ベル・エポックの高級品 銀と真珠母による「ロレトの聖母のシャプレ」 アール・ヌーヴォーの日本風彫金


ロザリオの全長 45.5 cm

クルシフィクスを下にしてロザリオを吊り下げたときの、ロザリオ上端からセンター・メダル上端までの長さ  28 cm


主の祈りと栄唱のビーズの直径 約 9 mm

天使祝詞のビーズの直径 約 7.5 mm


クルシフィクスのサイズ  37.3 x 23.0 mm  最大の厚み 4.0 mm


フランス  19世紀末から 1910年代前半



 銀と真珠母による「ロレトの聖母のシャプレ」。ベル・エポック期、すなわちフランスが繁栄を謳歌した 19世紀後半から1910年代前半頃に制作された美しいシャプレで、その作りは美術工芸品の水準に達しています。





 「ロレトの聖母のシャプレ」は四連のシャプレ(数珠、ロザリオ)で、「シャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ」(聖母のシャプレ 五連のロザリオ)のクラウン(環状部分)から、一連を取り除いた形をしています。

 「ロレトの聖母のシャプレ」を使用する際、最初の三回の天使祝詞は通常通りの唱え方ですが、第一連では「アヴェ・マリア、御父の愛娘、…」、第二連では「アヴェ・マリア、御子の御母、…」、第三連では「アヴェ・マリア、聖霊の浄配、…」、第四連では「アヴェ・マリア、聖なる三位一体の宮、…」という風に、マリアの称号を挿入して天使祝詞を唱えます。最後にクレド(使徒信条)を唱えます。





 本品のクルシフィクスは、透かし細工の銀製十字架に、同素材で別作したコルプス(キリスト磔刑像)を鑞(ろう)付けしています。ロザリオのコルプスはごく小さいため、金属板を型抜きして打ち出し細工で三次元性を持たせた作例がほとんどですが、本品のコルプスは立体的に鋳造されています。本品は信心具の最高級素材である800シルバー(純度 800/1000の銀)が使われているゆえに、打ち出し細工で材料を節約するのが普通ですが、本品はコストよりも出来栄えを重視して贅沢な作りになっていることがわかります。コルプスの彫刻そのものもたいへん丁寧に作り込まれています。

 十字架は直線的シルエットの小さなラテン十字を意匠の中核としつつ、日本美術の強い影響を受けたアール・ヌーヴォー様式を取り入れて、曲線的な植物文による透かし細工で末端を飾っています。十字架交差部に表されたキリストの後光からは、百合と思(おぼ)しき植物が四方に発出し、末端に三輪ずつの花を咲かせています。百合は日本美術風の写実性を保ちながらも半ば様式化されており、それぞれの花がフルール・ド・リスのように見えます。また各末端部は三輪の百合が集合的にフルール・ド・リスを形作っているようにも見えます。

 「百合」は聖母の象徴です。「フルール・ド・リス」も百合に準ずる象徴性を有し、やはり聖母の象徴ですが、「フルール・ド・リス」の三枚の花弁は三位一体をも表します。本品は「ロレトの聖母のシャプレ」であり、「御父の愛娘、御子の御母、聖霊の浄配」なるマリアへの祈りに用いられるゆえに、聖母を象徴する「百合」と、三位一体を象徴する「フルール・ド・リス」は、本品の十字架に最も適切な意匠であるということができます。十字架交差部から生え出でる百合は四本ですが、この数字は「ロレトの聖母のシャプレ」が四連の数珠であることに対応しています。





  フランス語でクール(cœur 心臓、ハート)と呼ばれるセンター・メダルは、クルシフィクスと同様に銀製で、マリアの "M" と十字架を組み合わせています。こちらの植物文は葡萄の葉かアカンサスのようにも見えます。植物種を特定できない反面、植物の活き活きとした自然さを損なうまでに様式化が進んではおらず、やはり日本美術及びアール・ヌーヴォーの影響を指摘することができます。





 十字架の上部、及びクールの下部に、800シルバーを示すフランスのホールマーク、「イノシシの頭」が刻印されています。

 十字架上部の環にある菱形は、パリ、サン・ジル通り12番地にあった金銀製品工房「メゾン・アレクサンドル・スリ」(Maison Alexandre Souris, 12 rue St Gilles, Paris) の刻印です。「メゾン・アレクサンドル・スリ」は 1893年から 1935年まで存続し、美術メダイユ、信心具としてのメダイユ、クルシフィクス、クール、指輪、エクス・ヴォートー(EX VOTO 教会に奉献する銀製の捧げ物)を制作していました。





 本品のビーズは真珠母(しんじゅも マザー・オヴ・パール)でできています。 主の祈りと栄唱のビーズは直径約 9ミリメートル、天使祝詞のビーズは直径約 7.5ミリメートルで、ひとつひとつが丹念に研磨され、サイズも形も良く揃っていますが、すべて手作業で制作されているために、わずかな歪(いびつ)さが残り、丁寧な手仕事の温かみを感じさせます。

 「真珠母」とは真珠貝の貝殻から削り出した装飾材料のことです。真珠母あるいは真珠貝が生み出す真珠はイエズス・キリストの象徴でもあります。「マタイによる福音書」13章45節から46節に記録されているキリストのたとえ話を新共同訳によって引用します。

  また、天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。高価な真珠を一つ見つけると、出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う。

 アレクサンドリアのオリゲネス (Ὠριγένης, c. 184 – c. 253) は、このたとえ話の「真珠」がキリストを意味すると解釈しています(「マタイ福音書注解」 10巻9節)。真珠がキリストであるならば、真珠を生み出す貝、真珠母は、聖母マリアに他なりません。したがって真珠母でできた本品の十字架は、受難のイエズスを抱く聖母マリアの姿に他ならないのです。真珠母の白さはメシア(キリスト)の母となるべく神に選ばれた花嫁、すなわち「恋人よ、あなたはなにもかも美しく、傷(MACULA 汚れ)はひとつもない」(「雅歌」 4章 7節)という「無原罪の御宿り」(IMMACULATA CONCEPTIO) の清浄さを表しています。





 本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、たいへん良好な保存状態です。銀製のチェーン、クルシフィクス、クール、真珠母製のビーズとも、特筆すべき問題は何もありません。フランスが豊かであった「ベル・エポック」(la Belle Époque フランス語で「美しき時代」)に、手間とコストをいとわずに制作された美術工芸品レベルの信心具です。





32,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




ロレトの聖母のシャプレ(ロザリオ) 商品種別表示インデックスに戻る

聖母のロザリオとシャプレ 一覧表示インデックスに戻る


聖母のロザリオとシャプレ 商品種別表示インデックスに移動する

ロザリオとシャプレ 商品種別表示インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS