花嫁のヴェールのローゼンクランツ 使徒信条の十字架付 1800年頃のドイツ製 全長 43 cm


クルシフィクスを下にして吊り下げたときの、環状部分上端から下げ飾りの下端までの長さ  43 cm

環状部分の長さ   56 cm (28 cm x 2)


主の祈りと栄唱の珠の直径 6 mm

天使祝詞の珠の直径 5 mm


クレドクロイツのサイズ 23 x 22 mm  最大の厚さ 9 mm

突出部分を除くクルシフィクスのサイズ 28 x 28 mm  最大の厚さ 12 mm


シュヴェービッシュ・グミュント(南西ドイツ)  1800年頃



 クルシフィクスのすぐ上にクレドクロイツ(独 Credokreuz 使徒信条の十字架)を有するドイツ製のローゼンクランツ。ローゼンクランツ(独 Rosenkranz)とはドイツ語で「薔薇の花環」という意味で、ラテン語の「ロサーリウム」(羅 ROSARIUM)すなわち「ロザリオ」のことです。クレドクロイツがあり、センター・メダルを有さないローゼンクランツ(ロザリオ)は、ドイツのアンティーク品の特徴です。

 本品の材質は、ペルレン(独 Perlen 珠、ビーズ)を含め、全て銀白色の金属です。レプンツェ(独 Repunze 貴金属の検質印、ホールマーク)が無いので銀ではなく、ノイジルバー(独 Neusilber 「新しい銀」の意)と考えられます。ノイジルバーは銅、ニッケル、亜鉛の合金で、透かし細工や線細工等の加工がしやすく、耐腐食性にも優れています。ドイツにおいて、ノイジルバーは十八世紀後半以降に製造されました。アンティーク品とは組成が異なりますが、わが国の五百円硬貨もノイジルバーでできています。





 西ヨーロッパで最もよく見られる十字架は、縦木の中心よりも上に短い横木を付けた「ラテン十字」ですが、本品のクルシフィクスの十字架、及びクレドクロイツ(使徒信条の十字架)は、縦木の中心にこれと同じ長さの横木が付いた「ギリシア十字」となっています。

 本品のクルシフィクスは、ノイジルバーの十字架に、同素材で別作したコルプス(羅 CORPUS キリスト像)を鑞付け(ろうづけ 溶接)しています。十字架は透かし細工の大きな部品二枚を鋳造し、これを曲げて互いに鑞付けし、膨らみを持たせています。コルプス、表裏の交差部にある六弁の花、表裏の九か所に突出した粒上の飾りは、すべて別作の部品を鑞付けしています。下部の下げ飾りを含めると、本品のクルシフィクスは十八個もの部品を組み合わせて作られています。クロスの表裏にはミル打ち様(よう)の模様が施され、ヨーロッパ製アンティークジュエリー特有のクラシカルな表情を見せています。





 ドイツのアンティーク・ローゼンクランツには、クルシフィクスのすぐ上に、クレドクロイツが付いています。クレドクロイツ(独 Credokreuz)とはドイツ語で「使徒信条の十字架」という意味で、この十字架のところで使徒信条を唱えます。

 「クレードー」(羅 CREDO)は、「信じる」という意味のラテン語の動詞です。ラテン語を含む印欧語(インド=ヨーロッパ語)は、動詞の語尾が法、相、時制とアスペクト、人称、数に従って複雑に変化します。英語ではこの変化がいわば磨滅して単調になり、また複合形に頼るようになったので、動詞語形変化がほとんど無くなって、主語を明示する必要が生じました。フランス語の動詞の変化は英語に比べてずっと複雑ですが、語末の子音を発音しないゆえに耳で聞いて語形を判別できないので、やはり主語を明示します。しかるにスペイン語やイタリア語は動詞語尾の変化がよく保たれ、語尾の発音もはっきりとしているので、多くの場合、主語を言う必要がありません。ラテン語もこれと同じで、「クレードー」は主語が「私」であるときの現在形、詳しく正確に言えば直説法能動相現在一人称単数という形です。「クレードー」という語自体はあくまでも動詞で、「私」という代名詞を含みませんが、主語を付けて「私は信じる」「我信ず」と訳すことができます。

 「使徒信条」を「クレードー」というのは、冒頭にこの語があるからです。「使徒信条」(クレードー)の内容を、ラテン語と日本語で下に示します。日本語訳は筆者(広川)によります。

