極稀少品 絶えざるロザリオ会のシャプレ 《いとも聖なるロザリオの女王よ、我らのために祈りたまえ》 聖母の涙の透明ビーズ 無原罪の御宿りのクール 中世の心性を刻んだ作例 全長 45 cm


環状部分の周の長さ 62 cm

ロザリオの全長 45 cm


突出部分を含むメダイユのサイズ 24.5 x 17.7 mm

クールのサイズ 19.5 x 15.2 mm


珠の長径と短径 7 x 5 mm



フランス  二十世紀初頭



 いまから百年以上前、二十世紀初頭のフランスで制作された美しいロザリオ。十七世紀前半に誕生した信心会ロゼール・ペルペテュエル(ロザリオ・ペルペトゥオ)会員のために作られており、たいへん珍しい品物です。





 通常のロザリオと違って、本品にはクルシフィクスの代わりに楕円形メダイユが採用されています。メダイユには聖母子とグスマンの聖ドミニコ、シエナの聖カタリナを打刻による浅浮き彫りで表しています。群像はロサーリウム(羅 ROSARIUM 薔薇の花環)すなわちロザリオに取り巻かれています。花環の上半分は文字となり、ロザリオの聖母に執り成しを求めるフランス語の祈りを刻みます。

   REINE DU TRÈS SAINT ROSAIRE, PRIEZ POUR NOUS.  いとも聖なるロザリオの元后よ、われらのために祈りたまえ。

 「いとも聖なるロザリオの元后」(羅 REGINA SACRATISSIMI ROSARII 仏 Reine du Très Saint Rosaire)は、ロレトの連祷における聖母の称号の一つです。


 本品メダイユにおいて、グスマンの聖ドミニコシエナの聖カタリナは聖母子からロザリオを受け取っています。この描写はカタリ派と戦う聖ドミニコが聖母から霊の武器ロザリオを授かったとの伝承に基づき、信心具のメダイユにおいて図柄が定型化されています。ロザリオの起源に関するドミニコ会の伝承からは、完成した祈り方と信心具が、聖母から聖ドミニコに与えられたかのような印象を受けます。しかしながらロザリオは長い歴史のうちで徐々に発展してきた祈りであり、聖ドミニコの伝承は歴史的事実ではありません。

 すなわち主の祈りを百五十回繰り返す祈り方は、十世紀頃のベネディクト会クリュニー修道院の労働修士に起源を有します。この祈り方が広まった後、主の祈りを天使の挨拶に置き換えたのはシトー会で、信心具ロザリオもおそらくシトー会で生まれました。天使の挨拶を百五十回繰り返す祈りは、次いで各托鉢修道会、ベギン会、カルトゥジオ会等に普及します。天使祝詞を完成させたのも、カルトゥジオ会です。ドミニコ会がとりわけ強くロザリオと結びついたのは、そのあとのことです。





 楕円形メダイユのもう一方の面には十五連のロゼール(ロザリオ)を表し、環状部分の内側に「 ガルド・ドヌール・ド・マリ」(仏 GARDE D'HONNEUR DE MARIE マリア親衛隊の意)の文字を打刻します。メダイユに刻まれたロゼールの環状部分は心臓型で、これはマリアの汚れなき御心、すなわち神とキリストに向かう愛を象(かたど)ります。


 「アソシアシオン・デュ・ロゼール・ペルペテュエル」(仏 ASSOCIATION DU ROSAIRE PERPÉTUEL 絶えざるロザリオ会)の文字が、ロゼールを取り巻くように打刻されています。これはイタリア語の「アッソチアツィオーネ・デル・ロザリオ・ペルペトゥオ」(伊 l'Associazione del Rosario Perpetuo)と同じ意味です。

 フィレンツェ近郊ドミニコ会フィエゾーレ修道院(il convento di San Domenico)の院長であったティモテオ・リッチ師(P. Timoteo Ricci OP, 1579 - 1643)は、1629年、ロザリオ・ペルペトゥオ(絶えざるロザリオ会)を創始しました。この会はロザリオの祈りを広めることを目的にしており、本部はフィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂に置かれています。会員には俗人と聖職者の両方が含まれます。

 ロザリオ・ペルペトゥオの会員は、特定の日の特定の一時間のあいだ、単独または集団でロザリオの祈りを行います。それぞれの会員あるいは会員グループがどの日のどの時刻に祈るかは、会の本部から毎月下達される指示によります。祈りの行われるべき時刻は深夜や未明の時刻を含みます。この結果、いつもどこかで誰かがロザリオを祈っていることになります。「ロザリオ・ペルペトゥオ」(絶えざるロザリオ)という名称は、このような実践の在り方に基づきます。





 フランス革命を皮切りに市民革命や社会主義革命が続発した十八世紀、十九世紀は、カトリック教会にとって大きな試練の時でした。カトリック信仰におけるロザリオの重要性に変化はありませんでしたが、信心会会員が深夜や未明の割り当てを素直に受け容れる時代は過ぎ去りつつありました。十九世紀の人々は、日常生活の中の信仰を、現代人よりも格段に重視しました。それでも近代化すなわち世俗化の波は人々の精神を徐々に浸食し、信仰の業を生活の都合よりも優先させる人は以前よりも少なくなっていました。

