十九世紀後半から二十世紀初頭、すなわち未だ腕時計が存在しなかった時代に、フランスで作られた懐中時計用チェーン。本品の材質は銀色のめっきを掛けた真鍮ですが、長い年月のうちにところどころの銀めっきが剥がれて、全体としては淡い金色に近く見えます。二十世紀以降に作られた品物は実用上の合理性のみを追求しがちですが、本品の棒状リンクは美しい彫金風パターンで飾られ、古き良きベル・エポックの薫りを今に伝えています。
懐中時計は腕時計に比べて重量があります。懐中時計用チェインは大きな重量がかかった状態で各部が擦れ合うため、チェイン各部の連結部位はどうしても摩耗が進みがちです。しかるに本品は突出部分の銀色めっきが剥がれてはいますが、真鍮(またはブロンズ)自体には、実用上問題となる摩耗が認められません。二か所のクラスプはいずれもバネ式で、作動に問題はありません。本品は十分に実用可能で、日々お使いいただけます。
棒状リンク両端の孔が摩耗によって広がると修理することができませんが、本品には問題になる箇所はありません。棒状リンク同士を繋ぐ小さな環は細いために最も摩耗しやすいですが、本品は現状において実用上問題となる脆弱な部分はありません。棒状リンクには彫金模様がありますが、棒状リンク同士を繋ぐ小さな環は針金を曲げただけの部品ですので、仮に摩耗しても容易にパーツ交換が可能です。