稀少品 ルルドの聖母巡礼記念 闇に輝く光 「信仰と希望と愛」のシャプレ


全長 51 cm


クルシフィクスのサイズ 39.5 x 21.2 mm (突出部分を含む)

クールのサイズ 17.5 x 14.1 mm (突出部分を含む)


主の祈りのビーズの直径 7 - 8 mm

天使祝詞のビーズの直径 6 - 7 mm


フランス  1870年代



 1858年2月11日から7月16日にかけて、フランス南西部ミディ=ピレネー地域圏オート=ピレネー県の山中にある町ルルド(Lourdes)において、当時十四歳であった少女ベルナデット・スビルー(Bernadette Soubirous, 1844 - 1879)に対し、少女マリアすなわち後の聖母が出現しました。本品はルルドに出現したマリア、ノートル=ダム・ド・ルルド(Notre-Dame de Lourdes フランス語で「ルルドの聖母」)に執り成しの祈りを捧げるために作られたシャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ(chapelet de la Vierge 聖母のロザリオ)で、1870年代頃、わが国でいえば明治初期頃に制作された古い品物です。ビーズには不透明ガラスを使用しています。





 本品のビーズには無彩色である白と黒が使われています。無彩色は無機的な印象を与えがちですが、本品の場合はクルシフィクスとクール(cœur フランス語で「心臓」「センター・メダル」)、チェーンがいずれもブロンズでできており、茶系統の暖色であるために、優しい温かみを感じます。本品のブロンズは百数十年を経て美しいパティナ(古色)を獲得しており、本物のアンティーク品にしかない趣きを醸しています。





 クルシフィクスはブロンズ製の簡素なラテン十字で、打ち出し細工による同素材のコルプス(キリスト像)を三点で溶接しています。コルプスの頭上に表されることが多いティトゥルス(TITULUS 罪状書き、INRIの札)は略されています。




(上・参考写真) 日本趣味の切り紙による二面のカニヴェ 「神の母、おとめマリアの聖にして汚れなき御宿りは祝されよ」 108 x 66 mm 1860年代後半から 1870年代 当店の商品です。


 クール(cœur センター・メダル)の意匠はいずれの面も同一で、マリアの頭文字「エム」(M)に聖母の汚れなき御心を重ねています。上のカニヴェにも見られるように、聖母の汚れなき御心は、心臓の上部に十字架ではなく百合を描きます。本品のクールにおいても、心臓形の上部には、フルール・ド・リス(fleur de lys 百合花文)のような百合が造形されています。

 百合が「純潔」を象徴することは良く知られていますが、他にも「神の摂理に対する無条件の信頼」及び「神に選ばれた身分」の象徴でもあります。これら三つの属性は、受胎告知の際に「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答え、救いを受け容れた処女マリアに卓越的に当てはまります。それゆえ百合は棘の無い薔薇(ロサ・ミスティカ)と並んで、聖母マリアを最も良く象徴する花とされています。

 環状部分を上にしてシャプレ(ロザリオ)を吊り下げると、クールに透かし彫りにされた "M" は上下が逆向きになります。すなわち二十世紀のシャプレでは、環状部分を上、クルシフィクスを下にして吊り下げた場合に、クールの図柄は正立します。しかしながら本品では「エム」(M)が倒立して「ダブリュ」(W)のように見えます。このようにクールの図柄が倒立するのは十九世紀のフランスで制作されたシャプレの特徴です。また本品のクールは透かし細工となっていますが、これも十九世紀のフランス製シャプレに多用される意匠です。





 クルシフィクスの裏面には、フランス語で「スヴニール・ド・ノートル=ダム・ド・ルルド」(Souvenir de Notre-Dame de Lourdes ルルドの聖母巡礼記念)と刻まれています。

 ベルナデットが1858年に聖母を幻視した出来事は、1862年、教皇ピウス九世により、聖母による真正の御出現であると宣言され、ベルナデットが手で掘った泉も奇跡の泉と認められました。1876年には洞窟の上に聖堂が建てられました。本品の制作年代はルルドの聖堂が落成した 1870年代頃と考えられます。





 本品のビーズは艶消しの黒い不透明ガラスでできています。ビーズは完全な手作りで、ひとつひとつのサイズと形が微妙に異なります。それぞれのビーズには、白色不透明ガラスによる三か所ずつの斑点が、これも手作業によって付けられています。ビーズの数は五十九個で、すべて揃っています。


 ロザリオのビーズが木製である場合、色はたいてい黒ですが、ガラス製ビーズの場合は無色か白、または有彩色(赤、青、黄、紫、緑など、彩度を有する色)であるのが普通です。十九世紀のロザリオに黒のガラス製ビーズを使用した本品は、たいへん珍しい作例です。

 黒は「死」と「喪」の色であることはよく知られています。しかしながら「ヨハネによる福音書」 12章 24節において、「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(新共同訳)と書かれているように、死は再生の契機でもあります。それゆえ黒は「死」の象徴であると同時に、「再生」の色でもあります。