     Credo in Deum, Patrem omnipotentem, Creatorem cæli et terræ,     我は神を信ず。神は全能の父にして、天と地の造り主なり。
     et in Iesum Christum, Filium Eius unicum, Dominum nostrum, qui conceptus est de Spiritu Sancto, natus ex Maria Virgine, passus sub Pontio Pilato, crucifixus, mortuus, et sepultus, descendit ad inferos, tertia die resurrexit a mortuis, ascendit ad cælos, sedet ad dexteram Patris omnipotentis, inde venturus est iudicare vivos et mortuos.     我はイエス・キリストを信ず。イエス・キリストは神の独り子にして我らが主なり。聖霊によって宿り、おとめマリアから生まれ、ポンティウス・ピラトゥスのもとで苦しみ、十字架に付けられ、死に、葬られ、黄泉に降(くだ)り、三日目に死者たちの中から復活し、天に昇り、全能なる御父の右に座し給う。生ける者どもと死せる者どもを裁くために、天から来給うべし。
     Credo in Spiritum Sanctum, sanctam Ecclesiam catholicam, sanctorum communionem, remissionem peccatorum, carnis resurrectionem, vitam æternam.     我は聖霊、聖なる公同の教会、聖徒の交わり、罪びとの赦し、肉体の復活、永遠の生命を信ず。
     Amen.     アーメン。


 "CREDO" は語根を印欧基語まで遡れる古いラテン語です。もともとは商業用語で、与格と共に用い、「信用して貸す」「信託する」という意味ですが、やがて広義に「信用する」という意味を獲得しました。"CREDO IN acc." の形で用いるのは教会ラテン語で、ちょうど英語の "believe in acc." に相当します。





 クレドクロイツも透かし細工です。写真では分かりませんが、本品のクルシフィクスとクレドクロイツは作り方が違っていて、クレドクロイツはノイジルバーの針金を曲げて鑞付けした線細工によります。ミル打ち様の文様に関しても、本品のクルシフィクスに見られるミル打ち様文様は型によりますが、クレドクロスのミル打ち様文様は針金を細かくねじって作られています。本品のクレドクロイツは他の部分と同素材で、大きさもよく合っていますが、もともと別のローゼンクランツ(独 Rosenkranz 五連または十五連のロザリオ)あるいはゲベーツケッテ(独 Gebetskette 一連のロザリオ)に付いていたものを、本品に付け替えたのかもしれません。


 本品のペルレン(独 Perlen 珠、ビーズ)はクルシフィクス及びクレドクロイツと同じノイジルバー製で、大きな珠(主の祈りと栄唱の珠)の直径が六ミリメートル、小さな珠(天使祝詞の珠)の直径が五ミリメートルです。本品の珠はクルシフィクスの十字架と同様の作り方で、鋳造した透かし細工の部品を盃状に湾曲させ、ふたつを向かい合わせに鑞付けして立体性を持たせています。ミル打ち様装飾の付け方も、クルシフィクスの十字架と共通しています。





 筆者(広川)の手許にある資料(Urs-Beat Frei und Fredy Bühler, „DER ROSENKRANZ - Andacht, Geschichte, Kunst“, Benteli Verlag Bern, Museum Bruder Klaus Sachseln, 2003)に、一連の「ゲベーツケッテ」(Gebetskette)の写真が掲載されています。「ゲベーツケッテ」とはドイツ語で「祈りの鎖」という意味で、一連の小ロザリオを指します。上掲書において、当該の小型ロザリオは、おそらくドイツ南西部シュヴェービッシュ・グミュント(Schwäbisch Gmünd バーデン=ヴュルテンベルク州シュトゥットガルト県)において 1800年頃に制作されたものとされています。シュヴェービッシュ・グミュントはシュトゥットガルトから東に五十キロメートル弱離れたところにある人口六万人の小都市で、十六世紀以降、金銀細工が盛んなことで知られています。

 上掲書に掲載されているゲベーツケッテは、本品とは連の数が異なりますが、クルシフィクス、クレドクロイツ(使徒信条の十字架)、ペルレン(珠、ビーズ)とも、意匠がまったく同じです。本品の素材は金銀ではなくノイジルバーですが、細工の方法は金銀と同じで、細密な金属工芸を得意とする職人でなければ作ることができません。したがって本品もまた、おそらくシュヴェービッシュ・グミュントで、十八世紀末か十九世紀初頭に制作されたものと考えられます。





 本品はおよそ二百年前に南ドイツで制作された真正のアンティーク品です。たいへん古い品物ですが、保存状態は良好で、特筆すべき問題はありません。清らかな光を放つ銀色は、天使に「アヴェ、マリア。」と呼びかけられた少女にふさわしい清らかな輝きを放ちます。軽やかな透かし細工は、マリアが被る花嫁のヴェールを思い起こさせます。





42,800円

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