稀少品 マリ=ベルナール修道士作 「フロース・カルメリー」 木彫りによるリジューの聖テレーズ 15 × 10センチメートル


珠状の脚を含む全体の高さ 157 mm  幅 103 mm  立てたときの脚を含む奥行 57 mm

ノルマンディー、トラピスト大修道院  20世紀中頃



 整った横顔を見せるリジューの聖テレーズ (Sainte Thérèse de Lisieux, 1873.1.2 - 1897.9.30) を浮き彫りにした彫刻。数々の美しいテレーズ像で知られるマリ=ベルナール修道士の作品で、細部に至るまでたいへん丁寧に仕上げられています。





 カルメル会の修道衣を着た聖テレーズは、クルシフィクスを胸に抱き、両手を組んで天を見上げています。浮き彫りの下部には「フロース・カルメリー」(FLOS CARMELI ラテン語で「カルメルの花」の意)の文字が彫られています。

 テレーズが抱くクルシフィクスは薔薇に埋もれています。薔薇は愛の象徴であるゆえに、クルシフィクスを取り巻く薔薇は第一義的に「神とキリストから発する無条件の愛」を表し、その反映である「テレーズの胸(すなわち、心)から発する神とキリストへの愛」をも表します。





 この浮き彫りはテレーズの横顔、修道衣、ヴェールから、クルシフィクスのキリスト像、一輪一輪の薔薇に至るまでたいへん写実的に彫られており、生身の修道女を眼前に見るかのような出来栄えです。テレーズの顔は完全に横向きであるにもかかわらず、聖女の瞳がまっすぐに天を見上げていることがよくわかります。





 テレーズが胸の前に組んだ手も、関節や爪まで丁寧に彫られています。クルシフィクスのコルプス(キリスト像)は、人体各部が正しい比例で再現されているばかりか、両手の釘や茨の冠までも細密に再現されています。キリストの表情は受難の苦しみを映し、両手の指は苦痛に痙攣しています。八重咲きの薔薇もまるで生花のようです。

 キリストの頭部のサイズは 5ミリメートル、キリストの手は 2ミリメートル、テレーズの爪は 2ミリメートルに満たないサイズです。この細密彫刻を可能にしている本品の素材は、黄楊(つげ)材です。たいへん緻密な高級材で、ロザリオの珠にもよく使用される黄楊は、キリスト教以前の古代から「不死」「永遠の生命」を象徴します。黄楊は「枝の主日」に祝別される植物でもあり、「キリストへの信仰告白」「救世主を迎える喜び」「キリストの勝利と栄光」「神との平和」を表します。したがって黄楊は、材の緻密さゆえに細密彫刻が可能であることに加えて、象徴性の点においても、リジューのテレーズ像を彫るのにこの上なくふさわしい素材であるといえます。





 テレーズの横顔、修道衣、ヴェールは、聖女のありのままの姿を描写したものです。これに対し、クルシフィクスと薔薇は「神の愛の象徴」として描かれているゆえに、写実的ではあっても、通常の意味の写生、写実ではありません。

 テレーズは実在の人物ですが、この作品でテレーズが抱えているクルシフィクスと薔薇は、図像表現において象徴性を担う記号に過ぎず、写生の対象となる実在物ではありません。それにもかかわらずクルシフィクスと薔薇も極めて写実的に彫られているのは、テレーズにとってイエス・キリストが二千年前の歴史を隔てた遠い存在ではなく、いま、この場におられ、まさに胸の中に抱くことができる現実の存在、生身のキリストであったことを表しています。あたかも生花のような薔薇は、神の愛がいまここで活きて働いていることを表しています。





 浮き彫りの右下部分に、マリ=ベルナール修道士の署名 (Fr. M - Bernard R) が刻まれています。この署名は略記されていますが、省略せずに書くと「フレール・マリ=ベルナール・リショム」(Frère Marie-Bernard Richomme) となります。「フレール」(frère) はフランス語で「兄弟」、すなわち「修道士」のことです。マリ=ベルナール修道士は俗名をルイ・リショム (Louis Richomme) といい、「リショム」はマリ=ベルナール修道士のノム・ド・ファミーユ(nom de famille 姓名の「姓」、苗字)です。


 マリ=ベルナール修道士と「ほほえみの聖母」


 マリ=ベルナール修道士 (1883 - 1875) は厳律シトー会(トラピスト会)の修道士で、神学校在学中の1904年にスール(シスター)・テレーズ・マルタン、後の聖テレーズの自伝「ある魂の物語」("Histoire d’une âme") を読み、深く心を動かされる体験をしています。

 1907年、ソリニ・ラ・トラプ(Soligny-la-Trappe バス=ノルマンディー地域圏オルヌ県)にある厳律シトー会(トラピスト会)に入ったマリ=ベルナール修道士は、1912年に聖母像の修復を依頼されましたが、修復は不可能であったので、新しい聖母像を1917年に完成させました。修道院長はマリ=ベルナール修道士の最初の作品であるこの聖母像を高く評価しました。同年、スール・テレーズ(後の聖テレーズ)の実姉であるメール(修道院長)・アニェスが、テレーズ像の制作をソリニ・ラ・トラプのトラピスト会修道院に依頼しました。ソリニ・ラ・トラプの修道院長は、マリ=ベルナール修道士にテレーズ像制作の仕事を命じました。マリ=ベルナール修道士は数種類のテレーズ像のほか、テレーズが幻視した「ほほえみの聖母」像も制作しています。

 本品はこのソリニ・ラ・トラプ修道院で、マリ=ベルナール修道士自らが制作したものです。マリ=ベルナール修道士が何歳まで鑿を振るっていたかわかりませんが、本品はそれほど古いものには見えません。本品の制作年代は 1950年代頃でしょうか。そうであれば修道士の年齢は六十歳代後半から七十歳代ということになります。この作品を眺めていると、日々の祈りの中で信仰の業として彫刻作品を制作したマリ=ベルナール修道士の、宗教家としても彫刻家としても円熟した優しいまなざしが、テレーズの静かな表情と重なるように思えてきます。





 本品は数十年前に制作された真正のヴィンテージ品です。写真にも写っているように、ところどころに小さな疵(きず)がありますが、保存状態は全体的に良好です。特筆すべき問題は何もありません。テレーズの浮き彫りは立体的で、光の当たる方向によってさまざまな表情を見せてくれます。





本体価格 42,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




木彫りの聖像 商品種別表示インデックスに戻る

キリスト教関連品 その他の商品と解説 一覧表示インデックスに戻る


聖像 商品種別表示インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS