ハミルトン キャリバー 757
Hamilton cal. 757






 ハミルトン「キャリバー 757」は、ハミルトン社が 1955年から 1961年までアメリカの自社工場で生産した21/0サイズの手巻ムーヴメントで、振動数は 18,000振動です。後継機「キャリバー761」(1961 - 1969年?)とともに、高温、低温、アイソクロニズム、五つの姿勢差に関するアジャストメントを誇る22石の最高級機です。

 「キャリバー761」のひげぜんまいはエリンヴァー・エクストラ (Elinvar Extra) 製ですが、「キャリバー 757」もおそらく同様です。エリンヴァー・エクストラでできたひげぜんまいは、温度変化による歩度の変化を完全に解消する自己補正ひげです。「キャリバー761」はネジ無しの天符と平ひげですが、「キャリバー757」はクラシカルなチラネジ天符とブレゲひげを採用しています。耐震装置はキフ (Kif) を採用しています。


 下に示した三枚の写真でご覧いただけるように、ハミルトン「キャリバー 757」は二番車の日の裏側と裏蓋側に穴石を使っているほか、日の裏側ではアンクルとガンギ車、裏蓋側では三番車、四番車、ガンギ車にそれぞれ受石を装備しています。

 ハミルトン「キャリバー 757」の大きな特徴は、受石座にネジ頭が見あたらないことです。この部分はいったいどうなっているのでしょうか。


Hamilton cal. 757 裏蓋側

Hamilton cal. 757 日の裏側

 筒カナを抜いたところ。二番車の日の裏側穴石が見えます。


 ハミルトン「キャリバー 757」を分解するとすぐに気付きますが、この機種の受石座のネジは裏側から入れてあります。この構造は通常のムーヴメントを見慣れた人には奇異に感じられるかも知れませんが、実はたいへん合理的な作りであって、高級腕時計及び高級懐中時計にしか見られない特徴です。

 すなわち、通常のムーヴメントであれば、地板側及び受け側の孔にネジを切って、受石座のネジを留めています。しかるにハミルトン「キャリバー 757」では、地板側及び受け側の孔にではなく、受石座の孔にネジを切っているのです。

 地板あるいは受けに受石座を取り付ける際、ネジを締める力加減を誤ってネジが折れると、通常であればネジの先が地板や受けのネジ穴に入り込んでいて、取り出すことができません。このような事態になれば、地板あるいは受けを全交換せざるを得ません。しかるにハミルトン「キャリバー 757」の場合、もしもネジが途中で折れても、折れた先端部は受石座に食い込むだけで、地板や受けはまったく損傷しません。このような理由で、「キャリバー 757」の受石座は裏からネジ留めされているため、表側からはネジ頭が見えないのです。

 その他の特長としては、多くの時計のムーヴメントが銅の合金にニッケルめっきあるいは銀めっきを施しているのに対し、ハミルトン「キャリバー 757」はニッケル合金を削り出して作られています。また「キャリバー 757」はアメリカ製ですが、主ぜんまいの先端部はT字形になっているのではなくて、スイス時計の主ぜんまいと同様の形状をしています。ハミルトン「キャリバー 757」は、有名な「キャリバー 770」に劣らない名作であると思います。




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