極稀少品 トレーネンローゼンクランツ 「イエスよ、差し迫る過ちから世を守り給え」 1930年頃の《涙の聖母のロザリオ》 全長 42.5 cm


ロザリオの全長  42.5 cm

最初のメダイを下にしてロザリオを吊り下げたときの、環状部分上端からセンター・メダル上端までの長さ  32 cm


突出部分を含む最初のメダイのサイズ  33.8 x 20.5 mm


フランス  1930年頃



 ブラジル南部カンピナスにある「十字架のイエス宣教修道女会」(葡 Instituto das Irmãs Missionárias de Jesus Crucificado)において、1930年3月8日、聖母が「鞭を受け給うイエスのアマリア」修道女に出現し、純白のビーズを使用した「涙の聖母のロザリオ」を示し給いました。このロザリオは、珠の数と配置が「七つの悲しみのロザリオ」と同じですが、クルシフィクスの代わりにメダイが取り付けられています。メダイの一方の面には悲しみのイエスが、もう一方の面には悲しみの聖母が彫られます。





 本品は1930年頃に制作された「カンピナスの涙の聖母」のロザリオ、「トレーネンローゼンクランツ」(独 der Tränenrosenkranz / der Rosenkranz Unserer Lieben Frau von den Tränen 涙の聖母のロザリオ)です。ビーズは白い不透明ガラスで、二枚のメダイはアルミニウムでできています。メダイにはドイツ語が刻まれていますが、フランス語で「デポゼ」(仏 DÉPOSÉ 意匠登録済)と刻印されており、フランスで制作された品物であることがわかります。





 メダイの一方の面にはイエス・キリストの全身像が彫られています。イエスは大祭司とパリサイ人たちに讒訴され、ローマ兵たちに捕らえられて、両手を縛られています。救い主として地上に降誕し給い、愛と義を説き給うたイエスは、人々の心が今も昔も頑(かたく)なであり続けていることを悲しんでおられます。イエスを囲むように、ドイツ語の祈りが刻まれています。

  Durch Deine göttliche Sanftmut, O gefesselter Jesus, beware die Welt vor der ihr drohenden Verirrung.  縛られ給うイエスよ。神なる御身の柔和さによりて、差し迫る過ちからこの世を守り給え。

 この祈りだけを見ると、日々近づく「最後の審判」を前にして、世の人々を憐れみ給えと祈っているように受け取れます。「近付きつつある終末に備えて悔い改めよ」とは聖書時代から続く教えであり、キリスト教の祈りとしてはごく普通の内容です。しかしながら本品が 1930年頃にドイツの人々のために作られたことを思うとき、二十一世紀に生きる我々は、「世に差し迫る過ち」(独 die der Welt drohenden Verirrung)という言葉に慄然とします。

 カンピナスにおける聖母出現を受けて「涙の聖母のロザリオ」が広まった国、地域は、ごく限られています。このロザリオが広まった国のひとつが 1930年代のドイツでした。1930年のドイツは進歩的なワイマール憲法の下にありました。このロザリオを示されたブラジルの修道女も、認可したカンピナスの司教も、メダイユとロザリオを制作したフランス人たちも、本品を手にしたドイツ語圏の信徒も、「世界に冠たるドイツ」がすぐ後に犯すことになる過ちを、1930年の時点において知る由もありませんでした。





 上の写真に写っている定規のひと目盛は一ミリメートルです。イエスの顔の高さは二ミリメートルほどしかありませんが、メダイユ彫刻家は大型の浮き彫り彫刻に勝るとも劣らない技量で、イエスの悲しみを表情に表しています。縛られた手の大きさは一ミリメートルで、衣の裾からは同様に小さなサイズに彫られた裸足のつま先が見えています。衣の襞も、顔や手と同様に、大型彫刻と同じ丁寧さで表現されています。





 もう一方の面には悲しみの聖母、「ノッサ・セニョラ・ダス・ラグリマス・デ・カンピナス」(葡 Nossa Senhora das Lágrimas de Campinas カンピナスの涙の聖母)が彫られています。

 記録によると、1929年11月8日、アマリア修道女に対して最初にイエスが出現し、「人々がわが母の涙のゆえにわたしに願う物事に、わたしは慈愛の眼差しを向けよう」と語りました。次いでその四か月後、1930年3月8日に聖母が出現し、「このロザリオで悪魔は打ち負かされ、地獄の王は滅ぼされます。この大いなる戦いに備えなさい」と語って、ロザリオを示し給いました。

 メダイに彫られているのはこのとき出現した聖母の様子です。聖母は星を散りばめた衣をまとい、悲しげに俯(うつむ)きつつ、本品と同じ「涙のロザリオ」をアマリア修道女に示しています。聖母を囲むように、次の言葉がドイツ語で刻まれています。

  Schmerzhafte Mutter, Deine Tränen zerstören die Herrschaft der Hölle.  悲しみの聖母よ、御身の涙は地獄の支配者を滅ぼします。





 上の写真に写っている定規のひと目盛は一ミリメートルです。聖母の顔の高さは、イエスの顔と同様に、約二ミリメートルです。目鼻口の各部は十分の二ミリメートルほどの極小サイズです。これは十分の一ミリメートル以下のずれで形が大きく損なわれることを意味しており、メダイユ彫刻家が百分の一ミリメートル水準の精密さで聖母像を制作していることがわかります。

 聖母の整った顔立ちは悲しみに沈み、聖母のヴェールは重々しい喪のヴェールに見えます。衣の裾からは一ミリメートルに満たないサイズのつま先が見えています。ロザリオのビーズはその一つずつが球形に整えられています。浮き彫りにされたロザリオの端には楕円形のメダイユが下がり、メダイユ内部にはこの聖母像の輪郭が彫られています。





 ロザリオのセンター・メダルは、フランス語で「クール」(仏 cœur 心臓)と呼ばれます。本品のクールは文字通り心臓形で、聖母の愛と悲しみの象徴である汚れなき御心を象(かたど)ります。クールの表裏に彫られた意匠は不思議のメダイと同じです。表(おもて)面では無原罪の御宿りが蛇を踏み付けて球体上に立ち、両手から発する光によって神の恩寵を地上に取り次いでいます。裏面には「無原罪のマリア」(羅 IMMACULATA MARIA)を表すモノグラムの下にキリストの聖心とマリアの聖心(汚れなき御心)を並べ、十二の星で囲んでいます。マーテル・ドローローサ(羅 MATER DOLOROSA 悲しみの御母)の聖心は、悲しみの剣に刺し貫かれています。


 聖母がアマリア修道女に示し給うたロザリオは、全ての珠が雪のように白く輝いていました。それゆえトレーネンローゼンクランツ(涙の聖母のロザリオ)には、純白のビーズが使われます。本品のビーズは長径六ミリメートル、短径四ミリメートル強の樽型で、新雪のように白い不透明ガラスで作られています。ひとつひとつのビーズは手作りで、形がわずかに不揃いです。不透明の白色ガラスは作るのが難しいですが、本品のガラスビーズは良くできています。表面の透明性にはわずかなむらがあって、大理石のように美しい表情をビーズに与えています。




(上) ドレスデン空襲の犠牲者 Luftangriffe auf Dresden (Bundesarchiv 183-08778-0001, Februar 1945)

(下) ベルゲン=ベルゼン強制収容所の犠牲者 Konzentrationslager Bergen-Belsen im April 1945




 本品が制作された時点で人々が知る由も無かったその後の歴史を、現代に生きる我々は知っています。本品のメダイでイエスを囲む祈りを読んだとき、第二次世界大戦時にドイツが犯した過ちと、犠牲になった人々を思い、筆者(広川)は涙を流しました。

 いま少し我が身を振り返って考えるならば、現代人も当時のドイツが犯したのと同じ過ちを犯し続けています。十字軍が三位一体の神の名において、ナチス・ドイツがアーリア民族の名において、イスラム過激派がアラーの名において犯すのは、まったく同じ過ちです。武装していない一般人も、点滴が石を穿(うが)つような精神的暴力で人を傷つけ、ときに死に追いやります。動物を傷つけて殺す者もいます。ミサにおいて日々受難し給うイエスは、このメダイに刻まれているように、縛られたままでおられます。聖母は変わらず泣いておられます。





 本品は八十年以上前に制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は良好です。特筆すべき問題はありません。





本体価格 28,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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