENTEEN JEWELS)
の刻印があります。
良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはモース硬度「9」と非常に硬い鉱物(コランダム Al2O3)ですので、高級時計の部品として使用されるのです。手巻、自動巻にかかわらず、必要な部分すべてにルビーを入れると、「17石」(じゅうななせき)のムーヴメントになります。17石のムーヴメントは「ハイ・ジュエル・ムーヴメント」(英 high jewel movement)と呼ばれ、高精度、長寿命の高級機です。
"11AOCD" はムーヴメントの型式です。「ブローバ キャリバー 11AOCD」は、「ブローバ キャリバー 11AO」系のムーヴメントです。「ブローバ キャリバー
11AO」系には次の機種が含まれます。
11AO | 手巻 | 二針 | |
11AOC | 手巻 | 三針 | |
11AOCD | 手巻 | 三針 | デイ (本品) |
11AOCB | 手巻 | 三針 | デイ・デイト |
11AOAC | 自動巻 | 三針 | |
11AOACD | 自動巻 | 三針 | デイ |
11AOACB | 自動巻 | 三針 | デイ・デイト |
上述したように、自動巻ムーヴメントに比べて、手巻ムーヴメントはメンテナンス性に優れます。時計を長く使う上で、これは大きな長所です。
ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)を「ケース」(英 case)といいます。本品のケースはステンレス・スティール製で、ヘアラインによる半艶消し仕上げが施され、文字盤と上品に調和しています。ステンレス・スティールは摩耗に強く、アレルギーも起こしにくい優れたケース素材です。
竜頭はブローバのロゴ (BULOVA) があり、この時計の新品時から付いていたオリジナルと思われます。手巻時計は竜頭を毎日回してぜんまいを巻きます。そのため自動巻時計やクォーツ時計に比べて竜頭が摩耗しやすいですが、本品の竜頭は全く摩耗していません。この時計があまり使われていなかったせいでしょう。
本品のベゼル(ケースの文字盤側)には、1時のあたりに、1ミリメートルに満たないほどの小キズが付いています。よく見るとこのほかにも通常の使用に伴う小キズがたくさんついていますが、これを気にしていては時計を使えません。ステンレス・スティール製ケースの小キズは素材の特性上避けることができません。
上の写真はケースの裏側で、裏蓋に「ブローバ」(BULOVA)、N1、N953896、「ステンレス・スティール製ケース」(STAINLESS
STEEL CASE) の刻印があり、下手な字で名前が書いてあります。"N1" はブローバ特有の製造年の表示で、「1971年製」を表します。"N953896"
はケースのシリアル番号です。
ケースの刻印 "N1" は、厳密にいえば、時計の製造年ではなく、ケースの製造年です。本品のムーヴメントには "N2"
と刻印されていますので、1972年に製作したムーヴメントを、1971年製のケースに入れたことがわかります。したがって本品の正確な製造年は、1972年です。
本品は男性用として作られた時計ですが、一部の現行品のように極端な大型サイズではないので、大きめの時計がお好きな女性にも十分にお使いいただけます。
バンドはお好きな色、質感、長さの革バンド、もしくは金属製バンドに換えることができます。本品のラグ(バンドを取り付ける突起)間の距離は 18ミリメートルで、さまざまな色や材質のバンドが最も手に入りやすいサイズですので、後あとのバンド交換も容易に楽しむことができます。本品はケースも文字盤も無彩色ですので、何色のバンドでも美しく合わせることができます。時計会社はバンドまで作っていませんので、アンティーク時計のバンドをお好みのものに取り換えても、アンティーク品としての価値はまったく減りません。時計お買上時のバンド交換は、当店の在庫品であれば無料で承ります。
当店の時計は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、お客様のご都合に合わせた現金の分割払い(19,800円ずつ六回払い、9,900円ずつ十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。