J. ピリウ作 「エジプトへの逃避における休息」 木蔭に憩う聖家族と天使、水を飲む驢馬


枠を含めた全体のサイズ 縦 30.5 x 横 24.5 cm  ガラスを含めた最大の厚み 5.0 cm

フランス  19世紀後半



 丸彫りを多用した立体的な描写が、あたかもイエズスの公生涯の一場面に居合わせるかのような錯覚を観る者に起こさせる群像。縦 21センチメートル、横 15センチメートルの彫刻を、縦 30.5センチメートル、横 24.5センチメートルの楕円形額縁に嵌め込み、ドーム状のガラスで保護しています。この作品のモティーフとなっているのは「エジプトへの逃避」で、「マタイによる福音書」 2章に記録されています。



 「マタイによる福音書」 2章によると、東方の三博士が「ユダヤ人の王」を礼拝しに来たことを知ったヘロデ大王は、幼子の所在を知らせるように博士たちに依頼しますが、博士たちは夢で警告を受け、ヘロデの許に立ち寄らずにそのまま帰国します。これに怒ったヘロデは、新しい王の出現を阻止するため、エルサレムの祭司長や律法学者、占星術師たちから得た情報に基づいて、ベツレヘムに住む二歳以下の男児を皆殺しにしました。

 幼子の虐殺が起こる直前、天使がヨセフの夢に現れて、マリアとイエスを連れてエジプトに逃げるように、またヘロデ大王が死んだと知らせるまでエジプトに留まるように命じたので、ヨセフは夜が明ける前に聖母子を連れてベツレヘムから脱出し、辛うじて難を逃れました。


(下) Rembrandt, „Der Engel erscheint Josef in einem Traum“, 1645, Holztafel, 20 x 27 cm, Staatliche Museen, Berlin





 「マタイによる福音書」 2章 13節から 15節、及び 19節から 23節を、ギリシア語原文(ネストレ=アーラント26版)と日本語(新共同訳)によって引用します。

13  Ἀναχωρησάντων δὲ αὐτῶν ἰδοὺ ἄγγελος κυρίου φαίνεται κατ' ὄναρ τῷ Ἰωσὴφ λέγων, Ἐγερθεὶς παράλαβε τὸ παιδίον καὶ τὴν μητέρα αὐτοῦ καὶ φεῦγε εἰς Αἴγυπτον, καὶ ἴσθι ἐκεῖ ἕως ἂν εἴπω σοι: μέλλει γὰρ Ἡρῴδης ζητεῖν τὸ παιδίον τοῦ ἀπολέσαι αὐτό.      占星術の学者たちが帰って行くと、主の天使が夢でヨセフに現れて言った。「起きて、子供とその母親を連れて、エジプトに逃げ、わたしが告げるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが、この子を探し出して殺そうとしている。」
14  ὁ δὲ ἐγερθεὶς παρέλαβεν τὸ παιδίον καὶ τὴν μητέρα αὐτοῦ νυκτὸς καὶ ἀνεχώρησεν εἰς Αἴγυπτον,    ヨセフは起きて、夜のうちに幼子とその母を連れてエジプトへ去り、
15   καὶ ἦν ἐκεῖ ἕως τῆς τελευτῆς Ἡρῴδου: ἵνα πληρωθῇ τὸ ῥηθὲν ὑπὸ κυρίου διὰ τοῦ προφήτου λέγοντος, Ἐξ Αἰγύπτου ἐκάλεσα τὸν υἱόν μου.    ヘロデが死ぬまでそこにいた。それは、「わたしは、エジプトからわたしの子を呼び出した」と、主が預言者を通して言われていたことが実現するためであった。
       
