極稀少品 受難のキリストを抱く聖母 恩寵の光のシャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ ウランガラスのロザリオ 全長 51センチメートル メダイユ付


全長 51 cm


クルシフィクスのサイズ 39.3 x 23.8 mm (上部に突出した環状部分を含む)

ビーズの直径 約 7 mm


フランス  1890年代頃



 銀色の金属製クルシフィクスとクール(cœur センター・メダル)、希望の象徴である緑のガラス製ビーズを使用したシャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ(chapelet de la Vierge 聖母のロザリオ)。いまから百二十年ほど前、1890年代頃のフランスで制作された美しい品物です。





 本品のクルシフィクスとクール(cœur フランス語で「心臓」「センター・メダル」)、及びチェーンは銀色ですが、ポワンソン(ホールマーク 貴金属の純度の刻印)が無いので、銀ではありません。金(ホワイトゴールド)でもありませんが、ちょうどロジウムめっきを掛けない生(き)のままのホワイトゴールドのような、少し黄色味がかった温かみのある色をしています。





 十字架の各末端には、フルール・ド・リス(fleur de lys 百合文あるいはアヤメ文)が透かし彫りにされ、透かし彫りの内部にも小さなフルール・ド・リスをあしらっています。コルプス(キリスト像)は別作したものをしっかりと溶接し、クロスの交差部に後光、その上方にティトゥルス(TITULUS INRIの札)を彫り込んでいます。

 フルール・ド・リスはマリアが花嫁として神に選ばれたことの象徴であり、またマリアの「汚れ無さ」と「揺るぎなき信仰」をも表します。マリアは無垢(無原罪)なる永遠の処女であり、また神によって救い主の母に選ばれ、受胎告知の際には「お言葉通り、この身に成りますように」と答えて神の摂理に対する無条件の信頼を表明しました。マリアのこれらの属性を最も良く象徴するのがフルール・ド・リスであって、これは天使祝詞(アヴェ・マリア)を唱えるロザリオにこの上なくぴったりの装飾意匠であるといえます。





 それゆえ、本品のクルシフィクスにおいて、フルール・ド・リスをあしらった十字架は、聖母を象(かたど)っていると考えることができます。十字架が聖母であるならば、本品のクルシフィクスは、聖母が受難のイエスを抱く「ピエタ像」と見做すことが可能です。「カイレ・マリア」(Χαῖρε Μαρία 「アヴェ・マリア」「喜びなさい、マリア」)とガブリエルに祝福されて生まれた救世主イエスは、やがて十字架上で受難することによって救世を達成し給いました。「恩寵の器」である聖母に十字架を重ねた本品のクルシフィクスは、人知を絶するこのミステリウムを形象化したものに他ならず、本品に後付けされた「受難のテオトコス」像と同等の意味を持つ意匠であることがわかります。

 本品のクール(センター・メダル)は、日本美術の影響を受けて曲線を多用したアール=ヌーヴォー様式の植物文様で、マリアの "M" を描いています。クルシフィクスを下にして本品を吊り下げるとクールが倒立しますが、これは19世紀のフランス製ロザリオの特徴です。





 本品のビーズは透明ガラス製の十七面体です。融解したガラスを型に注いで成形していますが、各ビーズの接合面をよく見ると、手作業で研磨して綺麗に整えてあり、丁寧な作業に驚かされます。19世紀のガラス・ビーズは完全な手作り品であるために、ところどころに完全でない点があり、ガラス職人による手仕事の温かみを感じます。「主の祈り」と「栄唱」を唱える六個のビーズには、前後に金属製キャップが付いています。





 クラウン部分(環状に閉じた部分)のビーズのうち、第一連(最初の部分に「受難のテオトコス」のメダイが付いている連)のビーズが一個無くなり、九個となっています。また第二連の六個目がウラリン製の小さなビーズに、第三連の五個目が通常のガラス製のビーズに、それぞれ置き換わっています。信心具は活きて使われていた物であるゆえに、このような欠損や補修箇所があっても何ら不思議は無く、これらのちょっとした瑕疵(かし 欠点)を、私(広川)はアンティーク品が年月をかけて獲得した個性と考えています。


 第一連の最初にメダイが取り付けられています。メダイは直径 19.5ミリメートルのアルミニウム製で、一方の面に「受難のテオトコス」、もう一方の面に「キリストの聖心」を刻んでいます。メダイの年代はこのシャプレ(ロザリオ)と同じ 1890年代で、たいへん古いものですが、保存状態は極めて良好であり、突出部分もほとんど磨滅していません。





 「受難のテオトコス」は、ローマの聖アルフォンソ・デ・リゴリ教会 (Chiesa di Sant'Alfonso all'Esquilino) に安置されている「絶えざる御助けの聖母」(Nostra Madre del Perpetuo Soccorso) です。聖母子を取り囲む枠上に、執り成しを求めるフランス語の祈りが刻まれています。

  Notre-Dame de Perpetuel Secours, priez pour nous.  絶えざる御助けの聖母よ、我らのために祈りたまえ。

 上述のように、「受難のテオトコス」または「絶えざる御助けの聖母」は、マリアから生まれた救い主イエスが十字架上に刑死するという最も考え難い方法で、救世が達成されたことを表します。「受難のテオトコス」を表したこのメダイの浮き彫りは、「聖母子像」と「受難像」の複合であるゆえに、ピエタ像の変形である本品のクルシフィクスと、深いところで共通する図像なのです。

 このシャプレが制作された 1890年代は、キリストの聖心にフランスを奉献する「悔悛のガリア」(GALLIA POENITENS) の運動が盛んでした。メダイのもう一方の面に刻まれた聖心のキリストは、この精神史的文脈に位置づけられます。「悔悛のガリア」については別稿に譲ります。


(下・参考画像) イポリト=ジュール・ルフェーヴル (Hippolyte-Jules Lefebvre, 1863- 1935 作 「フランスの支配権をキリストに捧げる悔悛のガリア」 モンマルトルのサクレ=クールのバシリカ 祝別記念メダイユ 1919年10月16日 直径 60.4 mm 当店の販売済み商品








 本品のビーズの材料はウラリン (ouraline ウランガラス) と呼ばれる淡い黄緑色のガラスで、酸化ウランを含みます。酸化ウランは紫外線によって鮮緑色の強い蛍光を発します。砂漠に生まれたキリスト教の象徴体系において、水と植物の色である緑は「希望」を表すカノニカル・カラー(典礼色)です。

 上の写真は本品に対し人工的に紫外線のみを照射して撮影したもので、ウランの蛍光がよくわかりますが、紫外線は自然光にも豊富に含まれていますから、この蛍光は自然光の下でも観察できます。自然光の下でウラリンの蛍光を観察するには、晴れた日の夜明け前が適しています。下の写真は夜明け前の自然光で撮影したもので、撮影時の空の写真を添えました。紫外線を人工的に照射したときの強烈な蛍光に比べて、自然光による蛍光はずっと柔らかですが、綺麗な緑色の光を発しています。右寄りに置かれた三個の宝石は対照試料で、蛍光を発していません。







 本品は59個のビーズから成る「シャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ」(chapelet de la Vierge 聖母のロザリオ)で、6個のビーズで「栄唱」(グロリア)と「主の祈り」、53個のビーズで「天使祝詞」(アヴェ・マリア)を唱えます。「天使祝詞」の前半は受胎告知の際にガブリエルが語った言葉を元にしており、後半は「神の母」に執り成しを求める祈りとなっています。

 「シャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ」、とりわけ「天使祝詞」を唱えるためのビーズにウラリンが使われるのは、たいへん象徴的です。なぜなら本品において、ウラリンは「受胎告知」を象徴し、あるいは受胎告知を受け容れた恩寵の器、マリアを象徴していると考えられるからです。




(上・参考画像) シモーネ・マルティーニによる受胎告知 Simone Martini e Lippo Memmi, "L'Annunciazione tra i santi Ansano e Margherita", 1333, tempera e oro su tavola, 305 x 265 cm, La Galleria degli Uffizi, Firenze


 ウラリンのビーズは、間もなく太陽が昇る夜明け前、時が満ちて空を満たしつつも人間の目には未だ見えない紫外線を受けて、いちはやく可視光線に変え、希望を象徴する緑の輝きを見せてくれます。それと同様にマリアも、「ソール・ユースティティアエ」(SOL JUSTITIAE ラテン語で「義の太陽」)たるイエス・キリストが生まれる前に受胎の告知を受け容れ、人の望みにして喜びなるイエスを生みました。「カイレ・マリア」(Χαῖρε Μαρία 「アヴェ・マリア」「喜びなさい、マリア」)とはメシアの誕生を予告する言葉です。それゆえ日の出の直前に、あたかも間もなくメシアが誕生することを予告するかのように、希望の色である緑の輝きを見せるウラリンは、恩寵の通り道、聖母マリアのロザリオに、このうえなくふさわしいといえるのです。

 さらに、緑は生命を象徴します。「生命」(ハワ、ゾーエー)とは人祖アダムの妻の名前ですが、彼女は蛇の誘惑に負けて原罪を犯し、人間に死をもたらしました。しかるにマリアは「新しきエヴァ」であり、聖霊によって身ごもりイエスを生むことで、人間に生命をもたらしました。目に見えない紫外線を不可視の聖霊の光、緑の蛍光を「生命」そのものであるイエス・キリスト(「ヨハネによる福音書」 14章 6節他)と考えれば、緑の光を宿すウラリン製ビーズは、まさに聖母の象(かたど)りにほかなりません。


(下) フレデリック・ヴェルノン (Frédéric-Charles Victor de Vernon, 1858 - 1912) 作 「我は無原罪の御宿りなり」(「ノートル=ダム・ド・ルルド」あるいは「新しきエヴァ」) 縦 105 x 横 90 mm フランス 1908年頃 当店の商品







 本品は 19世紀のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず良好な保存状態です。クラウン部分のビーズのうち、一個が不足し、二個が置き換わっています。金属部分に破損はありません。ウラリンのロザリオはたいへん稀少で、めったに手に入りません。





本体価格 68,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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