マヨリカとファイアンス
maiolica et faience




 ファイアンス(またはファイアンス焼)はマヨリカ(マヨリカ焼)と呼ばれる陶器の一種で、スズを含む釉薬を使用した真っ白な地肌が特徴です。中東において8世紀ごろにはすでに確立されていた技法ですが、ヨーロッパでは近世以降に作られるようになりました。


【中国のカオリンとヨーロッパのカオリン】

  近世ヨーロッパの貴族は真っ白な地肌を有する中国の磁器を愛好しましたが、ヨーロッパが磁器の生産にようやく成功したのは18世紀のことでした。ヨーロッパで磁器を作れなかった理由は、産出するカオリンの違いにあります。

 景徳鎮の周辺には良質のカオリン(陶土)が大量に産出します。カオリンという粘土鉱物の名称自体、景徳鎮市の地名「高嶺」(ピン音で Gaoling)に由来します。景徳鎮のカオリンは風化残留性、すなわち花崗岩の山体がまるごと風化してそのままの位置に残っているものであり、採掘のしやすさ、量の多さで群を抜いています。また磁器にすると真っ白に焼成します。

 これに対してヨーロッパに産出するカオリンは、含有する金属ゆえに、焼成しても真っ白になりません。また可塑性にも劣ります。それゆえに磁器作りに使えないのです。


【マヨリカ焼とファイアンス焼】

 上記のような理由でヨーロッパでは白い磁器を作ることができませんでしたが、その代わりにスズ(錫)を含む釉薬を陶器に掛けて、真っ白な表面を得る技法が発達しました。この技法で製作された陶器がマヨリカ焼 (maiolica) です。マヨリカ焼の陶器には、様々な金属やその化合物を用いることにより、あらゆる色で鮮やかな絵付けを行うことが可能です。

 17世紀以降にフランスやオランダで製作されたマヨリカ焼を「ファイアンス焼」 (faience) と呼んでいます。ファイアンスという名称は、15世紀以来マヨリカ陶器の産地であるファエンツァ(Faenza イタリア、エミリア=ロマーニャ州ラヴェンナ県)のフランス語読みに由来します。中国から輸入される磁器をまねたデルフト焼は、ファイアンスの一種です。


【フランスにおけるファイアンス焼】

 フランスでは17世紀にファイアンス焼の生産が始まりました。この時代に国王であった「太陽王」ルイ14世 (Louis XIV, 1638 - 1715) は諸外国を相手に数々の戦争に勝利して、フランスの絶頂期を築き上げましたが、その巨額の戦費を賄うために、食器をはじめとする金銀製品を貴族に供出させました。金銀製品を失った貴族の需要に応えたのがファイアンスだったのです。この時代にファイアンスが作られ始めて飛躍的に発展したのは、したがって、ルイ14世の金銀供出令のおかげであるともいえます。

 フランスにおけるファイアンスの産地は1300か所にものぼりますが、なかでもデーヴル(Desvres、ノール=パ=ド=カレー地域圏パ=ド=カレー県)、カンペール(Quimper ブルターニュ地域圏フィニステール県)、ヌヴェール(Nevers ブルゴーニュ地域圏ニエーヴル県)等が有名です。




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