1910年代前半頃のドイツで制作された「七つの悲しみの聖母のロザリオ」。
ロザリオの始まりは大きな楕円形メダイで、クラウン(環状の部分)には週(連)と週の間にひと回り小さな楕円形のメダイを配します。片面の図柄はすべてのメダイに共通で、7本の剣で心臓を刺し貫かれたマーテル・ドローローサ(MATER DOLOROSA 悲しみの聖母)の姿を、打刻による浅浮き彫りによって表しています。信仰深いマリアの心臓は剣に刺し貫かれながらも、神とイエズスに対する愛の炎を噴き上げています。
悲しみの聖母に執り成しを求める祈りの言葉が、最初のメダイではドイツ語で、クラウン部分のメダイではラテン語で、それぞれ聖母を取り囲むように刻まれています。
Schmerzhafte Mutter, bitte für uns. 悲しみの聖母よ、我らのために祈り給え。(ドイツ語)
MATER DOLOROSA, ORA PRO NOBIS. 悲しみの聖母よ、我らのために祈り給え。(ラテン語)
メダイのもう片面には、メダイごとに異なる聖母の悲しみの場面を、打刻による浅浮き彫りで表しています。クラウン部分の七枚のメダイに刻まれた情景は次の通りです。なお表の番号(1から
7)は、下の写真にある赤い数字に対応します。
1 | .. | 幼子イエズスに関するシメオンの預言 | .. | ルカによる福音書 2章34 - 35節 | ||
2 | エジプトへの逃避 | マタイによる福音書 2章13 - 15節 | ||||
3 | 3日のあいだ少年イエスとはぐれたこと | ルカによる福音書 2章43 - 45節 | ||||
4 | 十字架を背負って歩くイエズスと出会ったこと | ルカによる福音書 23章27節 | ||||
5 | イエズスの十字架のもとに立ったこと | ヨハネによる福音書 19章25 - 27節 | ||||
6 | 十字架から降ろしたイエズスの遺体を抱きとめたこと | マタイによる福音書 27章57 - 58節 | ||||
7 | イエズスの遺体を埋葬したこと | ヨハネによる福音書 19章40節 |
上の写真中央に写っているのは、クルシフィクスに相当する最初のメダイです。このメダイには、聖母の七つの悲しみのうちでも最大の悲しみ、すなわちイエズスの受難の場面が再び取り上げられ、エルサレム神殿とゴルゴタの立ち木、死の象徴である円錐形の糸杉を背景に、十字架上のイエズスと、十字架の傍らに座りこんで嘆くマリアの姿が浮き彫りにされています。メダイの上部にはドイツ語で次の言葉が記されています。
Im Kreuz ist Heil! 救いは十字架にあり。
ビーズは直径 6 ~ 7ミリメートル前後で、同心円状の模様が刻まれています。素材はベークライトです。ベークライトはオールド・プラスチックの一種で、素材の樹脂を熱で硬化させて半製品を作り、そのひとつひとつを切削、研磨して品物を完成させます。手作りの要素が大きいこのような特性ゆえに、本品のビーズもサイズや形、模様の入り方がそれぞれ異なり、時間と手間をかけて作られた物だけが持つ温かみが感じられます。
本品はおよそ百年前に制作された真正のアンティーク品ですが、たいへん良好な保存状態です。ビーズにも金属部分にも破損は無く、チェーンの強度にも問題はありません。