極稀少品 ラ・サレットの聖母 「罪」に抗する「信仰」 復活と再生の黒色ガラス フランスのアンティーク・ロザリオ


全長 53 cm


クルシフィクスのサイズ 36.0 x 23.0 mm (突出部分を含む)

クールのサイズ 15.2 x 13.1 mm (突出部分を含む)


主の祈りのビーズの直径 約 8 mm

天使祝詞のビーズの直径 約 6 mm


フランス  19世紀中頃



 1846年9月19日、フランス南東部ローヌ=アルプ地域圏イゼール県のコール (Corps) 近郊、ラ・サレット (La Salette) において、牛飼いの子供二人に対し、聖母マリアが出現しました。本品はこの聖母、ノートル=ダム・ド・ラ・サレット(Notre-Dame de la Salette フランス語で「ラ・サレットの聖母」)に執り成しの祈りを捧げるために作られたシャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ(chapelet de la Vierge 聖母のロザリオ)で、1850年代か60年代、わが国でいえば幕末頃に制作された古い品物です。ビーズには不透明ガラスを使用しています。





  本品のクルシフィクスとクール(cœur フランス語で「心臓」「センター・メダル」)、及びチェーンは、すべて鉄でできています。これら鉄製部品はもともと銀色であり、ビーズも無彩色ですが、冷たい印象を受けないのは、鉄製部品のところどころに錆(酸化鉄)が生じて赤みがかっているせいです。錆(さび)といってもロザリオの強度や実用性に影響するほどではなく、本品が百数十年を経て獲得した「古色」、あるいは本物のアンティーク品にしかない「趣き」と呼んでよいでしょう。





 十字架は鉄を打ち抜いたもので、幅広のラテン十字末端をカドリロブ(四つ葉型)と融合させています。交差部の円形装飾は通常であればそのままコルプス(キリスト像)の後光となりますが、本品の交差部円形装飾はたいへん大きく、後光との間に生じた空間に "JHS" の三文字を配しています。コルプスの頭上に表されるティトゥルス(TITULUS INRIの札)は略されています。

 "JHS" はギリシア文字の「イオタ・エータ・シグマ」ですが、字体がラテン文字の影響を受けて、「ジェイ・エイチ・エス」のように見えます。「イオタ・エータ・シグマ」はギリシア語で「イエス」を表す「イエースース」(Ἰησοῦς, JHSOYS) の語頭三文字によるモノグラムです。

 十字架にコルプス(キリスト像)は、身長 15ミリメートル、頭部の直径 2ミリメートル、手の長さ 1ミリメートルという小さなサイズですが、人体各部の比例や筋肉の付き方を正しく再現しており、打刻による簡素な作りながらも優れたできばえです。頭部が大きく見えるのは茨の冠のせいです。

 十字架は腕木に金槌と釘抜きが付いた特徴的な意匠です。金槌はキリストの両手両足に釘を打ち込むためのもので、キリストを受難に至らせた人間の罪を象徴します。一方釘抜きはキリストを十字架から降ろす際に使われた道具で、罪と対極にある徳と信仰を表します。金槌と釘抜きは、十字架と同様に、「アルマ・クリスティ」(ARMA CHRISTI)、すなわちキリストの受難に関係のある道具類の一部です。ノートル=ダム・ド・ラ・サレット(ラ・サレットの聖母)は首に鎖を掛けていて、鎖から下がった十字架には金槌と釘抜きが取り付けられていました。

 クール(cœur センター・メダル)は磨滅して細部が分かりづらくなっていますが、19世紀フランスのシャプレに特徴的な形で、聖所の帳(とばり)を広げた様子を模(かたど)り、頂部に聖母の冠を戴きます。クール内部には、ふたりの牛飼いの子供、15歳の少女メラニー・カルヴァと11歳の少年マクシマン・ジロー に、ラ・サレットの聖母が出現した場面が打刻されています。聖母は子供たちに向かって預言を語り、祈りを勧め、子供たちは聖母の言葉に耳を傾けています。





