高級品 銀と真珠母のフランス製アンティーク 《長めのブレスレット型ロザリオ 聖体と聖杯のメダイ付》 サイズ調節可 十九世紀後半から二十世紀初頭


ブレスレットを一直線に伸ばして測った全長 245 mm

重量 19.8 g

有効長 175 mm / 210 mm


突出部分を含むメダイのサイズ 縦 25.5 x 22.4 mm


両端のビーズの直径 11 mm

中間の十個のビーズの直径 10 mm



 十九世紀後半から二十世紀初頭のフランスで制作されたブレスレット型ロザリオ。めっきではない銀による銀無垢製品です。ビーズは真珠母(しんじゅも マザー・オヴ・パール)でできています。




(上) Jean Auguste Dominique Ingres, "La Vierge adorant l'hostie", 1854, Huile sur toile, diamètre 113,0 cm, Musée d'Orsay


 キリスト教をテーマとする図像において、聖体が聖体容器上あるいは葡萄酒を入れる聖杯上に直立したり、中空に浮かんだりする様子がしばしば描かれます。またメダイや聖画の聖体には、イオタ・エータ・シグマのクリストグラム(仏 un christogramme キリストを象徴する組み合わせ文字)がしばしば書かれます。これらの描写は聖体がパンではなく、イエス・キリストその人であることを示します。ミサに使用される小麦のパンと葡萄酒は司祭の祈りによって実体変化を起こし、キリストの体と血の本質を備えるのです。

 実体変化はギリシア語メトゥーシオーシス(希 μετουσίωσις)、ラテン語トランススブスタンティアーティオー(羅 TRANSSUBSTANTIATIO)を漢訳したものです。しかるにスコラ哲学において、ウーシア(希 οὐσία 実体)、スブスタンティア(羅 SUBSTANTIA 実体)は、エッセンティア(羅 ESSENTIA 本質)、ナートゥーラ(羅 NATURA 自然本性)と同義です。

 したがって実体変化の語が意味するのは、実体変化後にパンと葡萄酒はもはや目に見える通りの物ではなく、十全な意味でキリストの体と血になっているということです。実体変化後のキリストの体と血は、たとえ外見がパンと葡萄酒のように見えても、パンと葡萄酒の本質を失い、それと入れ替わりにキリストの本質を獲得して、キリストの体と血になっているのです。





 本品の十字架型メダイには聖体、聖杯、小麦、葡萄が浮き彫りにされています。イエスと書かれた聖体が聖杯上の中空に浮かび光を放っているのは、実体変化を起こしてイエスその人となっていることの可視的表現です。小麦と葡萄が彫られているのは実体変化のミステリウム(神秘)を象徴するとともに、子なる神が救い主として受肉し給うたミステリウムをも表しています。

 およそ二千年前、イエスは神の子羊としてゴルゴタの十字架上に受難し給いました。しかしながら宗教的観点から見れば、イエスの受難は一度だけ起こった歴史上の出来事ではありません。ミサは世界中の何万何十万という場所で日々行われていますが、その度ごとにパンと葡萄酒はイエスの体と血に変わり、救い主は新たに受難し給うのです。

 したがって聖体と聖血が彫られた本品の十字架型メダイは、クルシフィクスと全く同じ意味を有します。通常のクルシフィクスと異なるのは、十字架型メダイの最下部に十字架と梯子が造形されていることです。十字架は救い主を受け容れず、それどころか殺害に及んだ人間の罪を表します。梯子は救い主の遺体を十字架から取り下ろすためのものであり、救い主を受け容れる信仰を象徴します。


 十字架型メダイに受難のキリストを表すだけではなく、梯子を彫ることで救い主を受け容れることを表明する本品は、初聖体またはコミュニオン・ソラネルを記念しています。

 初聖体は子供が最初に受ける聖体拝領であり、救い主イエスを文字通り自分の中に受け入れることです。子供が初聖体を受けるべき年齢に関しては、1215年の第四ラテラン公会議において、分別がつく12歳から14歳に達した子供が初聖体を許されると定められ、およそ七百年に亙ってこの方式が続きました。1910年になると秘蹟聖省(現在の典礼秘蹟省)の宣言によって、それまで12歳で行われていた初聖体の年齢は、7歳に早められました。その一方でフランスにおいては 12歳のときに行われる盛大な聖体拝領式が廃止されることなく存続しました。初聖体の年齢は7歳となりましたが、若者の信仰を高める機会として、また教理問答の勉強を継続する動機として、少年少女たちが12歳になれば、これまでと同様に盛大な集団的聖体式を挙行し、これをコミュニオン・ソラネル(仏 la communion solennelle 盛式聖体拝領)と呼ぶことにしたのです。