 このような状況によりロザリオ・ペルペトゥオ(ロゼール・ペルペテュエル)も往時の勢いを失う中、リヨンのドミニコ会第三会会員ポーリーヌ・ジャリコ(Pauline-Marie Jaricot, 1799 - 1862)は、信心会ロゼール・ヴィヴァン(仏 le Rosaire vivant 活けるロザリオ)を設立します。ロゼール・ヴィヴァンは十五連のロザリオを毎日欠かさずに祈るための信心会ですが、ロザリオ・ペルペトゥオと違って会員は深夜や未明に起き出す必要が無く、日常生活の合間に担当の連を祈るだけで済みました。ロザリオ・ペルペトゥオに比べると、ロゼール・ヴィヴァンの実践が会員の生活に及ぼす影響と負担は格段に小さく済みました。


 しかしながら世俗化した社会に生きてはいても、いつも祈りを聖母に捧げ続けたいと願う信仰篤き人々も存在します。それゆえロザリオ・ペルペトゥオ(ロゼール・ペルペテュエル)は、近代になって目立たなくなったとはいえ、およそ三百年にわたって存続しました。本品は二十世紀初頭に制作されたものでありながら、世俗化した社会の雰囲気に流されない篤信の人々、ロザリオ・ペルペトゥオ会員のために制作されています。ロザリオ・ペルペトゥオのロザリオである本品は、ヨーロッパ社会の世俗化が未だ進んでいない十七世紀の精神に基づく信心具であり、信仰に生きる中世の空気を色濃く帯びています。


 センター・メダルはフランス語でクール(仏 cœur 心臓)と呼ばれ、聖母の心臓(汚れ無き御心)を象徴します。本品のクールは大きな帳(とばり)が開いた形で、ロザリオの元后の女王冠を戴いています。この帳、あるいは帳を模した壁龕(へきがん)型装飾は、ヨーロッパの聖堂内や街角において、聖母像や聖母子像を安置したくぼみ(龕 がん)を模(かたど)っています。

 壁龕の中の聖母は、球体の上に蛇を踏みつける無原罪の御宿りとして表されています。聖母が両手に嵌めた指輪から降り注ぐ恩寵の光は、受胎告知の際に「お言葉通りこの身に成りますように」と答えて救いを受け容れたマリアが、天地を繋ぐ恩寵の器であることを表しています。また六は完全数であるゆえに、本品クールの六角形は、無原罪の御宿りなる聖母から神とキリストに向かう愛の完全性をも表しています。




(上・参考画像)  Piero della Francesca, "Madonna della Misericordia", 1444 - 1464, olio e tempera su tavola, 273 x 330 cm, Il Museo Civico di Sansepolcro


 帳(とばり)がある六角形の形状は、大きなマントを広げて罪びとたちを庇い給うマドンナ・デッラ・ミゼリコルディア、ミゼリコルディア(憐れみ)の聖母を連想させます。上の画像はピエロ・デッラ・フランチェスカ(Piero della Francesca, 1412/17 - 1492)による「ミゼリコルディアの聖母」で、画家がボルゴ・サンセポルクロのミゼリコルディア信心会から 1444年頃に注文を受け、1464年までに制作した多翼祭壇画の中央パネルに描かれています。ボルゴ・サンセポルクロ(Borgo Sansepolcro 現サンセポルクロ Sansepolcro)はアペニン山中、トスカナ州アレッツォ県にある町で、ピエロ・デッラ・フランチェスカの出身地です。


 ロザリオの珠が無色のガラス製である場合、通常ならばファセット・カットされますが、本品の珠はガラスが融解したままの雫(しずく)のような形です。珠の一個が補修により置き換わっています。

 雫を思わせるガラスの珠は、罪人を執り成し給う聖母の涙を思わせます。「絶えざるロザリオ会」会員が唱える天使祝詞は一日じゅう途切れることなく天に立ち昇り、天からは聖母の執り成しによる恩寵が、罪びとを憐れみ給う愛の涙となって降り注ぐのです。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。

 本品は二十世紀初頭のフランスで制作された品物ですが、十七世紀前半に創設された信心会のロザリオであり、信仰に生きた中世ヨーロッパの心性が刻印されています。「絶えざるロザリオ会」は世俗化した近現代にはほとんど忘れ去られた信心会で、この会のロザリオはきわめて珍しい品物です。筆者(広川)は長年にわたって多数のアンティーク・ロザリオを取り扱っており、変わったロザリオを見ても多少のことでは驚きませんが、「絶えざるロザリオ会」のロザリオを手にしたのは本品が初めてで、手放しがたく感じます。しかしながらアンティークアナスタシアはアンティーク店であって博物館ではないので、大切にしてくださる方にお譲りいたします。

 「絶えざるロザリオ会」のロザリオはほとんど入手不可能ですので、キリスト教史の貴重な実物資料として保存していただくのも良いと思います。本品はそれだけの価値がある品物です。しかしロザリオは何よりもまず信心具であって、信心具は祈りに使われてこそ本来の価値を発揮するものです。それゆえ本品を祈りの道具として実用していただければ、最も価値がある使い方であろうと考えます。

 本品は百年以上前のフランスで制作された品物ですが、極めて良好な保存状態です。実用上、美観上とも特筆すべき問題は何もありません。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





本体価格 38,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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