フランスのアンティーク・ロゼール 十五連のロザリオ 黄楊製ビーズと植物性の紐による簡素な作例 全長 770 mm


全長 77 cm

突出部分を含むクルシフィクスのサイズ 縦 64.6 x 横 33.4 mm  最大の厚み 7.4 mm

ビーズの直径 約 7 mm 


フランス  十九世紀



 めったに手に入らない十五連のロザリオ、「ロゼール」(仏 rosaire)。十九世紀フランスの修道院で手作業により制作されたアンティーク品です。





 装飾が少なく清潔な印象のクルシフィクスは、ロザリオ全体の簡素な作りに美しく調和しています。このクルシフィクスはすっきりとしたラテン十字のシルエットで、シンプルな印象を与えますが、手間をかけて丁寧に制作されています。すなわち本品の十字架はブロンズに銀色のめっきを施したものですが、彫りくぼめた表面に黒い木を象嵌してあり、十九世紀のロザリオにときおり見られるクラシカルな作りとなっています。十字架上部のティトゥルス(羅 TITULUS 「ユダヤ人の王ナザレのイエス」と書いた罪状書き)、十字架交差部の大きな光背、コルプス(羅 CORPUS キリスト像)は、いずれも十字架裏面まで貫通する鋲でしっかりと留められています。





 十字架交差部の裏面には、キリスト受難の象徴であるいばらの冠と、その内側に剣で刺し貫かれた聖母の聖心が釘で留めてあります。磔刑に処されたイエスの苦しみと、わが子の磔刑を見なければならなかった聖母の苦しみが一体となっています。





 ビーズは黄楊(つげ)製で、金属製チェーンではなく麻ひもを通してあります。

 堅くて肌理(きめ)が細かく、美しい材として工芸品に多用される黄楊は、キリスト教以前の古代から「不死」と「永遠の生命」を象徴します。また寒冷な北ヨーロッパではナツメヤシの葉やオリーヴの枝が手に入りにくいゆえに、黄楊はそれらの植物に代わって「枝の主日」に祝別されます。したがって黄楊は、ナツメヤシの葉やオリーヴの枝と同様に、「キリストへの信仰告白」「救世主を迎える喜び」「キリストの勝利と栄光」「神との平和」をも表します。

 ロザリオ(十五連のロゼール、及び五連のシャプレ)は受胎告知の祈りである「天使祝詞」(アヴェ・マリア)を唱える際、回数を数えるために使う信心具ですが、「天使祝詞」の冒頭にある「アヴェ」(羅 AVE)、ギリシア語で言えば「カイレ」(希 Χαῖρε)は、メシア(キリスト、救世主)の到来を予告する言葉です。また聖母マリアに祈るのは、聖母が執り成し手であられるからです。したがって「キリストへの信仰告白」「救世主を迎える喜び」「キリストの勝利と栄光」「神との平和」を表す黄楊は、ロザリオの素材としてふさわしく、たいへん深い意味を持っています。





 主の祈りと栄唱のビーズ、天使祝詞のビーズとも、直径七ミリメートル前後の球形です。主の祈りと栄唱のビーズには同心円状の文様が彫られ、またフランシスカン・ノット(フランスシコ会の修道者がベルト代わりに使用する縄の結び目)のようなスペーサーで両側を区切られているゆえに、目を閉じて祈ったり暗闇で祈ったりする場合でも、祈りの種類を間違えることがありません。


 古いロザリオの木製ビーズは黒く染められている場合がほとんどですが、本品のビーズは茶色です。茶色は黒よりも見た目の印象が明るいですが、地上の生の虚しさを象徴する「土」の色でもあります。人祖の名は「アダム」といいますが、これはヘブル語で「土」を表す「アダマ」に由来します。「創世記」 2章7節には次のように書かれています。

  主なる神は、土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。(新共同訳)

 「創世記」 3章17 - 19節によると、罪を犯したアダムに対して、神は次のように言っておられます。

     神はアダムに向かって言われた。「お前は女の声に従い、取って食べるなと命じた木から食べた。お前のゆえに、土は呪われるものとなった。お前は、生涯食べ物を得ようと苦しむ。
     お前に対して、土は茨とあざみを生えいでさせる。野の草を食べようとするお前に。
     お前は顔に汗を流してパンを得る。土に返るときまで。お前がそこから取られた土に。塵にすぎないお前は塵に返る。」


 したがってビーズの茶色は、「土」に過ぎない人間に、「罪の呪い」(神から離れたゆえに起こる不幸)と「地上の生命の虚しさ」を思い起こさせます。




(上・参考写真) フレデリック・ヴェルノン作 「エヴァ」 78.6 x 30.3 mm 当店の商品です。


 アダムの妻は「エヴァ」といいますが、ラテン語の「エヴァ」または「エワ」は、へブル語「ハヴァ」または「ハワ」を訳した語で、「生命」という意味です。「ハヴァ」「ハワ」の語頭の気息音 (h) が脱落すると「エヴァ」または「エワ」となり、ここから近代諸語のエーファ(独 Eva)、エヴ(仏 Ève)、イヴ(英 Eve)等が生まれました。

 アダムの妻エヴァは、「生命」という名にもかかわらず、罪を犯すことによって、神との分離(すなわち、死)をもたらしました。しかるに聖母はエヴァと同じく人間の女でありながら、救い主を生むことによって、神との平和(すなわち、救いと生命)をもたらしました。それゆえマリアは「新しきエヴァ」と呼ばれます。

 ロゼール(ロザリオ)で唱える天使祝詞は、「カイレ・マリア」(「アヴェ・マリア」)と呼びかけて、聖母に執り成しを求める祈りです。「神との平和」を象徴する黄楊で作られ、地上の生命の虚しさを思い出させてくれる土の色(茶色)に染められている本品のビーズは、人間に救いと生命を取り次いでくださる恩寵の器(聖母)への祈りに、如何にふさわしいことでしょうか。





 ロザリオの構造に関して言えば、十九世紀前半頃までの古い時代には金属製チェーンが普及しておらず、ロザリオには紐(ひも)が使われました。ロザリオが切れそうになれば、傷んだ紐だけを通し替え、ビーズは元のものを使ったのです。

 ロザリオのセンター・メダルはフランス語で「クール」(cœur 心臓)といいます。ロザリオに金属製チェーンが使われるようになった頃、クールもまた使われるようになりました。それ以前の時代、すなわちロザリオに紐が使われていた十九世紀前半以前には、クールは存在しませんでした。

 本品は金属製チェーンがまだ使われていない時代のロザリオですので、クールもありません。本品の紐は新品のように綺麗な状態で、年代が新しいように見えますが、これは保存状態が良いためであって、実際には古いものです。ただし強度には問題ありません。クルシフィクスに関して言えば、十九世紀後半頃の様式で作られています。しかしながら本品にはクールが無く、ビーズはチェーンではなく紐を通すようにできていますので、ビーズの年代は紐やクルシフィクスよりもずっと古く、十九世紀前半またはそれ以前に遡ります。





 本品は代々に亙って使い継がれ、活きた信仰を支えてきた信心具です。十九世紀以前のものですので、連の数が現在の四玄義ではなく三玄義に対応していますが、途中で折り返して祈れば、実用することももちろん可能です。保存状態は極めて良好であり、美観上、実用上とも特筆すべき問題は何もありません。紐の強度も問題ありません。古い時代においても元々作られることが少なかった「ロゼール」(十五連のロザリオ)が、現代まで美しい状態で遺った稀少品です。





本体価格 39,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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