多石使用の高級品 《女性用アンティーク時計 アリスン 十五石》 アール・デコのアラビア数字 可愛い小秒針付き文字盤 スイス 1930年代


竜頭を除く時計本体の直径 22.3 ミリメートル  風防と裏蓋を含む厚さ 8.9 ミリメートル



 いまからおよそ九十年前、1930年代頃にスイスで製作された女性用時計。一円硬貨ほどの小さなサイズです。

 本品は電池で動くクォーツ式ではなく、ぜんまいで動く機械式です。ぜんまいを巻いて時計を耳に当てると、チクタクチクタクという可愛らしい音が聞こえます。上質の機械式時計には、ルビー製部品が使われます。1930年代の時計は六石または七石のものが多いですが、本品は当時最も高級な十五石の機械を搭載しています。





 三時の位置に付いているツマミを、竜頭(りゅうず)といいます。クォーツ時計はぜんまいを巻く必要が無いので、たいへん小さな竜頭が付いています。クォーツ時計で竜頭を操作するのは、止まっていた時計の電池を入れ替えた場合など、時刻合わせが必要なときだけです。これに対して手巻き時計は竜頭でぜんまいを巻き上げますので、操作しやすいサイズのしっかりとした竜頭が付いています。

 竜頭を指先でつまんで回転させれば、誰でも簡単にぜんまいを巻くことができます。時刻合わせの方法は現代の腕時計と同じで、竜頭を一段階引き出して回転させます。

 竜頭の操作(ぜんまいの巻き上げと時刻合わせ)は簡単ですので、アンティーク時計が初めての方でも全く心配はいりません。ぜんまいを十分に巻き上げると、時計は一日半動きます。そのまま放っておくと止まるので、一日一回以上ぜんまいを巻き上げてください。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)、ムーヴメントを保護する金属製の容器(時計本体の外側)をケース(英 case)といいます。 十九世紀の懐中時計ケースは、ベゼル、ケース本体、裏蓋の三部分に分かれていました。ベゼルとは風防(ガラス)の枠となる部分です。ケース本体はムーヴメントの枠となります。これに対して現代の腕時計ケースは本体と裏蓋の二部分で成り立ち、ベゼルはケース本体と一体化しています。

 男性が未だ懐中時計を使っていた 1920年代に、女性用のおしゃれアイテムとして腕時計が誕生しました。本品は最初の腕時計が生まれて十年ほど経過した時代の品物ですが、ケースはベゼル、ケース本体、裏蓋の三部分に分かれ、懐中時計の名残を留めています。ベゼルとケース本体は銀色の金属で、真鍮にクロムめっきを掛けたものと思われます。ベゼルには繊細な唐草模様が打刻されています。裏蓋はステンレス・スティールで出来ています。





 針が動く背景となる板状の部品を、文字盤(もじばん)または文字板(もじいた)といいます。本品の文字盤はもともと白色でしたが、九十年の歳月により、均一のパティナに色づいています。パティナとは建物や仏像、時計など古い物が有する風合いのことで、古色とも言い、本物のアンティーク品だけが有する美です。

 文字盤の上部には、クロノメター・アリスン(CHRONOMETER ARISON)のロゴが見えます。クロノメター(英 chronometer)とは古典ギリシア語クロノス(χρόνος 時、時間)の語幹(χρον-)とメトロン(μέτρον 計器)の語幹(μετρ-)をオミクロン(-ο-)で繋ぎ、語尾を近代語風に整えた語で、時を計る機械、すなわち時計のことです。





 本品の時針と分針は、先端寄りに環状の装飾を有するブレゲ針です。ブレゲ針の環状装飾は、時間の象りである月を模しています。六時の位置には小文字盤があって、金色の可愛らしい針が回っています。これはスモール・セカンド・ハンドと呼ばれる小秒針です。三本の針は錆も無く、たいへん良い状態です。

 現代の時計は中三針(なかさんしん)式、あるいはセンター・セカンド式と言って、文字盤の中央に秒針が付いています。中三針式(センター・セカンド式)のムーヴメントは作るのが難しく、1960年代になってようやく普及しました。それ以前の時計は小秒針式(スモール・セカンド式)で、六時の位置に小さな秒針が付きます。本品もそのような時計の一つです。





 アンティークの女性用時計はたいへん小さいので、二ミリメートルの小秒針を付けても見づらく、あまり実用的ではありません。それゆえこの時代の女性用時計は秒針を持たないことが多いですが、本品には小秒針が付いています。ムーヴメントが多石であることと考え合わせれば、本品の本格的な作りは、男性用時計に引けを取りません。





 文字盤の周囲十二か所にある長針五分ごと、短針一時間ごとの数字を、インデックス(英 index)といいます。インデックスには時代毎にはっきりとした流行があり、1940年代以前に製作された腕時計では、すべての正時にアラビア数字が使われます。

 本品のインデックスは針と同じ金色で、すべての正時が立体的なアラビア数字、外周の小点が立体的な小円となっています。毎正時のアラビア数字はまったくのアール・デコ様式です。





 本品はバンドの取り付け方が現代の時計と異なります。腕時計のケースには、バンドを取り付けるための突出があります。この突出をラグ(英 lugs)といいます。現代の時計では十二時側と六時側に二本ずつのラグが突出し、伸縮するバネ棒を使ってバンドを取り付けます。しかるに腕時計が誕生して間もない 1930年代に、このような仕組みはまだ普及していませんでした。

 本品の十二時側と六時側には、単純な針金状のラグが設けられています。これは最古の様式のラグで、ワイヤラグ(英 wire lugs 針金状ラグ)と呼ばれます。本品のワイヤラグに適合するのは、取り付け部の幅 9ミリメートルの革バンド、または端を開くことが出来る金属製バンドです。





 ワイヤラグに革バンドを取り付けるには、端が開いた特別な種類である必要があります。ワイヤラグ用の革バンドは一般に市販されていませんが、当店では取り扱いがあります。端を開くことが出来る金属製バンドも、数種類が在庫しています。また特殊な金具を使えばコード・バンド(紐状のバンド)を使うことも可能で、当店にはこの金具も在庫しています。上の写真は当店に在庫するワイアラグ対応品で、コードバンド用金具、及び金属製バンドの例です。現在取り付けられている革バンドが破損しても、取り換えることが出来ますのでご安心ください。

 なおアンティーク時計のバンドは元々取り付けられていた「オリジナル」でなくても構いません。革製のものは言うまでも無く、バンドはすべて消耗品ですし、昔のバンドが使える状態で残っていたとしても、それは前の所有者が自分に合うサイズ、好みのデザインのバンドを取り付けているだけのことです。時計会社はバンドまで作っていませんから、自分に合うサイズとデザインのバンドを取り付けるのが、アンティーク時計との正しい付き合い方です。





 上の写真は本品の裏蓋側で、ケース製造会社の社名あるいはブランド名と、ステンレス・スティール・バック(ステンレス・スティール製裏蓋)の表示が刻印されています。

 腕時計のケースが摩滅しやすいのは、手首と擦れ合う裏側です。裏蓋が摩滅して孔が開くと、精密機械であるムーヴメントが汗や埃に晒されて、時計は停止します。このような事態を防ぐために、本品の裏蓋はステンレス・スティールでできています。ステンレス・スティールは摩滅せず、金属アレルギーも起こしにくいので、理想的なケース素材の一つです。





 上の写真は裏蓋の裏側です。油性ペンで書かれているのは整備(オーバーホール)の記録です。本品は我が国でも数少ないサーティファイド・マスター・ウォッチメイカー(C.M.W. 公認高級時計師)に整備していただき、順調に動作しています。





 時計内部の機械をムーヴメント(英 movement)といいます。現代の時計はクォーツ式時計といって、電池で動くクォーツ・ムーヴメントを使っています。クォーツ式時計が普及したのは 1970年代後半以降で、それ以前の時計は電池ではなくぜんまいで動いていました。