 初聖体とコミュニオン・ソラネルはいずれも人生の大きな出来事であり、本品はそのいずれかを記念しています。





 本品のビーズはフランス語でナークル(仏 nacre)、英語でマザー・オヴ・パール(英 mother of pearl)と呼ばれる真珠母(しんじゅも)でできています。ビーズはどれも少し歪(いびつ)で形とサイズにばらつきがあり、ひとつひとつ手作業で作られたものであることがわかります。栄唱と主の祈りのビーズは少し大きめで、直径は 9ミリメートルです。天使祝詞のビーズは直径 7ミリメートルです。大きなビーズの前後には、透かし細工の銀製キャップが取り付けられています。全てのビーズは丁寧に磨き上げられ、天然の貝に特有のシラー(独 Schiller)あるいはアデュラレッセンス(仏 adularescence 正長石かラブラドライトのように深みのある光沢)を放っています。


 二枚貝の軟体は女性器を連想させるゆえに、二枚貝から出てくる真珠は、女性から生まれる新生児になぞらえることができます。それゆえ世界の諸民族は、古来真珠を生殖力と生命力の象徴と見做してきました。キリスト教との関連でいえば、真珠はイエス・キリストが語られたたとえ話に登場します。「マタイによる福音書」七章六節、及び十三章四十五節から四十六節を、ギリシア語原文と新共同訳によって引用します。ギリシア語原文はネストレ=アーラント二十六版によります。

    マタイ 7:6  Μὴ δῶτε τὸ ἅγιον τοῖς κυσίν, μηδὲ βάλητε τοὺς μαργαρίτας ὑμῶν ἔμπροσθεν τῶν χοίρων, μήποτε καταπατήσουσιν αὐτοὺς ἐν τοῖς ποσὶν αὐτῶν καὶ στραφέντες ῥήξωσιν ὑμᾶς.  神聖なものを犬に与えてはならず、また、真珠を豚に投げてはならない。それを足で踏みにじり、向き直ってあなたがたにかみついてくるだろう。
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    マタイ 13:45 - 46  45 Πάλιν ὁμοία ἐστὶν ἡ βασιλεία τῶν οὐρανῶν ἀνθρώπῳ ἐμπόρῳ ζητοῦντι καλοὺς μαργαρίτας: 46 εὑρὼν δὲ ἕνα πολύτιμον μαργαρίτην ἀπελθὼν πέπρακεν πάντα ὅσα εἶχεν καὶ ἠγόρασεν αὐτόν.  また、天の国は次のようにたとえられる。商人が良い真珠を探している。高価な真珠を一つ見つけると、出かけて行って持ち物をすっかり売り払い、それを買う。


 十三章四十五節のたとえ話において、商人が全財産を売り払って一個の真珠(マルガリーテーン μαργαρίτην 単数対格形)を仕入れていることから、当時の良い真珠一個の値段は、現在の貨幣価値に換算すれば数千万円から数億円に相当したことが分かります。養殖真珠が出現する以前には、真珠は現代人には想像もつかないほどの貴重品でした。

 「フィロカリア」("φιλοκαλία")にも著作が収録されているギリシアの司教、フォーティケーのディアドコス(Άγιος Διάδοχος Φωτικής, c, 400 - c. 486)は、このたとえ話に出てくる真珠が至福直観(羅 BEATA INTUITIO)を表すと解釈しています。至福直観とは天国において神にまみえることであり、人間の知性(被造的知性)に許された最高の幸福です。至福直観は救いを主知主義的に表現したものであるといえます。またアレクサンドリアのオリゲネス(Ὠριγένης, c. 184 – c. 253)は、このたとえ話の真珠がキリストを意味すると解釈しています(「マタイ福音書注解」十巻九節)。すなわちキリスト教思想において、真珠は救いの象徴、恩寵の象徴、キリストの象徴とされているのです。