 クルシフィクスの裏面には、フランス語で「スヴニール・ド・ノートル=ダム・ド・ラ・サレット」(Souvenir de Notre-Dame de la Salette 「ラ・サレットの聖母」巡礼記念)と刻まれています。「ノートル=ダム・ド・ラ・サレット」は、ラ・サレットに出現した聖母の呼称でもあり、聖母が出現した場所に建てられた聖堂の名称でもあります。

 聖母出現の場所に聖堂の建設が始まったのは 1852年5月25日、聖堂が完成したのは 1865年、バシリカになったのは 1879年です。このシャプレが作られたのがいつの時点であるかはっきりとわかりませんが、1865年か、あるいはそれ以前であろうと思われます。なぜならば、1858年にルルドに聖母が出現すると、聖母出現の他の聖地はあまり注目を集めなくなってしまうからです。

 クールのもう一方の面には、岩に腰かけて泣くラ・サレットの聖母が刻まれています。





 本品のビーズは艶消しの黒い不透明ガラスでできています。ビーズは完全な手作りで、ひとつひとつのサイズと形が微妙に異なります。それぞれのビーズには、白色不透明ガラスによる三か所ずつの斑点が、これも手作業によって付けられています。ビーズの数は 59個で、すべて揃っています。


 ロザリオのビーズが木製である場合、色はたいてい黒ですが、ガラス製ビーズの場合は無色か白、または有彩色(赤、青、黄、紫、緑など、彩度を有する色)であるのが普通です。19世紀のロザリオに黒のガラス製ビーズが使われるのは珍しく、私自身初めて目にしました。

 黒は「死」と「喪」の色であることはよく知られています。しかしながら「ヨハネによる福音書」 12章 24節において、「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」(新共同訳)と書かれているように、死は再生の契機でもあります。それゆえ黒は「死」の象徴であると同時に、「再生」の色でもあります。


 本品ではそれぞれのビーズに三か所ずつの白点が打たれ、ビーズをどの方向から見ても必ず白い点が見えるように作られています。黒い木製ビーズの表面に塗料を使って白い点を描いても剥落しやすいですが、本品の白い点は不透明ガラスによるものであり、剥落の心配がありません。

 それぞれのビーズに打たれた三つの白点は、「喜び」「苦しみ」「栄え」の三玄義を表します。これらの玄義を黙想しながら唱える天使祝詞は、「カイレ・マリア Χαῖρε Μαρία」(アヴェ・マリア AVE MARIA)という冒頭の句が、救い主の誕生の予告となっています。すなわち天使祝詞は「ソール・ユースティティアエ」(SOL JUSTITIAE ラテン語で「義の太陽」 マラキ 3: 20)、「ソール・インウィクトゥス」(SOL INVICTUS ラテン語で「不敗の太陽」)が昇ることの予告に他なりません。

 したがって、どの方向から見ても必ず白い点が見えるように工夫された本品のビーズのデザインは、闇の中に輝く光(ヨハネ 1: 4 - 5)を象徴しています。本品のビーズの色は、黒と白の組み合わせにより、「死」や「喪」よりも、むしろ「救い主の誕生」と「永遠の死からの救い」、「再生」を象徴しているのです。


 ちなみに白色不透明のガラスを作るのは、技術的にたいへん難しいことです。本品が作られたのと同時期、すなわち明治初年頃の日本では、白色不透明ガラスを独自に作ることができず、西洋で作られた白色不透明ガラスの破片を融かして使っていました。本品の白色ガラスのように、薄い層が完全な不透明性を有するのは、19世紀フランスにおけるガラス工芸が高い水準に到達していたことを示します。





 本品はおよそ百五十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず良好な保存状態です。ガラス製ビーズに欠損や特筆すべき破損は無く、金属部分の強度にも問題はありません。ラ・サレットにおける聖母出現は、十二年後に起こったルルドの聖母出現の陰に隠れて、すっかり目立たなくなってしまいました。ルルドの聖母をテーマに制作されたシャプレ(ロザリオ)は数多く見られますが、ラ・サレットの聖母にまつわるものはたいへん稀少で、めったに手に入りません。





本体価格 28,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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