 本品ではそれぞれのビーズに三か所ずつの白点が打たれ、ビーズをどの方向から見ても必ず白い点が見えるように作られています。黒い木製ビーズの表面に塗料を使って白い点を描いても剥落しやすいですが、本品の白い点は不透明ガラスによるものであり、剥落の心配がありません。

 それぞれのビーズに打たれた三つの白点は、「喜び」「苦しみ」「栄え」の三玄義を表します。これらの玄義を黙想しながら唱える天使祝詞は、「カイレ・マリア Χαῖρε Μαρία」(アヴェ・マリア AVE MARIA)という冒頭の句が、救い主の誕生の予告となっています。すなわち天使祝詞は「ソール・ユースティティアエ」(SOL JUSTITIAE ラテン語で「義の太陽」 「マラキ書」 3: 20)、「ソール・インウィクトゥス」(SOL INVICTUS ラテン語で「不敗の太陽」)が昇ることの予告に他なりません。

 「ヨハネによる福音書」 1: 4 - 5は、この世に生まれ給うたキリストを「闇の中に輝く光」と表現しています。どの方向から見ても必ず白い点が見えるように工夫された本品のビーズのデザインは、キリストによってこの世にもたらされ、闇の中に輝く愛の光を象徴しています。本品のビーズの色は、黒と白の組み合わせにより、「死」や「喪」よりも、むしろ「救い主の誕生」と「永遠の死からの救い」、「再生」を表しているのです。

 なお光の点の数が三つであるのは、神が三位一体であるからです。キリストとしてお生まれになった神は三位一体の第二位格(子なる神)であって、第一位格(父なる神)や第三位格(聖霊なる神)ではありませんが、神は三にして一ですから、ペルソナ間のペリコーレーシス(希 περιχώρησις 相互浸透)に基づいて「ソール・ユースティティアエ」を三つの点で表しても何ら問題はありませんし、むしろ神の愛と受肉という究極のミステリウムを、強調的に表すことができます。




(上・参考写真) 「信仰と希望と愛」 枢要徳のペンダント 当店の販売済み商品です。


 三か所ずつの白点は、また、闇の中に輝く「信仰と希望と愛」をも表しています。「信仰と希望と愛」はキリスト教において最も重要とされる徳目(枢要徳)で、使徒パウロが「コリントの信徒への手紙一」13章 13節に書いている次の言葉に基づきます。

  信仰と、希望と、愛、この三つは、いつまでも残る。その中で最も大いなるものは、愛である。 (新共同訳)

 上の写真は枢要徳をテーマにしたフランスのペンダントで、十字架は信仰、錨は希望、心臓は愛を表します。三つの枢要徳は闇に輝く光であり、「マタイによる福音書」5章14節から16節に記録されているイエスの言葉を思い起こさせます。新共同訳によって該当箇所を引用いたします。

     あなたがたは世の光である。山の上にある町は、隠れることができない。また、ともし火をともして升の下に置く者はいない。燭台の上に置く。そうすれば、家の中のものすべてを照らすのである。そのように、あなたがたの光を人々の前に輝かしなさい。人々が、あなたがたの立派な行いを見て、あなたがたの天の父をあがめるようになるためである。

 この世に生まれ給うた救い主イエスは「闇の中に輝く光」(「ヨハネによる福音書」 1: 4 - 5)です。「ヨハネによる福音書」8章12節においても、イエスは「わたしは世の光である。わたしに従う者は暗闇の中を歩かず、命の光を持つ」と仰っています。しかるに、光であるイエスの愛に留まるキリスト者は、ちょうど葡萄の枝が葡萄の木に繋がっているように(「ヨハネによる福音書」 15章 1 - 10節)、光であるイエスに繋がって、「世の光」となります。したがって本品のビーズにある三か所ずつの白点は、「信仰と希望と愛」によって闇の中に輝く「世の光」(キリスト者)をも表しています。


 ちなみに白色不透明のガラスを作るのは、技術的にたいへん難しいことです。本品が作られたのと同時期、すなわち明治初年頃の日本では、白色不透明ガラスを独自に作ることができず、西洋で作られた白色不透明ガラスの破片を融かして使っていました。本品の白色ガラスのように、薄い層が完全な不透明性を有するのは、十九世紀フランスにおけるガラス工芸が高い水準に到達していたことを示します。





 本品は百数十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず良好な保存状態です。ガラス製ビーズに欠損や特筆すべき破損は無く、金属部分の強度にも問題はありません。

 「ルルドのシャプレ(ロザリオ)」は珍しくありませんが、大抵はマサビエルにおける聖母出現の場面をクール(センター・メダル)にあしらったものです。しかるに最初期に制作された本品は、ともすればキッチュ(独 Kitsch 俗悪)に陥りがちな定型化を免れてつつ、「漆黒の闇に浮かぶ三つの光」が深い意味を担い、崇高な精神性を伴う作例に仕上がっています。





本体価格 28,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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