 真珠がキリストの象徴であり、あるいはキリストの属性である生命の象徴であるとすれば、真珠を生み出す真珠貝あるいは真珠母は、聖母の象徴に他なりません。マリアは受胎告知を受け容れて救い主を生み、罪びとに救いをもたらしました。それゆえ真珠を救いの象徴、神の恩寵の象徴と考えても、真珠をもたらす真珠母は恩寵の器(恩寵の通り道)なるマリアを表すことになります。

 本品は十二個の真珠母製ビーズを有します。これは「ヨハネによる福音書」 12章 1節に記述され、不思議のメダイ等でも聖母が被っている冠の星と同じ数です。またそもそもロザリオは聖母に執り成しを祈る信心具であり、聖母崇敬の象徴といえます。


 新石器時代以来、月はコスモス(希 κόσμος)の全階層に力を及ぼしてあらゆる律動を統御し、あらゆる植物を成長させ、あらゆる動物と女を孕ませると考えられてきました。海面に浮上した真珠貝が月の光を浴びることで真珠が出来るという古代の伝承も、月を生命の源とする考えに基づきます。この伝承をキリスト教のコンテクストに移すならば、月は神、真珠貝は聖霊によって身ごもったマリア、真珠はイエスになります。

 それゆえクルシフィクスに相当する十字架型メダイに真珠母製ビーズを組み合わせた本品ブレスレット型ロザリオは、「ピエタ」の図像と同様に、真珠母に象徴される聖母が受難のキリストを抱いている姿を抽象化・象徴化して表したものと解釈できます。





 本品ブレスレット型ロザリオには大きめの環が二か所に取り付けられており、これに引き環を掛けると、本品のサイズ(手首回りの長さ)は 175ミリメートルまたは 210ミリメートルとなります。しかしながら引き環は大きな環以外のリンクにも掛けることが十分に可能です。大きな環以外のリンクに引き環を掛けると、本品のサイズは 165ミリメートルから 210ミリメートルに無段階に調節できます。

 初聖体またはコミュニオン・ソラネルのブレスレット型ロザリオは、最初の聖体拝領式だけに着けられ、あとはしまい込まれてしまうことも多くありました。しかしながら本品はサイズを柔軟に変えることができ、大人にとっても充分な長さまで調整可能です。大きなサイズのビーズは壊れにくく、金属部分の作りもしっかりしていて、長期に亙り愛用できるブレスレットに仕上がっています。





 本品は銀無垢(ぎんむく)製品で、金属部分は銀でできています。銀無垢製品とは銀めっき製品でなく、銀そのもので作られた製品のことです。

 上の写真で右側に写っているのは十字架型メダイ上部に突出した環で、純度八百パーミル(800/1000 八十パーセント)の銀を示す検質印(ホールマーク)と、フランスの銀細工工房のマークが刻印されています。左側に写っているのはメダイと反対側の大きなビーズに繋がる鎖のリンクで、純度八百パーミルの銀の検質印が二か所に見えます。八百パーミル(八十パーセント)はフランスで制作されたアンティーク銀製品の標準的な純度です。





 フランスには純度八百パーミルの銀を示す二種類の検質印があります。モネ・ド・パリ(仏 la Monnaie de Paris パリ造幣局)の検質印はテト・ド・サングリエ(仏 la tête de sanglier イノシシの頭)、それ以外の検質所の検質印はクラブ(仏 crabe 蟹)を模(かたど)りますが、純度は同じです。本品の検質印は蟹を模っています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は百年以上前のフランスで製作された真正のアンティーク品ですが、極めて良好な保存状態です。大人も使えるサイズであるうえに長さも調整可能な本品は、長年に亙って愛用できる丈夫さを兼ね備えていますが、本品はほとんど使用されずに保管されていたらしく、メダイの突出部分もまったく摩滅していません。リンクや留め金にも摩耗は見られず、留め金の開閉もスムーズです。実用上、美観上とも特筆すべき問題は何もありません。





本体価格 24,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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