燃ゆる潅木


スクリーン・フォトグラヴュア  109 x 68 mm

1920年代  フランス



 上質の中性紙を使用した小聖画。聖画に描かれているのは燃える潅木(燃える柴)のなかに現れた聖母マリアと幼子イエズス、それを見上げて驚くモーセと、モーセに現れた主の使い(天使)です。

 原画はニコラ・フロマン (Nicolas Froment, fl. 1461 - 1483) の作品です。ニコラ・フロマンはルネサンス初期のフランスの画家で、フランス美術にフランドル絵画の要素を導入したことで知られています。この作品もまさにフランドル絵画そのもので、フロマンの作品であるという予備知識が無ければ、まさかフランスの画家の作品であるとは思わないでしょう。


(下) Nicolas Froment, Le Buisson Ardent, 1476, 410 x 305 cm, Cathédrale Saint Sauveur, Aix-en-Provence




 燃える潅木は、出エジプト記 3章において神がモーセに最初に現れたときの姿で、フラマンの作品においても右下にモーセが描かれています。左下にいるのは、燃える潅木の炎の中から現れた天使です。

関連テキスト 出エジプト記 3章 1 - 3節 新共同訳

モーセは、しゅうとでありミディアンの祭司であるエトロの羊の群れを荒れ野の奥へ追って行き、神の山ホレブに来た。そのとき、柴の間に燃え上がっている炎の中に主の御使いが現れた。彼が見ると、見よ、柴は火に燃えているのに、柴は燃え尽きない。モーセは言った。「道をそれて、この不思議な光景を見届けよう。どうしてあの柴は燃え尽きないのだろう。」



 中世の神学者たちは旧約聖書に描かれている出来事を新約聖書の出来事の予表と捉えて解釈しました。火がついているのに燃え尽きない潅木(柴)も、神なるイエズスを身籠りながら身体に何の危害も受けず、またイエズスを出産したあとも処女であった聖母マリアの予表であると考えられました。新約聖書には聖母マリアとイエズスが燃える潅木に現れる記述はみられませんが、この絵はふたりを燃える潅木のなかに置くことによって、イエズスが普通の人間ではなく、三位一体の第二のペルソナ、子なる神であること、さらに聖母マリアが「神の母」(テオトコス)にして永遠の処女であるということを表現しています。

 私は非常に強い近視で、微細なものが裸眼でよく見えますが、最初この聖画は古典的なフォトグラヴュアだと思いました。高倍率のルーペで精査して初めて、スクリーン・フォトグラヴュアであることがわかりました。現代の一般的なスクリーン・フォトグラヴュアよりもはるかに精密に複製されており、非常に高品質の聖画といえます。本品の版元はパリの老舗ブアス=ルベル (Bouasse-Lebel, Paris) です。裏側は白紙です。





(参考価格 2,800円)



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