ビーズにアメシスト(紫水晶)色のガラスを使用し、クルシフィクスとセンター・メダルにも紫色のエマイユをかけた美麗なロザリオ。
クルシフィクスは中心から先端部分に向かって曲線的に幅が広がる洗練されたデザインで、各先端部分も卵の先端のように丸みを帯びています。クッション型のセンター・メダルも丸みを帯びており、円形のエマイユ部分と相俟って優雅さを感じさせるシルエットです。さらにクルシフィクス、センター・メダルとも、彫金細工を施した上でエマイユをかけています。そのために色の濃淡が美しい効果を生み出し、精神性を感じさせるまでの深みをクルシフィクスとセンター・メダルに与えています。クルシフィクス、センター・メダルともに金属部分がゴールド色であるために、紫色との取り合わせが華やぎを生み出しています。
アメシストはクォーツの一種で、価格のこなれた宝石の印象があると思いますが、アメシストが手に入りやすくなったのは、大航海時代にブラジルで鉱脈が発見された後のことにすぎません。古代、中世の世界において、高貴な色である紫色の宝石アメシストは、他の宝石とは比較にならないほど高価でした。大司教の指輪をはじめ、皇帝、王侯貴族、高位聖職者のみが身に着けることを許された特別な色の宝石であったのです。
このロザリオのデザインをヨーロッパの文化的伝統という文脈に置いて読み解くならば、アメシスト色と金色の組み合わせによって至高の価値を表そうとしていることが理解できます。全能の神は、どのような方法で人間を救済することも可能であったはずなのに、ペルソナにおいて神である独り子イエズスを世に遣わして、そのイエズスが人性において言語を絶する苦しみを受けて死に至るという最も考えがたい方法で救世が成し遂げられました。十字架と茨の冠をセンター・メダルにあしらったこのロザリオに、至高の価値を表す彩が与えられたことは、蓋し当然といえましょう。