 電池で動く時計をクォーツ式時計と呼ぶのに対して、ぜんまいで動く時計を機械式時計といいます。アンティーク時計はすべて機械式時計です。上の写真は本品の裏蓋を開けて、ムーヴメントを撮影しています。本品も機械式時計で、電池ではなくぜんまいで動きます。電池は不要なので、本品のムーヴメントには電池を入れる場所がありません。





 良質の機械式時計には、摩耗してはいけない部分にルビーを使います。ルビーはたいへん硬い鉱物ですので、高級時計の部品として使用されるのです。

 ムーヴメントの表面に赤く見えているのがルビーで、上の写真では四つしか見えませんが、文字盤を外さないと見えないムーヴメントの地板側やムーヴメントの内部を含めると、合計十五個のルビー製部品が使われています。





 二番受けの四時付近、すなわち上の写真のいちばん手前には、フィフティーン・ジュエルズ(15 JEWELS)、スリー・アジャストメンツ(3 ADJ)の文字が刻印されています。

 女性用腕時計に使われるルビーの数は、1920年代のスイス製であれば六個、1930年代のスイス製であれば七個が普通でした。しかるに本品は十五石という多石のムーヴメントを搭載しています。スリー・アジャストメンツとは歩度(時計の進み具合)に狂いが生じないように、三通りの姿勢で検査が行われているという意味です。三通りの姿勢とは文字盤が上向き、文字盤が下向き、九時が上向きのことです。

 1930年代は女性の社会進出が未だ進んでいませんでしたが、作家のコレットやファッション・デザイナーのココ・シャネル、飛行家のアメリア・イアハート、我が国では平塚らいてうや与謝野晶子など、目覚ましい活躍をする女性たちも登場し始めていました。本品もそのように先進的な女性のために作られた時計と思われます。





 本品はスイスから日本に輸出された品物です。1930年代当時の我が国において、本品のように質の良い時計の価格は、初任給のおよそ半年分に相当しました。現代の貨幣価値でいえば、九十万円から百万円といったところでしょうか。クォーツ式(電池式)の安価な時計が容易に手に入る現在から見ると、昔の時計は想像もつかないほど高価な品物であったわけですが、製造後数十年経った時計でも普通に使えるという「一生もの」のクオリティを備えていたのであって、いわゆるブランド代ゆえに品質に比べて価格が高すぎる商品とは事情が異なります。初任給半年分の価格が付いた商品には、初任給半年分の実質的な値打ちがあったのです。

 機械式時計は現在でも作られています。高級品を紹介する雑誌などで見かける数十万円から数百万円の時計が、機械式時計です。クォーツ式時計は数年の寿命で、かなり良いものでも十年余りで回路が壊れて修理不能になりますが、機械式時計は数十年以上のあいだ動く「一生もの」です。良質の機械式時計の「初任給数か月分」という値段は、昔も今も変わりません。





 アンティーク時計の中にはもともと質が良い時計であっても、きちんとメンテナンスされていなかったために劣化している品物もありますが、本品は外装及び内部の機械とも良い状態です。本品は上級時計師によるオーバーホール済で、たいへん調子よく動いています。特筆すべき問題は何も無く、末長くご愛用いただけます。

 なお本品は部品が在庫していないので現状売りと表示していますが、これは時計お買い上げ後の不具合に対応しないという意味ではございません。現状売りの字面とは矛盾しますが、アンティークアナスタシアでは現状売りと表示した時計であっても、出来る限りの修理に対応しております。お支払方法は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(三回払い、六回払い、十二回払いなど。利息手数料なし)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。ご遠慮なくご相談くださいませ。


 アンティーク時計を安心してご購入いただくために、全般的な解説ページをご用意いたしました。アンティーク時計を初めて購入される方は、こちらをお読みくださいませ。





本体価格 88,000円 現状売り

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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