19  Τελευτήσαντος δὲ τοῦ Ἡρῴδου ἰδοὺ ἄγγελος κυρίου φαίνεται κατ' ὄναρ τῷ Ἰωσὴφ ἐν Αἰγύπτῳ    ヘロデが死ぬと、主の天使がエジプトにいるヨセフに夢で現れて、
20  λέγων, Ἐγερθεὶς παράλαβε τὸ παιδίον καὶ τὴν μητέρα αὐτοῦ καὶ πορεύου εἰς γῆν Ἰσραήλ, τεθνήκασιν γὰρ οἱ ζητοῦντες τὴν ψυχὴν τοῦ παιδίου.    言った。「起きて、子供とその母親を連れ、イスラエルの地に行きなさい。この子の命をねらっていた者どもは、死んでしまった。」
21  ὁ δὲ ἐγερθεὶς παρέλαβεν τὸ παιδίον καὶ τὴν μητέρα αὐτοῦ καὶ εἰσῆλθεν εἰς γῆν Ἰσραήλ.    そこで、ヨセフは起きて、幼子とその母を連れて、イスラエルの地へ帰って来た。
22  ἀκούσας δὲ ὅτι Ἀρχέλαος βασιλεύει τῆς Ἰουδαίας ἀντὶ τοῦ πατρὸς αὐτοῦ Ἡρῴδου ἐφοβήθη ἐκεῖ ἀπελθεῖν: χρηματισθεὶς δὲ κατ' ὄναρ ἀνεχώρησεν εἰς τὰ μέρη τῆς Γαλιλαίας,    しかし、アルケラオが父ヘロデの跡を継いでユダヤを支配していると聞き、そこに行くことを恐れた。ところが、夢でお告げがあったので、ガリラヤ地方に引きこもり、
23  καὶ ἐλθὼν κατῴκησεν εἰς πόλιν λεγομένην Ναζαρέτ, ὅπως πληρωθῇ τὸ ῥηθὲν διὰ τῶν προφητῶν ὅτι Ναζωραῖος κληθήσεται.    ナザレという町に行って住んだ。「彼はナザレの人と呼ばれる」と、預言者たちを通して言われていたことが実現するためであった。



 伝統的キリスト教美術において、「エジプトへの逃避」はキリスト降誕に関する連作、及び聖母マリアの七つの悲しみに関する連作に組み込まれるテーマで、聖母子は驢馬に乗って、聖ヨセフは徒歩で旅路を歩む姿のほか、聖家族が木蔭や水辺で休息する光景もよく描かれます。






 本品はエジプトへの旅の途中で休息する聖家族と水を飲む驢馬(ろば)、それを見守る天使を、たいへん精緻かつ立体的な浮き彫りにより、幾分様式化した構図で表現しています。聖家族の背後及び遠景に亜熱帯性の高木とナツメヤシを、天使の左(向かって右)の足元にアロエのような植物を配置しているのは、19世紀のヨーロッパで流行したオリエンタリズムの強い影響をうかがわせます。ナツメヤシは葉を繁らせて、エジプトの強い日差しから聖母子を守っています。





 聖母はナツメヤシの木蔭にすわり、幼子イエズスは母の左腕に抱かれて左の膝に座っています。イエズスが聖母の膝に座るのは伝統的な「知恵の座」の表現ですし、イエスが聖母の左腕に抱かれるのは、聖母が天上において「イエズスの右(向かって左)の座」に就くことを暗示しています。聖母子が共に前を向くのは、「ホデーゲートリア」、すなわち救いに至る道であるキリストを示す聖母の伝統的図像であり、幼子イエズスの姿勢も、左手で胸を示しつつ右手を挙げて祝福を与える「聖心」の図像を思い起こさせます。

 このように、聖母子の姿勢はキリスト教美術における図像表現の伝統を踏襲していますが、聖家族、驢馬、天使の描写は非常に写実的です。それぞれの人物の顔に表情があるのはもちろんのこと、衣の襞、天使の羽、驢馬の毛並、驢馬の背に載せた敷物、ヨセフの杖の木目まで克明に再現されています。

 作品の最下部に、彫刻家が「J. ピリウ」(J. Pillioud) と署名しています。元々黒かったインクは烏賊墨(セピア)色に褪色しています。





 この彫刻の素材は石膏または漆喰(しっくい)ですが、作品はいずれも丸彫りに近い人物の群像となっており、鋳型に流し込んで作ることは不可能で、彫刻家が一点一点の像を手作業で製作しています。西洋絵画の伝統に則(のっと)り、背景も遠近法に従って丁寧に制作されています。本品の優れたできばえは彫刻家の優れた技量を示し、浮き彫り彫刻が頂点を極めた19世紀フランスならではの作品に仕上がっています。






 本品の保存状態は極めて良好で、作品そのもの、及び額縁、ガラスとも、古い年代にもかかわらず、特筆すべき問題は何もありません。美術館に収蔵されていたわけでもないのに、百数十年のあいだ、壁から落下するなどの事故に一度も見舞われることなく、制作当時のままの状態で残った幸運な品物です。経年による古色が、真正のアンティーク品ならではの深い味わいを醸しています。





126,000円 販売終了 SOLD

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